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企画裏話1:海外ファンたちと協力してVTuberを応援するファンメイド作品をつくる楽しさと難しさ


はじめに

去る2月22日、猫又おかゆさんの誕生日に合わせて、こちらのファンゲームがリリースされました。

私もPROJECT O to Oのメンバーとして、こちらの企画で音楽(BGM)を担当いたしました。例えば、CMの音楽(デタバレネコのNESアレンジ)だったり、エンディングBGMだったり、その他ミニゲームBGMを何曲か作成しております。

その他にも、英語へのローカライズや、海外ニキとの意思疎通にも少しだけお手伝いしました。この企画は69人のメンバーによって進められましたが、そのうちおよそ2〜3割が海外ニキでした。大変チャレンジングな環境でしたが、みんなで協力して素敵な作品をおかゆさんにお届けすることができました。

ちなみにゲームはこちらからダウンロード可能ですので、ぜひ遊んでみてください。感想は #holoBOXgame にてポストしていただけると開発チーム一同喜びます!

他にも、以前に公開したこちらのお祝い動画。

こちらも日本メンバーを中心として、海外ニキと協力しながら完成させたファンメイド作品です。こちらは台湾、タイ、英語の3ヵ国語を使い、国際色豊かな鷹嶺ルイさんにピッタリなお祝い動画になったのではないかと思います。

こういった企画をはじめ、日本ニキが海外ニキと協力する、あるいはその逆で、海外ニキが日本ニキを巻き込んでお祝い企画をする、といったことがここ最近でかなり増えているように思います。事実、私が参加した海外合同企画はこれだけではなく、他にもたくさん参加しています。

言語の壁を超えて一人の推しに想いを届ける。これは素敵なことですが、同時にとても難しいことでもあります。それでも人々はなぜ、この難しい挑戦をするのか。どうやって壁を乗り越えるのか。今月はそんなお話です。

楽しさ

困難な物事に長く取り組むには、モチベーションが大切ですよね。というわけで、まずは「何が楽しいのか?」という点を掘り下げていきます。

世界各国のファンと集まって想いを伝えられる

これは私のフォロワーさんや知り合いであればもう聞き飽きたと思います。DiscordでもXでもnoteでも、何度も何度も何度も言っていますが、すべてはこれに尽きます。

もはやVTuberやその文化は国内だけに留まらず海外にも広まり、今や世界を熱狂させるコンテンツへ進化しています。日本語話者のタレントだとしても、その人気度に応じて海外のファンもある程度獲得しています。自分の推しを応援しているファンは国内だけでなく海外にも多くいる、という事実を考えてみてください。彼ら・彼女らがどんな国で、どんな場所で、どんな風に応援しているか気になりませんか?それはきっと私達ファンだけでなく、推しも同じ気持ちでしょう。自分たちのファンがどんな場所にいて、どんな風に自分を応援してくれるのか。それを伝える方法が、海外ファンとの共同企画だと思います。

例えば、こちらの企画。私が日本語ローカライズを担当したものです。

世界中のへい民たちが、自分たちの住んでいる地域のランドマークや風景とグッズを一緒に撮影し、こんなところにもファンがいるんだよ、と伝えるものです。今見返してみますと、本当にいろいろな地域に居ますね。見たことのない景色と推しのグッズが写っていると、とても不思議な感覚になります。

同様なモチベーションの企画には以下のようなものがあります(私が主催・主要メンバーとしてリードしたものではありません)。どれも完成度が高くて驚かされます。

推しを通じて国境を超えた交流ができる

英語のできる方々にはそこまで難しいことではないかもしれませんが、そうでない方々にとって、これは意外と難しいものです。配信チャットを開けばそこにいる。画面の向こうに、推しを通じてそこにいるはずなのに、手は届かない。コンタクトを取ろうと思えば取れなくもないですが、なにかきっかけがないとなかなか難しいものです。

海外ファンと企画を共に進めることで、言語の壁がありながらも自然と結束感を持つことができます。企画を進めるためにDiscordサーバに入ってみたら、チャット欄でよく名前を見かけるあの人が。スパチャで名前をよく呼ばれているあの人が。そんな出会いをこれまで何度か見てきました。「同じ推しを応援している」関係から、「推しを応援する企画を共に進める」関係に変わる瞬間です。

