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M&Aの経験がCFOや経営企画でも活きる理由

最近、投資銀行出身者がスタートアップのCFOに就くケースを良く耳にします。

個人的には、M&A経験者がCFOに就くことを歓迎していて、今後世の中で主流になって行くといいなと思っていたりするのですが、

いい機会なので、M&Aアドバイザーの経験が、CFOや経営企画に転職した場合にも業務に活きるということについて書こうと思います。


が、その前に…
1点、最初に指摘しておきたいことを書いておきます。

それは、「CFO=経理部長」、或いは「CFO=管理部長」ではないということです。この誤った見方が日本では浸透しすぎています

それもそのはずで、
実際にCFOはアメリカの概念であり、それを無理矢理、形だけ日系企業に当てはめたものだからです。

本来USでは、CFOはCEOの相棒として、財務面から業績の最大化を目指す責務を請け負っています。事業の拡大とファイナンスは表裏一体であり、コーポレートファイナンスが事業拡大に重要な役割を果たしています。
アメリカのCFOは攻めるファイナンス戦略家なのです。

一方で日本は、戦略は経営企画が社長直下で管轄しており、ファイナンス面は事業面と切り離され、経理・税務が管理部長直下の別組織で存在するのみです。そして、経理・税務はあくまで過去の数字をまとめるだけの部署であり、事業の拡大のために用いられる文化はありません。その組織にCFOを当てはめた結果、CFOとは経理部長、或いは管理部長となってしまいました。

この辺は以下の記事に詳しく書いていますので参考にして下さい。


いずれにしても、CFOも経営企画も、

事業拡大のために事業のKPIを徹底して追いかけ、全社の事業効率化のためにファイナンス理論を駆使して戦略を練る「経営者」です。

加えて、投資家との対話を重視する、「経営者」です。

その観点で、M&Aの経験がCFOや経営企画の人たちにいかに役立つかを考えて行きたいと思います。



俯瞰した経営者の目線が養われる

M&Aのアドバイザーは、買収対象の企業を分析し、事業や会計の課題を把握してバリュエーションを行い、クライアントである企業の経営陣にアドバイスを行います。

キーとなるのは、以下でしょう。

・クライアントが企業の経営トップであるため、経営視点が身に付く
・会社全体を俯瞰してみるため、大小さまざまな事象の中で重要なものから対処して行く姿勢が身に付く

この『視点』が重要です。

経営として決断を下すとは、
正解がわからない中で考え得る可能性をシミュレーションして、最も自社にとって良いと思われる選択肢を取ることです。

この時に、経営者として特に気にしなければならない点や逆に劣後しても問題ない点などを業務を通して判断できるようになります。

更には、このようなアドバイスを、
莫大な報酬と引き換えに、相当なプレッシャーの中で行うため、イヤでも身に付いてくれます笑

M&Aのスキルを実践的な形で活用できる能力を養うことにより、CFOや経営企画としての必要スキルに直結することがお分かりいただけるでしょうか。



会社の数字の連動性が見え、より正しい判断ができる

M&Aの知識が活きる場面として、
ある決断をした場合に、会社の数字がどう変化するかを予測することができる点があります。

M&Aにおいては、対象会社の財務数値に何らかの発見事項が出て来た場合、それらを加味し直して組んでいる財務モデルに落とし込むことで、その後の会社の業績がどのように変動するかを把握しています。

もちろん、将来のことですし、モデル自体は様々な仮定を置いて作成されているので、実際に完全にその通りになることはまずあり得ません。

しかしながら、重要な判断をするには、複数の選択肢の中から、それぞれのシナリオがどうなる可能性があるのかをシミュレーションして比較検討をした上で、その時点において最適な決断を下す必要があります。

M&Aのスタッフとしての必死に財務モデルを構築する経験に始まり、マネージャーやシニアマネージャーとしてそれをチェックしたり、シミュレーションを実際に行って変化を何度も見ることによって、どういう変化があると、どういう影響があるかをざっくり想像できるようになってきます。

そうすると、事業会社での応用としては、
アイディアを仮説として持ち、それをモデルに反映して検証する(CFOともなると、自分でモデルは作らないかもしれないですが)することで、
事業業績の向上が期待できるソリューションをわかりやすくかつ説得力がある形で解説できるようになります。


この点、FP&Aの人は、PLの財務モデルは組めるかもしれませんが、いかんせんPL至上主義の中にあって、BSやキャッシュフローについては知識が不足しているケースが多いです。

PLのモデルでの事業のシミュレーションと、それに伴う財務三表の連動性とを併せて考慮できることで、初めて事業効率性などを含めたファイナンスの知識と事業・企業の連動を確認できることなることから、

CFOや経営企画としては、M&Aで行う財務モデリングと同様の知識・経験を有することで、圧倒的に有利なると言えるでしょう。


IRにも役立つモデリングスキル

財務モデリングには他にも大きな効用があります。

M&Aに限らず、財務モデルは、機関投資家も投資先に対してモデルを作成しており、常に最新の決算情報を更新しながら、今後の投資先企業の先々の株価及び時価総額を予想しています。

必然的に、機関投資家とのIRミーティングでは、彼らのモデルへ反映したいがための数字の質問が飛び交うことが多く、事業のKPIやそのほかのキーファクターの先々の予想とその考えの背景などの質問を矢継ぎ早に浴びせられます。

当然にCFOや経営企画は、自社の数字を持ち合わせているので、投資家よりも情報を豊富に持ってはいるものの、体系だって状況を判断できるように整理されていないことも多いです。

その際に、会社側として、自らの財務モデルを組んでどのような将来像を描いているかが見えていると、投資家への説明の際にもそれが活きてくるのです。

実はこれは、当たり前の話で、
M&Aと言えど、買い手からすれば大きな投資であることには違いありません。100%買うか、一部を買うかの違いや、市場で買うかクローズドな場面で買うかの違いはありますが、「投資する」ことには変わりはありません。

M&Aの経験から、買い手側の立場を理解していることで、自らが企業の中に入った場合の対投資家へのコミュニケーションの方法がわかるという絶大なアドバンテージがあると言えます。




徹底したスピードとやり切る能力が身に付く

最後に。地味にこれが一番重要?だったりするかもしれません。

M&Aのプロジェクトは、

Pre M&Aの場合は数ヶ月~半年以上など、
Post M&A (PMI)の場合は1~数年ほど、

と、長丁場になることも多いです。
一方で、個々のフェーズや作業は相当のスピード感を持って行われます。

会社をまるごと分析して買い取るというのは、会社のあらゆるところに潜んでいるリスクを含めて分析し、判断を下す必要があるため、効率的にかつスピーディーに行わないと、永遠に終わりません。

スピーディーにやろうとしていても、重要な数字の判断から細かいスケジュール調整に至るまで、量が膨大なので、毎日夜中まで働くわけです。

結果として、
プロジェクトを限られた時間で終わらせるために、ディスカッションをリードして整理し、タイムリーな形で物事が終わるように粘り強いハードワークをすることで、自然とスピーディー仕事を行う能力を養うことができるようになります。

そして、最後は力技で終わらせるのです 笑

でも、これが仮に事業会社へ転職して後でも、ここぞと言う時に踏ん張ってやり遂げる強さを発揮できる理由です。

何より、世の中の最上位のハードワークを1度でも経験しておくと、他の仕事に就いても、「まぁ、何とかなるよ」と思えるものであり、メンタルの支えにもなることでしょう。





M&Aの高度なファイナンスの知識と強引なまでのハードワークをこなした経験の先に、様々な形でその経験が花開くことを祈っています。


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