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だから響く『花は誰のもの?』

 例えば、何かの文章や作品に触れたときに何を感じるかというのは人それぞれである。
 特に、詩や小説などといった情報がすべて明かされているわけではない文章、さらには絵画や音楽などの場合がそうだ。これらは、価値観や観点や好みといったもので、まさしく感じ方は人それぞれ異なる。
 それでも、その文章や創作物に価値を感じるという点で共通することはある。これはつまり、感じ方にも一定の方向性が認められるということだろう。この方向性を捉えて、そこに触れるような創作物というのが良いものとして評価される。

 簡単に言うと、共感されるものを書きなさい/創りなさいということだ。付け加えるならば、その上で時流を読んでリリースするとなお良い。大衆が共感をする下準備ができていなくては、どんなに素晴らしいものでも評価はされないのだ。

 ところで、私は宗教関係のネタに疎い。映画や海外ドラマなどを観ていても理解しがたい場面や言動が度々出てくる。それもそのはず、キリスト教文化圏の人にとっては解説不要で通じる暗喩だったりするからだ。自分の知識不足が原因ではあるが、共感しきれないことがある。
 グローバルな時代だからこそ、多くの人に理解して共感してもらうには、全世界の人が共通意識として持っているものをネタにした方がよいことが多いということだ。
 今現在、共通意識として挙げられるものといえば、そう、あれしかない。


 先日、アイドルグループの「国境がなくなれば平和になるのに」といった内容の曲を聞いた。

 テーマとしてはありふれたものだが、素直に良い曲だと思った。この時期にこのストレートな歌詞は、多くの共感を誘いそうだ。
 穿った見方をすれば、そんなに世界の幸せというのは単純なものではない、と言いたくもなるだろうが、それはこのアイドルグループに歌わせることで、ある意味で純粋で無垢な希望というものを表現しているようにも感じる。
 また、グループ名のSTUは「瀬戸内」のことらしく、なるほど広島出身のメンバーもいるのかもしれない。
 誰が歌うかというのは、「伝える」という観点で言えばとても重要なことだ。少し前に「現役高校生」が「社会人の内心」を「強めの言葉」で歌った曲が流行っていたが、違和感を覚えた人も少なくはないだろう。


 それはそうと、私はこの曲を聞いて既視感も覚えていた。調べてみると、間違いではなかったようだ。

 こちらのリリースは2018年。こちらもアイドルグループによる曲だ。歌詞を読んでいくと、前掲の曲と同じような言葉が出てくる。少し引用しよう。

”もしこの世界から 国境が消えたら
人はみんな きっと しあわせなのに・・・
どうして何のため 線を引くのだろう
そう たった一つの地球の上”

”生まれた大地がどこであろうとも
陽は沈みまた昇る
希望はいつでも
僕らの頭上に平等に降り注ぐ
日向も日陰も儚く
誰のものか決められないだろう
笑顔も涙も独り占めなんかできないよ”

STU48『花は誰のもの?』作詞:秋元康

”僕たちは同じ時代を生きてるんだ
国境なんて意味を持たない
たったひとつのあの太陽の下
どこも光は平等だよ
悲しいことも嬉しいこともあるだろう
それでも止まらず世界は回る
それぞれの土地からここまで集まってきた
ほら世界はひとりじゃない”

坂道AKB『国境のない時代』作詞:秋元康

 お気づきかと思うが、どちらも作詞は秋元康氏である。同じような内容の詞を書いていても何もおかしくはないのだ。

 今年リリースした『花は誰のもの?』は、今の世界情勢を鑑みてのことだろう。必要なのは、誰の心にもあるはずの平和を祈る心と優しさや思いやりといったもの。それらを花で喩えて、そういった気持ちに寄り添う曲といったところだろうか。
 他方『国境のない時代』も世界情勢はイスラム国などで混乱していた頃だったと思うが、今ほど日本人が世界平和に意識を持っていたわけではないと思われる。そのためか、メロディも歌詞も、平和や世界について考えさせることに重きを置いた強めの印象がある。
 (ちなみに、歌っている「坂道AKB」というのは、秋元康氏プロデュースの坂道グループと48グループから集められたメンバーによるグループ。グループという”国境”を越えさせるという意味もあったのかもしれない。)

 いずれにせよ、秋元康氏が描いた世界観を音楽にのせて体感し、共感する。共感できるのは、多くの人が既に同じ気持ちを持っているからに他ならない。これが最も大事なことだ。

 noteにおいても、詩や文章で今の世界を憂いたり、願いを込めたりといった内容の記事をよく見かける。
 発信する側も受信する側も同じ気持ちを持つことが出来て、それが連鎖的に広がっていく。私がこうして、この文章を紡いでいることが何よりの証左であり、人の可能性の素晴らしさでもあるように感じる。

 そしてその思いに、やはり国境はないのだろう。

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