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夏目漱石「行人」考察

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夏目漱石「行人」考察です。「行人」はスパイファミリーである?
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2024年4月の記事一覧

夏目漱石「行人」考察(10) 一郎の苦悩は「モテたいよ」

夏目漱石「行人」考察(10) 一郎の苦悩は「モテたいよ」

1、一郎の苦悩に即座につっこむ二郎
「御前メレジスという人は知ってるか」
「名前だけは聞いています」
(略)
「その人の書翰の一つのうちに彼はこんな事を云っている。――自分は女の容貌に満足する人を見ると羨ましい。女の肉に満足する人を見ても羨ましい。自分はどうあっても女の霊というか魂というか、所謂スピリットを攫まなければ満足が出来ない。それだからどうしても自分には恋愛事件が起らない」
「メレジスって

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夏目漱石「行人」考察 芳江は直と一郎の子ではない?(9) 芳江は誰の子?

夏目漱石「行人」考察 芳江は直と一郎の子ではない?(9) 芳江は誰の子?

(写真は、新宿区立漱石山房記念館で購入したグッズを、私が撮影したものです。)
https://soseki-museum.jp/

1、一郎は子ができない?
これまで散々、芳江は直と一郎の子ではない旨を書いてきた。

では誰のどういう子かというと、現時点での私の推測では、

「一郎がなんらかの事情で子づくりできないため、直側の親戚の子を、密かに養子にもらった。対外的には実子として育てている」

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夏目漱石「行人」考察 芳江は直と一郎の子ではない?(8)―2 なぜか離婚されない直

夏目漱石「行人」考察 芳江は直と一郎の子ではない?(8)―2 なぜか離婚されない直

1、小姑にも堂々と喧嘩を売る嫁・直
前回の記事で、直があまりに堂々と夫・一郎との不仲を、家族や客に隠さずにいることを書いた。

さらに直は、小姑であるお重にも、堂々と喧嘩を売っている。
前にも引用したが

「おや今日はお菓子を頂かないで行くの」とお重が聞いた。芳江は其処に立ったまま、どうしたものだろうかと思案する様子に見えた。嫂は「おや芳江さん来ないの」とさも大人しやかに云って廊下の外へ出た。今ま

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夏目漱石「行人」考察 芳江は直と一郎の子ではない?(8)―1 なぜか離婚されない直

1、堂々と不仲をみせつける嫁・直
「あれだから本当に困るよ」と母が云った。
(略)
「―― 直の方から少しは機嫌の直るように仕向けて呉れなくっちゃ困るじゃないか。あれを御覧な、あれじゃまるで赤の他人が同なじ方角へ歩いて行くのと違やしないやね。なんぼ一郎だって直に傍へ寄って呉れるなと頼みやしまいし」
 母は無言のまま離れて歩いている夫婦のうちで、唯嫂の方にばかり罪を着せたがった。これには多少自分にも

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夏目漱石「行人」考察 芳江は一郎と直の子ではない?(7) 「一人っ子」確定

1、二人目はいらない?
これまで、芳江の存在自体にほとんど誰もふれない・語り手の二郎も想起しない不自然さについてふれてきた。

似たような話であるが、一郎・直夫妻について

・「そろそろ二番目の子は」~ との話が全く一度も語られない・語り手の二郎が内心での想起もしない

またこれと重なるが

・一郎が長野家の長男であるにもかかわらず、「男の子も~」との話が全く一度も語られない。これも二郎も想起もし

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夏目漱石「行人」考察 芳江は一郎と直の子ではない?(6) Hさんの手紙

夏目漱石「行人」考察 芳江は一郎と直の子ではない?(6) Hさんの手紙

1、Hさんの手紙でも一切ふれられない娘・芳江

(1)「三十七」の家族話

「行人」は終盤、一郎の友人・「Hさん」から二郎に宛てた長い長い手紙で締めくくられる。
この手紙は「塵労」の二十八章の途中~最終五十二章まで続く。一郎とHさんが二人で旅行している最中にHさんが記したことになっている。

そして例によって、この計二十四章に渡る手紙で知らされる一郎とHとの会話の中で、一度も、ただの一度も芳江につ

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夏目漱石「行人」考察 芳江は一郎と直の子ではない?(5) 自宅で急に出て来る

夏目漱石「行人」考察 芳江は一郎と直の子ではない?(5) 自宅で急に出て来る

(画像は、新宿区立漱石山房記念館内の展示を私が撮影したものです)

https://soseki-museum.jp/

1、ようやく名前が示される「芳江」
繰り返すが、芳江の存在については大阪旅行中わずかに1回だけ、直とお兼との会話でふれられる。

―― 最後に子供の話が出た。すると嫂の方が急に優勢になった。彼女はその小さい一人娘の平生を、さも興ありげに語った。――

(「兄」四)
(※ 著作権

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夏目漱石「行人」考察 芳江は一郎と直の子ではない?(4) みな自宅以外では芳江を想起しない・紀三井寺のベンチ

夏目漱石「行人」考察 芳江は一郎と直の子ではない?(4) みな自宅以外では芳江を想起しない・紀三井寺のベンチ

(画像は新宿区立漱石山房記念館内の、無料公開箇所の展示を私が撮影したものです)
https://soseki-museum.jp/

(夏目漱石は本名・金之助。養子先の塩原家から実家に引越しても戸籍はしばらく移せなかったので、若い頃は本名が「塩原金之助」
「塩原金之助」の卒業証書)

1、例によって存在にふれられない娘・芳江
「それでは打ち明けるが、実は直の節操を御前に試して貰いたいのだ」

(「

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夏目漱石「行人」考察 芳江は一郎と直の子ではない?(3)―B みな自宅外では芳江を想起しない・和歌山の夜

夏目漱石「行人」考察 芳江は一郎と直の子ではない?(3)―B みな自宅外では芳江を想起しない・和歌山の夜

(画像は、新宿区立漱石山房記念館の展示物です。撮影は私)

https://soseki-museum.jp/

1、和歌山の夜でも想起されない娘・芳江

「行人」で前半部分にして最大のクライマックス、二郎と嫂(あによめ)・直とが二人きりで嵐の晩をすごす和歌山の夜である(「兄」二十七~三十九)。

その晩を含む大阪旅行全体で芳江の存在はたった一度しかふれられていない。それ自体不自然だが、この和歌山

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夏目漱石「行人」 芳江は一郎と直の子ではない?(2)―A みな自宅外では芳江を想起しない・大阪旅行編

夏目漱石「行人」 芳江は一郎と直の子ではない?(2)―A みな自宅外では芳江を想起しない・大阪旅行編

1、自宅の外では誰も芳江を思い出さない
一郎と直の間の娘・芳江
この芳江の存在だが、自宅を一歩出てしまうと家族の誰も、誰一人意識していないのである。

・大阪での二郎と岡田の会話
・大阪旅行中の一郎・直・母(綱)
・一郎が二郎に直の節操を試せと求めた時
・和歌山の夜の直と二郎
・一人暮らし以降の二郎
・Hと旅行中の一郎

以上の状況において、芳江の存在にふれられたのは、ただの一か所のみである。以下

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