ケンカ売りの少女

年の瀬も押し迫った大晦日の夜、小さな少女が一人、寒空の下でケンカを売っていました。あたりはもう真っ暗で、しんしんと雪が降っていました。

道行く人にひたすらメンチを切ったり、すれ違う人にわざとぶつかってみたり、こっちから歩きスマホしといて、
「チッ、邪魔」
って言ってみたりして誰か買ってくれないか挑発してました。

しかし、街ゆく人々は、年の瀬の慌ただしさから少女には目もくれず、目の前を通り過ぎていくばかりでした。
ていうか怒りよりもそんなことでいちいち構ってられませんでした。アンチや荒らし、頭のおかしい人にはスルーするのが一番効くのです。

一日中売り歩いても、ケンカを買ってくれる人はいませんでした。少女はお腹が減りました。もとはお腹が減ってるけどお金はないので暇つぶしにケンカを売っているだけでした。もうただの迷惑です。
寒さに震えながら新宿の夜の街を歩きました。自業自得です。

夜も更け、少女は少しでも暖まろうとマッチに火をつけました。そしてタバコにも火をつけました。未成年なのにこれはいけません。少女はライターよりもマッチ派だったのです。
マッチの炎と共に、暖かいストーブや七面鳥などのごちそう、飾られたクリスマスツリーなどの幻影…なんてものは現れず、口から吐いたタバコの煙が寒空に消えていきました。

タバコの煙が消えると同時に、池袋駅の終電のホームで酔っ払いに絡まれて返り討ちにしたこととか、DMで凸してきたセ○レ目的の捨てアカに真っ向にレスバトルして、相手が逆にブロックしたことで勝ったことを思い出しました。ケンカを売られたらネット上でも勝つのがこの少女だったのです。

タバコの火が消えると、その思い出も消え、残ったのは吸い殻だけでした。
少女はなんの躊躇もなくその吸い殻を道端に捨て、2本目のマッチに火をつけました。ケンカの武勇伝を思い出しながら、2本目のタバコの煙も空に向かっていき、空を見上げるとひとすじの流れ星…ではなく北斗七星を見ました。
少女はおばあちゃんのことを思い出しました。

「ババア…」

少女は北斗七星を見るとおばあちゃんのことを思い出します。おばあちゃんはいつもぱちんこCR北斗の拳5・覇者を好んで打っていたからです。設定が甘い台を狙っては好んで打っていました。しかし、おばあちゃんはスマスロ北斗の拳が出る前に亡くなってしまいました。

少女はもう一度マッチに火をつけました。前を見ると、光の中におばあさんが立っていました。明るくて、本当にそこにいるみたいでした。生きている時と同じように、おばあさんはおだやかにやさしく笑っていながら、右手でハンドルを動かし、左手でタバコをふかすジェスチャーをしていました。

「ババア…!」

マッチの火が消えるとおばあちゃんも消えてしまうのではないかと思った少女は、慌てて持っていたマッチ全てに火をつけました。マッチの光は太陽よりも明るくなり、赤々と燃えました。
ていうか物理的に燃えてました。近くの路上のゴミに引火したのです。
周りの人の協力もあり、何とかボヤ程度で済みましたが、警察から厳重注意を受け、さらに未成年なので補導されました。

何とか自宅に返してもらい、朝になると少女は目が覚めました。
朝の一服を済ませると、少女はスマスロ北斗の拳を打ちに行きました。

(了)


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