あとはあなた次第です。その関係を保ち続けるも良し、思い切って話しかけるも良し。これまでに見えなかった世界が見えるようになるかもしれません。

海外のファンを「置いてけぼり」にさせない

私が鷹嶺ルイさんのファンDiscordサーバのモデレータになったきっかけは、当時のモデレータチームからの「とある提案」がきっかけでした。推しと一対一で会話できるイベント「イチ推しトーク」が終わったあと、「こういったリアイベに参加できない海外ニキたちにも、推しに気持ちを届ける嬉しさと楽しさを知ってほしい。だから、海外ニキを巻き込んだ企画をしたいが、なにぶんコミュニケーションが難しい。手伝ってもらえないだろうか」と。自分自身もそのイベントに参加して海外ニキたちと気持ちを共有したばかりだったので、これには大賛成で、すぐに企画に取り組みました。

最近では渡航制限も緩和されて、海外でのミートアンドグリートのようなイベントも増えたり、海外でのコラボカフェも頻繁に行われるようになりましたが、当時はそういったイベントはほとんどなく、海外ニキたちにはなかなかつらい時期でした。そんな時期に、少しでも気持ちを伝えるお手伝いができたのなら日本のファンとしても嬉しい限りです。

国境や言語の壁なんて関係ない、同じ推しを応援する仲間ですからね。少しでもその障壁を取り除く手伝いができたら、と思い日々行動しています。

難しさ、そしてそれを解決する方法

……といった美辞麗句を述べたところで、現実はそこまで簡単ではありません。それでも、これまでなんとかやり遂げてきました。

第一の言語の壁:言葉が通じない

言わずもがな、お互いのリングワ・フランカ(共通語)がない限り、言葉が通じることはありません。基本的に海外メンバーはその習熟度のいかんに関わらず英語でコミュニケーションを取っていますが、日本人はコミュニケーションを取れるレベルで英語を使える方はあまり多くはありません。いきなり、コミュニケーションが破綻してしまいます。

ということは、やはり「通訳」の存在が重要です。日本語ができる海外ニキ、英語ができる日本ニキ……などなど、習熟度は問わず、とにかくできる限りのメンバーでお互いに通訳をし合う環境づくりがまずは大切です。企画が始まったら、そういったことに協力してもらえるメンバーがいるかどうかをまずは尋ねましょう。もちろん、募集の段階でそのように募集をかけたり、自分から協力していただけそうな知人に声をかけるのも手です。

例えば、オーバードの歌ってみたプロジェクトでは以下のような状況でした。

  • 英語:問題なし(私が担当)

  • 中国語(繁體):担当メンバー全員が日本語を話せたので問題なし

  • タイ語:メインで進める担当メンバーと私が英語でやり取りして、必要に応じてもう一人の担当メンバー(日本語OK)と議論

特にタイ語での議論はなかなか面白くなりました。はじめに、私が英語と日本語で説明を始め、その後はタイのメンバー2人が英語とタイ語を使い分けて議論を進めていきました。私自身もタイ語でのテキストチャットを見るのは初めてだったので、妙に感動した記憶があります。

第二の言語の壁:通訳者の過労

通訳できる人がいるので大丈夫!もっと大規模な企画をしよう!と思い、そのまま進めてしまうと、きっともうひとつの言語の壁にぶつかります。通訳者が言語の壁を壊し続けた結果、過労で動けなくなってしまうことです。それはそうでしょう。ツルハシやハンマーで壁を壊し続けていれば、いつかは力尽きます。ここで産業革命が起こります。蒸気機関、エンジンや電気による動力を得た人間たちは、再び壁を壊す作業を続けられるでしょう。

さて、言語の壁を壊すための産業革命とは?それは機械翻訳です。皆様ご存知の通り、深層学習、とくにDNNやTransformerなど(このあたりは本業なので語ると長くなりますゆえ省略)により、機械翻訳の精度は著しく向上しています。「おおみそか」を「Oh, it is miso?」と翻訳したネット翻訳の面白画像が出回ったあの時代と比べると大躍進でしょう。もちろん100%完璧とはまだ程遠いですが、少なくとも意思疎通には役立つはずです。

例えば、PROJECT O to Oのファンメイドゲーム企画では、以下のように取り組みました。

  • 定例会議の議事録など重要な部分だけ人力で翻訳

  • 残りはすべて機械翻訳に任せ、必要に応じて手直し

  • Discordサーバ内に投稿されたメッセージをリアルタイムで翻訳するbotを開発・運用

特に3つ目は非常に画期的で革新的でした。サーバのどこかにメッセージを投稿すると、1〜5秒ですぐに翻訳結果を返してきます。

英語で発言すると「カミサマ・ネコサマ」botが日本語に翻訳し、日本語で発言すると英語に翻訳してくれます。
翻訳結果が微妙であればアプリコマンドから修正・削除もできます。

