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より良い社会のあり方とは?―斎藤幸平『人新世の「資本論」』ー

前から気になっていた本が古本屋で安く手に入ったので、買ってみた。斎藤幸平の『人新世の「資本論」』だ。

マルクス研究の第一人者である斎藤幸平が、現代社会が抱える諸問題の解決策をマルクスの考え方、特に晩年のものに見出そうとする本である。。

気候変動による影響が顕著になる中で、SDGsやグリーン・ニューディールが先進国を中心に進められている。しかし、斎藤はこれらで解決することはないと断ずる。資本主義に基づき、経済成長を追求する限り、地球上の資源は必要以上に収奪されてしまい、回復不能な状態に陥りかねないという。

少なくとも、現状の資源の消費ペースであれば、いずれ経済活動は旧失速せざるを得ない状況に陥るであろう。そのチキンレースを行っているのが現代と言い換えてもいいかもしれない。

その資本主義、特に経済成長による環境破壊を150年以上前に指摘し、その解決策としてコミュニズムを提唱していたのがマルクスであるという。特に『資本論』の第一巻が発行されてから死に至るまでの草稿、斎藤の言う「晩期マルクス」にその痕跡が見て取れるそうだ。

色々な視点から資本主義社会での経済活動を継続するリスクが示されており、その解決策をマルクス研究から見いだそうとしている。しかし、そもそもの疑問がある。果たして現状の問題は「資本主義」が問題なのか。

確かに現状の資本主義経済の仕組みには問題があるだろう。会社組織は企業規模の拡大や利潤最大化を追求しすぎている感は否めない。家電などの買い替えサイクルはかなり早くなっている。ファッションの流行り廃りも「実用性」とは無関係に高速化している。資源消費量の面だけで言えば、無駄遣いと言われてもやむを得ないだろう。

また、ブルシット・ジョブの類、特に広告・マーケティングやコンサルティングの多くは正直無駄だろう。広告は多すぎる。繰り返し表示される広告は正直気味が悪いし、むしろ(広告を出さないと売れないレベルの商品・サービスという意味で)品質の悪さをうかがわせる。

「平常時」の企業経営にコンサルタントが必要なら、それは経営の現場の方たちには大変申し訳ないが、経営者として力量不足(単純に向いていないだけでなく、企業規模が経営者、首脳陣の能力を超えてしまっている等)だろう。

ただ、これらは本当に「資本主義」であるが故に生じている問題なのだろうか?むしろ、現代人が先人の経験・知恵を蔑ろにした結果とも言えるのではないだろうか?人間の欲望だけが暴走しているだけなのではないだろうか?

こんな調子でいくつもの疑問が沸いてくる。なので、現状の社会や地球環境の問題の原因に「資本主義」を挙げるのは、短絡的な感が否めない。しかし、現状の社会について、改めて考えるきっかけになる。この本はそういう本なのだろう。

新書とはいえ350ページ強、マルクスの『資本論』をはじめとする専門書を引き合いに出すことも多く、読むのにかなり骨の折れる本である。わかりやすく書かれてはいるが、それでも一読しただけで理解するのは難しい。また頃合いを見て読もう。そう思える本であった。


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