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【詩】 白昼夢

私のちいさく迷い気な手は
温かくたしかな母の手をとり
午後の渚を歩いていた

       ※

寄せては返し高鳴る海が
弾けたソーダ水のように
辺りを浸す

黄色い声で鳴く海鳥が
青い空をどこまでも
高く翔けていく

見渡す限り続く浜辺の上で
両手にすくった銀の砂
指と指の間からこぼれては

さらさらと
光をなして
流れていく

変わることのない潮の香り
刻まれる二つの影
交差しながら揺れ動く

止めどなく波は波を手繰り寄せ
生まれる幾重の瞬間に
時は侵食されていく

おぼろげに遥かな海の上を眺め
一艘のヨットが遠のき
水平線に溶けていく

       ※

私の固く皺の浮かぶ手は
ちいさく柔らかな孫の手をとり
午後の渚を歩いていく

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