※企画Discordサーバで行われたやり取りは原則として部外秘ですが、ここでは機密情報を含まないやり取りをキャプチャしています。また、企画運営チームの承諾を得ています。

ちなみに当初は裏側でDeepLを使っていましたが、最終的にChatGPTに移行され、より自然な翻訳になりました。制作者はgaatoさんです。天才・偉業

これにより、100%完璧な意思疎通ができるわけではないものの、必要十分条件なコミュニケーションをスムーズに取れるようになり、海外チームとの連携や協同が間違いなく加速しました。正直な話、私は機械翻訳をあまり信用していませんし、すべてのメッセージを翻訳することはその分ログを汚染するため、当初は懐疑的でした。ですが、終わってみればこれは絶対に欠かせないものだったなと思います。「無いよりマシ」どころか、思った以上の便利さに大助かりでした。

以外にもスラングをちゃんと理解してくれることも

文化の壁:考え方、捉え方、情熱の違い

言語の壁を理解して、越えようとすることは大切です。ですが、もう一つ重要なことがあります。文化の違いを理解することです。タイトルからこの記事を開いてくださった方は、おそらく国際交流や異文化交流に興味のある方とお見受けします。そういった方からすると「文化の違い」は当たり前に理解していることかもしれませんが、そうではないメンバーも少なからずいます。もちろん、それが悪いことではありません。初めての経験なのですから、知らなくて当然です。そういった状況下では、コミュニケーションを取りながら違和感を覚える方も増えてくるのではないでしょうか。

まずは、企画サーバのルールに「文化の違いを受け入れるべし」と書くことが大切です。私が立ち上げた企画のサーバで海外メンバーを受け入れる場合、必ずこの文言を入れています。また、文化の違いによって起きてしまったいさかいが起きた場合は仲裁し、当事者たちは間違いを認めること、人種や性別による差別は一切容認しないことも明言しています(実際はもう少しカジュアルに書いてますが)。多少堅苦しい雰囲気を感じてしまうかもしれませんが、個人的には大事なことだと思っています。幸いにも、これまでそういったことでいざこざが起きたという話は(少なからず私の周りでは)聞いたことがありません。

時間の壁:全員でミーティングができない

これも言わずもがなですね。様々な国のファンが参加するということは、それだけタイムゾーンが増えるということです。日本やその近辺、東南アジアやオーストラリアなどは日本との時差も少ないため、さほど大きな問題はありませんが、これがアメリカやヨーロッパとなると大変です。場合によっては朝からミーティング、なんてこともあるでしょう。

私のこれまでの経験上、以下の方法でなんとかやってきました。

  • 主要メンバーのタイムゾーンをあらかじめ確認して、どの時間が都合が良いか聞いておく

  • 開催時間のアンケートを取り、多数決で時間を決める

  • 重要な会議録・議事録は必ずテキストに残して参加できなかったメンバーに共有する

  • 時間を共有するときは必ずタイムゾーン(JST、UTCなど)を書くか、JSTを書いたあとにDiscordのtimestampをつける

特に4番目は何気に重要で、海外ニキからは助かる気遣いです。Discordにはtimestampという機能があり、 <t:1708957080:T>のようなコマンドをチャットに投稿することで、そのメッセージを表示した環境のタイムゾーンに自動的に変換して表示できます。どういうことかというと、世界中どこから見ても同じ時間が表示されるようになります。イギリスで0:00と表示されているものを日本で見れば9:00と表示され、ニューヨークで見れば(前日の)19:00と表示されるのです。数字の羅列はUNIX TIMEで、次のコロンで区切られたアルファベット1文字で表示形式を指定できます。意味がわからないかもしれませんが、こちらのサイトで簡単にtimestampを取得できるのでご安心ください。

このように、たとえ地球の裏側からだとしても、時差の関係でプロジェクトに関わることができない、関わることが難しい環境をつくらないことで、誰もハンデを感じずに快適にプロジェクトに関わることができるでしょう。

おわりに

というわけで、初めて企画(ファンプロジェクト)関係の記事をしっかり書いてみました。一発目はやはりnoteを書き始めたテーマである「英語・言語交流」に即して、海外メンバーとの協同についてでした。私や私達が海外ニキたちと企画を進める理由が皆様に伝わったり、同じように海外ニキたちと協同したい方への参考になれば幸いです。

さて、3月の記事予定ですが……たぶんEXPO/fesのことになると思います。もともと執筆している記事も進めたいのですが、調査が必要な分、執筆に時間がかかっておりまして……そしてその他のタスク・やりたいことが多すぎてパニックです。自分のペース(全速力)で執筆を続けたいと思います。

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