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好き嫌いをなくそうってよく言うけどそれ好きもなくなってない?

小学校というのは恐ろしい世界で、先生を王と定めた君主制。それぞれのクラスにその先生が決めたルールがあり、当番の回し方から席替えの仕方、連絡帳の内容までその「しきたり」を守ることが小学生として生きることだった。そしてうちのクラスの絶対的なルールが「給食は残さず食べましょう」だった。

いまでこそ食育だと言われて、食べる楽しみを感じるために残すことも容認されているらしいが、そんなヤワなものは俺の時代になかった。
給食の時間で食べ終わらなければ、さらにその後の休み時間も1人机に残り食べなければいけない。
それでも食べれないと掃除の時間まで突入し、机を後ろに下げられ狭くなった席で食べることになる。しかもホウキではいてたりするからゴミも舞うし、とてもご飯を食べれる環境ではない。ここでようやく担任が現れ、もう給食を返してきなさいと指示する。この見せしめ感が俺は本当に嫌いだった。

さて、話は変わって俺には好き嫌いがない。

給食の時間によく先生が「好き嫌いを無くしましょう」などとよく言っていたが、俺には関係ない話だった。なんでも、バクバク食べられる。しかし、「好き嫌い」がないのだ。
文字通り「好き」も「嫌い」もない。

小学生の間しか見かけないあのプロフィールカード、クラス帳なんかに「好きな食べ物」という設問をよく見た。だが、「好きな食べ物」がない。
カレー?もちろん美味しく食べるし給食に出れば必ずおかわりするが最後の晩餐がこれでいいかって言われると違う。
お寿司?回転寿司でも感動するよな小学生の時分だが、だからこそ赤身サーモンツナマヨ軍艦くらいしか食べないしお寿司全般が好きなわけではない。
焼肉?焼肉は料理というより調理法だし、肉の美味しさというよりタレの旨さだから好きな食べ物にはカウントできない。

そんなわけでよくその欄に書いていたのが「和菓子」。「和菓子」もジャンルやん!て話だが和菓子全般が好きだったのでまあ許せ。未だに好きな食べ物を聞かれると和菓子と答えるくらいには和菓子好きだ。おもち最高。

そんな好き嫌いのなさが役に立ったことがある。
同じ班に深澤くん、通称プッカ(プッカっていうお菓子からつけられたあだ名なんだが、そういえば最近プッカ見ないな。もう生産してないんか?)がそれはそれは野菜嫌いで、大抵いつも昼休みまで残されていた。
当時夢中になっていたキックベース。昼休みキックベースをやる時にプッカは欠かせないのだ。プッカは野菜嫌いで痩せている分足が速い。ボールに足をちょこんと当てるバントをすれば確実にセーフになる。ほぼ出塁率100パーだ。だから野菜を食べれないせいで打線に組み込めないとチームが弱体化してしまう。
そういうわけで俺はプッカの給食を食べることにした。

うちのクラスのルールでは、最初から極端に少なくよそったり、他の人に食べてもらうのも禁止だった。だから共同戦線だ。隠れて渡し隠れて食べる。
まず、どれくらい食べれそうかを確認し、俺が自分のお皿からその分を残しつつ一気に食べてしまう。そして、先生がこちらを見ていないのを見計らいプッカのまだ満タンの皿と交換する。そうやって俺は野菜を倍量食べるマシーンと化した。
バントの鬼プッカと早食い小デブ加藤の名コンビ誕生である。

これはめちゃくちゃ功を奏し、先生からプッカは「最近残さなくなった」と褒められるし、俺はプッカをチームに参加させるブローカーとして一躍名を馳せた。が、キックベースブームが終わり、プッカが昼休みに自由を得る必要がなくなってくると状況が変わった。別に俺は危ない橋を渡ってサラダを食べなくていいのだ。プッカがきちんと野菜を好きになればいい話なのだから。これにプッカは焦る。野菜嫌いを克服したと思われていたものが、また昼休みをつぶすほど食が進まなくなったんじゃこれまでのことが露見する。背に腹は変えられなくなったんだろう、プッカは提案してきた。

「サラダを食べてくれればキラカードをあげる」

当時はデジモン全盛期で皆デジモンカードにもハマっていた。そのデジモンカードのキラをくれるというのである。乗った。サラダとキラカードの大型トレードがここに成立した。

そのトレードも需要と供給によって成り立つ。レーズンとスライスアーモンドが散りばめられたレーズンサラダは、レーズンさえ俺が食えばなんとかなる。だから安めに成熟期のデジモンカード。一方、ニンジンのグラッセのような野菜そのものを味わう料理はプッカ以外にも評判が悪く皆残し気味。そんなものを食べてあげる際は、究極体のデジモンカード。この野菜ならこれだね、という交渉でカードの内容が変わってくる。

「別に、俺はサラダを食べなくても何も困らないんだぜ?」

こんな脅しのセリフがこの世に存在したのだ。

そうして、俺は皆が嫌いそうな野菜が出ると喜ぶという不思議な状態になった。肉じゃなく野菜を出せと。好き嫌いのなかったはずの俺が、好きになったのはカレーやお寿司、焼肉ではなくサラダだったのだ。好き嫌いをなくそうという取り組みの結果好き寄りだったカレーたちのランクが下がるという皮肉。当時書いたプロフィールカードの好きな食べ物に「サラダ」と書いてあるものが多分あるはずだ。なんとも現金なガキである。




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