売場に屋号をつける
誰のためでもない、自らの商いを実践する。売場はお客との出会いの場です。本部で仕入れた商品を本部が決めた売価をつけて指定された場所に並べるだけならモチベーションは下がる一方です。
「この商品仕入れ値は120円だけど100円じゃないと売れないな。この商品の仕入れ原価は80円だけど128円でも売れるな」など自分で仕入れた商品を他の商品との兼ね合いを考慮しながら好き勝手な値段をつける。どんな言葉をかけて売り込もうか、試食を出したらどうだろう。お客の心に刺さる言葉をPOPに書く・・・。あの手この手でお客に関心を持ってもらい、手に取ってもらう。
一生懸命説明して、自分を信じて勝ってもらう。買ってもらうということは自分を認めてくれた、自分を信用してくれたことになり、仕入れた商品を全部売り切った時の達成感は格別です。「さあ、明日はどんな商品、どんな売り方でお客を喜ばせようか」考えただけでワクワクします。
一人ひとりが商店主となって自分で仕入れた商品を自分で売り切ることが商人としての最高のモチベーションなのです。そのため売場に「屋号」をつけるのです。チーフの名前を付けて「角谷青果店」「小島鮮魚店」「島田精肉店」「よしこ寿司」「大橋乾物店」などとするのです。
ちょっと前まではスーパーマーケットは家族経営の店が多くありました。長男が鮮魚を担当し朝3時半には魚市場に出向きます。次男が青果を担当し、叔父さんが精肉、母親が惣菜、長女が和・洋日配、パン、店主である父親が一般食品を担当しました。家族経営の良い点は、お互いが信頼し合い、助け合うこと。家長である父親の方針の下、皆が同じ方向を向いて結束できる点です。
家族経営のデメリットは一人が我利我欲に走ると、結束が崩れ、自分さえよければ良いという気分が蔓延することです。また、従業員を募集しても集まらず、やっと採用できてもすぐにやめてしまうことです。
なぜなら、業績が良いと家族の取り分が増えて、家族以外の従業員には恩恵が回ってきません。逆に業績が悪化すると、真っ先に給料は減らされ、挙句の果てはリストラの対象です。
家族で食べていけるだけギリギリの給料だけを取り、低値入で販売し続ける店もあります。低値入ですから、「この店は安い!」と評判になり、店はたちまち繁盛店になります。従業員にはたっぷり賞与を払います。すると、従業員がどんどん集まるようになります。
猫の手を借りたいほどの忙しさです。従業員を「手」として採用するのではなく、「人」として採用するのです。まだ経験が浅く任せられないなと思っても、現場の最前線に立つ従業員に権限を委譲するのです。意見を交わしながら、「君ならどうするの?」と問いかけて、トンチンカンな答えが返ってきたら、「それで」を連発します。自分の考えに近いアイデアが出てきたら、「君は天才だ!それ、君に任せたからやってくれる」と自分で決めて自分で実行させるのです。
家族は他の従業員にとって手本であり続けなければなりません。勤勉であり、常に新しいことに挑戦し続けます。家族の誰も愚痴や泣き言を言わず、元気に明るく、楽しく仕事をしていると自分も家族同様に扱われている気がします。店は家であり、自分の性分や家族、大切にしていることを分かってくれている家族のようです。帰属欲求、承認欲求が満たされます。
ますます繁盛し、連日店が壊れるほどの人気ぶりです。「あの店、商品が新鮮でしかも安いわ。働く従業員もキビキビハキハキしていて気持ちがいいわ」と評判になります。
社歴がわずかでもやる気さえあれば仕入を任せます。売価設定、売場づくりを任せます。そして次の店を出すとき、皆からチーフに推薦され、自分の名前を付けた「屋号」が売場に掲げられるのです。
売場には、青果、鮮魚、精肉、惣菜、日配、グロサリーの6人の「店主」と呼ばれるチーフがいます。「店主」を束ねる店長は「ミニ社長」です。店はプロフィットセンター(PC)です。PCとは、収益と費用(コスト)が集計される部門のことです。
店長に採用、教育、配置、品揃え、価格政策、チラシ、イベントなどのあらゆる現場にかかわる権限が委譲されます。利益は、本部経費を賄って必要最低限の利益(営業利益率3%程度)が出るようにします。7%、10%など利益が出すぎたら差額をお客に還元します。
年商30億円の店舗なら100名の従業員を配置します。昨今はどの大型店も人件費削減のため人手不足になりがちながら、100名配置すると売場は従業員で溢れ、明るく活気がでます。お客に積極的に声掛けしたり、妊婦さんを見かけたら、サッカーを手伝ったり、お年寄りが重い荷物を運ぶのに困っていると従業員同士が連携し合い、タクシーを呼んだり、荷物を車に積むのを手伝ったりします。
また、日配、グロサリーはライバル店よりすべての商品が10円安い。日替わり商品に関しては日配品が仕入原価の100円マイナス、グロサリーは同じく200円マイナス、鮮魚の粗利益率はゼロ、青果は10%、精肉、惣菜は30%で運営しても、店トータルで20%の粗利益率を達成することも可能です。
このような売価政策を採用すると、買上点数がグングン上昇していきます。通常の大型店の買上点数は6点、一品単価は300円、客単価は1,800円です。粗利益率は30%ないと採算が合いません。お客一人当たりから540円(=1,800円×30%)頂くことになります。
一方でこのような売価政策を続けると買上点数は6点が8点、10点、12点と伸びていきます。12点になった時、一品単価が300円だとすると客単価は3,600円になります。粗利益率が20%だとすると一人のお客から720円(=3,600円×20%)の粗利を頂くことになります。この時点で180円(=720円—540円)余計に儲かることになります。
さらに買上点数が伸び18点になると、一品単価が300円だとして客単価は5,400円になります。お客一人当たりから買上点数が12点の時と同じ720円でいいならば13.3%(=720円÷5,400円)でも儲かります。
粗利益率13.3%で押し進むと押しも押されぬ人気店となり、年商は60億円を超えるのです。
大家族経営を標榜し、売場に屋号を付け、チーフは店主、店長はミニ経営者として、現場に権限を委譲すれば、モチベ―ションが高まります。モチベーションが高まると業績は指数関数的上昇するのです。