加藤孝志

加藤孝志

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朔夜 すべては私の掌に 第二部 雲野  

第二部 雲野(くもの) 三十一~五十二  三十一、  月明かりを頼りに入り込んだ森の中へ続く道は、太い木々が行く手を塞ぐように途切れていた。右手には、旧日本軍の塹壕後。スマホで着いたとメールを送る。しばらくすると、その木々の向こうから声が聞こえた。 「傀儡(くぐつ)さんですか? そのまま目を瞑(つむ)って真っ直ぐ歩いてください」と。少し迷う。 「かまわねぇ、奴の言った通りにしてみろ」と、後ろからヘッド………いや、卑墨さん。  しかたなく、目を閉じて歩く。思わず手が前へ。し

    • 朔夜 すべては私の掌に 第二部 雲野  

      第二部 雲野(くもの) 十六~三十  十六、  憑依した生き物の頭脳は、その全てを使いこなせば人さえ凌駕するだろう。これは、海を支配する可能性を持たされたものだったのだ。  しかし、どれほど時が経っても、文化と思(おぼ)しきのもを築けずにいる。身体のつくりが、海へ戻るために単純化され過ぎたのだ。おかげで、進化により与えられたはずの脳の数パーセントしか使っていない。  神の姿をもつ人は、その腕と指を使いこなすことによって脳を使い進化を加速させ、短い命を終える前に文字で次世代

      • 朔夜 すべては私の掌に 第二部 雲野  

        第二部 雲野(くもの) 一~十五  一、    七色に煌めく雲海の果てから、一条の強い光が放たれ私を射た。 「朔夜さま、発つ時がきました」 「降ろせ」 「………御御足(おみあし)は、癒えたでしょうか」と、私を背負う彦火。癒えていないのは彼も。しかし、あえて私を背負い、それを鍛錬とする。愛おしい。  わずかな沈黙後、つま先が地に着く。予想した痛みは消えていた。 視線が下がり景色が変わる。一瞬ずれた雲間からの光が、日の出とともに、雲海を深紅に染めながらゆっくりと私に戻る。記憶

        • 朔夜 すべては私の掌に 第一部 常立

            第一部   常立(とこたち)三十八~五十八  三十八  極端なシフトダウンで、高く叫ぶ複数のエンジン音が森に響き渡る。小さな野鳥たちが驚いて飛び立つ。音だけで無く、襲い来る殺気からも逃れるように。  第五ヘアピンで待ち伏せが無かったから一気に来ると予想した。先頭のバイクを平八がクロスボウで倒せば、後続を事故に巻き込むだろう。その混乱に乗じて敵の中に飛び込み切りまくる。しかし………。  予想が外れる。銃口を向けながらゆるりと姿を見せた敵は一台。攻撃する間も無く銃撃を受

        朔夜 すべては私の掌に 第二部 雲野  

          朔夜 すべては私の掌に 第一部 常立

            第一部   常立(とこたち)二十二~三十七  二十二  朔夜様が駆るZX14Rが、ゆっくりと抜き去っていく。スモークシールドで表情は見えない。けれど、微笑まれていた。その小さな背も、楽しまれている。ポルシェのスピードメータは二百キロ。やれやれ。  母が全てをお伝えして他界した翌日、 「五瀬、そなたの術を教えよ」と言われた。  防人を見つけ側に置くまで、朔夜様をお守りするのは侍従の役目。そう父に命を受け、柔術、剣術、弓術は身につけていた。 「防人が来るまで、私がお守

          朔夜 すべては私の掌に 第一部 常立

          朔夜 すべては私の掌に 第一部 常立

          あらすじ 二千年ほど前に産み落とした子は、神がお創りになった地の上で、短い命をけなげに紡いで生き、栄えた。千年前に、子たちの営みの行く末を案じ、次のものを生む決意をした。けれど、子の所業に不満を募らせていた神は憂い、私に刺客を放った。子たちが私を護り勇敢に戦ったけれど、討ち果たされ、私の試みは絶たれた。今、再び新たなものを生む決意をした。千年の間に、先の子たちは地を造り変え、幾たびか殺し合う。そのありさまに神は激怒。まして、私の再度の試みはけして許せぬ。ふたたび神の刺客が放た

          朔夜 すべては私の掌に 第一部 常立