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たいやきの食べ方

親子3人でたいやきを食べることにした。

「娘ちゃん、たいやきは頭から食べる? 尻尾から食べる? お父さんは頭から、お母さんは尻尾から食べるんだけど」
「んーーー」

* * *

10年前くらいの妻との会話。

「君は絶対、たいやきは尻尾から食べるよね」
「だって、カリカリしてて美味しいもん。むしろ頭から食べる人が信じられない」
「いや、頭から食べるのが礼儀でしょ」
「礼儀もなにもないでしょが」
「魚の姿を模している以上は、そこに礼儀は必要だろう。だから私は頭から食べるね」
「『礼儀=頭から』の意味がわからない」
「頭から食べるってことは、真正面から向き合って、その上で捕食するという工程に通じる。魚の多くは、背後から自分が食べられたことすらわからないまま捕食者の胃袋に入ることが多いけど、そうじゃない彼らには、『今から食うぞ』という覚悟の時を与えることができて、人道的だと思うんだよね」
「食べ物にそんなこと考えないし、なんなら焼いている時点で非人道的じゃない?」
「焼くのは、食すための準備なんだからそうは思わない。なんなら罠を仕掛けて捕る過程と同義だ」
「意味わからない。美味しければいいじゃん」
「お腹に入ってしまえば同じという点は同意するけど、それだと鯛に模す必要性がないだろう。大判焼きでいいじゃないか。それをたいやきにする以上は、それ相応の態度が必要だ」
「あー、もしかしてキャラクター型のベビーカステラを回しながら食べてたのも同じ理由?」
「そうだよ。よく気づいてたね」
「屋台で買ったドラえもんをわざわざ頭から食べてて、頭おかしいと思って別れようかと思ったもん。それ以降キャラクター型のは買わないようにしたわ」
「ドラえもんを動物と捉えるかは難しいけど、敬意は払うよね。まぁ、そりゃ分かってるよ。キャラクターや魚に模すのは、その方が売れるからだもんね。そこに意味は求めるべきでないもんね。まぁ、君の尻尾から食べる理由ってのも理解はできるよ。確かにカリカリは美味い。でもさでもさ、たいやき買ったはいいけど、その場で食べなくて冷めた状態で食べるときはどう? もうカリカリ感はないよ」
「それでも尻尾から食べるよ。習慣だもん」
「だよね。私も習慣といえば習慣なわけだよ」
「習慣もいいけど、より美味しく食べられる選択をするのも、食べることに関しては礼儀じゃない?」
「一理あるね。でも、私は尻尾のカリカリ感を重視していないから、やっぱり頭から食べるよ」
「・・・。つまり、動物を模しているもの、というか動物も含めて頭から食べるのが礼儀なのね?」
「そうだよ」
「じゃぁ、魚の串焼きはどう食べる? 頭から刺してあるから、普通に食べるなら尻尾からでしょ? わざわざ串から引っこ抜くなんて無粋なことはしないでしょ?」
「しないよ。で、尻尾から食べるよ。当たり前じゃん」
「矛盾してる!」
「してない。いいかい、串焼きにされる時点で、魚と正面から向き合って覚悟の時を与える儀式は済んでいるんだよ。だから、食べる我々はそのまま頂けばよい」
「ん? 焼くのは食すまでの準備って言ったじゃん。ならやっぱ食べる前にも礼儀がいるんじゃないの?」
「・・・(笑顔でごまかす私)」
「屁理屈だ! この屁理屈男!」

* * *

「んーーー」

もぎゅっもぎゅっ、と娘はたいやきをちぎった。

屁理屈男お父さんは頭でカリカリ好きお母さんは尻尾、どーぞ。あたしは、真ん中。3人で食べるとおいしーねー」

そう言って娘はたいやきの背びれから齧りつく。
頭と尻尾からアンコがこぼれた。屁理屈男とカリカリ好きからは笑みがこぼれた。

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