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【マダミス制作 虎の巻】#4 プロットの作り方

 マダミス制作では、本格的な制作を始める前に書く「プロット」というものがあります。

 「マダミスではプロットが全て」と言われることがありますが、プロットとはいったい何なのか、具体的に何を書けばいいのか、よく分からない方もいるかもしれません。

 本記事では、マダミスにおけるプロットの重要性、プロットとして書く内容について、詳しく解説していきます。





◆プロットとは?

 プロットとは、創作物における構想やストーリーの要約、すなわちシナリオ全体の設計図のようなものです。プロットには大きく分けて2つの役割があります。

 1つ目は重大な手戻りを少なくする役割です。

 マダミス制作では、キャラクターテキストを書いてから整合性が取れないことに気付いて書き直す、エンディングを書き終えてから齟齬を発見してやり直すといった事態がそれなりに発生します。

 もちろん修正は悪いことではなく、制作において重要な過程の一つですが、最初にシナリオ全体の設計図をしっかり組んでおけば、大きな手戻りや余分な修正を減らすことができます。

 2つ目は制作の軸となる役割です。

 制作中は、様々なアイデアが浮かんできたり、ある作業に時間を取られたり、期間が空いたりして、どんなシナリオを作ろうとしていたのかがよく分からなくなる場合があります。

 そういった場合でも、プロットがしっかり書かれていれば、あなたがこのシナリオを通して何をしたかったのか、何を体験して欲しかったのかといった初心に立ち戻ることができます。
 一つの物語を作り上げる過程で、軸がブレないようにするのは非常に大切です。


◆プロットとして何を書くのか?

 マダミスにおけるプロットの役割とその重要性は何となく掴めたかと思いますが、では、プロットとして何を書けばよいのでしょうか?

プロットとして書く内容の例

シナリオの全体像
 ●シナリオのポイント
 ●ポイントを演出するためのアプローチ
 ●起承転結
 ●推理の流れ

シナリオの外側
 ●ターゲット
 ●ログライン
 ●公開あらすじ

○キャラクター
 ●名前
 ●役割
 ●表
 ●裏
 ●変化
 ●関係性

○(簡易時系列)

 一例として、以上のようなものがあります。今回は、この例に沿って1つずつ説明していきます。


■シナリオの全体像

 シナリオの全体像としてプロットで考えておくべきものは、「シナリオのポイント」、「ポイントを演出するためのアプローチ」、「起承転結」、「推理の流れ」です。
 4つ目について、事件が起こり、その犯人を探すような狭義のマーダーミステリーであれば「推理の流れ」になりますが、ストーリープレイングや広義のマーダーミステリーでは「最終選択までの感情の流れ」、「葛藤から解決への流れ」、「課題解決のために想定される流れ」などに置き換えてください。

▷シナリオのポイント
 
シナリオのポイントとは、そのシナリオを作りたいと思ったきっかけから派生する、全体の核となる部分です。
 あなたがシナリオを通して「何を表現したいのか」、「何を伝えたいのか」、プレイヤーに「どんな体験をしてほしいのか」などを書き起こします。

●二転三転する飽きさせない議論展開。
●あることに気付くと全てがひっくり返り、一気に視界が開けるような推理体験。

シナリオのポイントの例1

●これからの未来のために、自分の大切な仲間を犠牲にするかどうかを選ぶ葛藤を体験してほしい。

シナリオのポイントの例2


▷ポイントを演出するためのアプローチ
 
表現したいこと、体験してほしいことをシナリオに落とし込むには、どういうアプローチが必要かを考えます。
 上記の例をそれぞれ引き継ぐと、以下のようなアプローチが考えられます。

●議論を3つに分け、議論ごとに与えられる追加情報で推理の流れをコントロールする。
●キャラクターテキストや議論前半には違和感を持つような小さな情報を散りばめておき、最終議論で大きな情報を提示する。

アプローチの例1合

●前半にはキャラクターになりきって、他のキャラクターと交流し、仲を深められるような情報を配置。
●中盤で全員の未来にとって重大な事態を開示。
●後半で仲間を犠牲にするか否かについて話し合ってもらう。

アプローチの例2


▷起承転結
 
シナリオのポイントとアプローチを元に、起承転結を考えていきます。起承転結については、「ストーリーラインの作り方」という記事でより詳しく解説する予定ですが、ここではプロット作成における考え方を示します。

 「起」はシナリオの世界観です。どんな関係性の登場人物が、どういう理由で、どこに集まって、物語が始まるのかを書きます。

 「承」はシナリオの展開です。どういった経緯で、どんな事件が起きており、どこが謎となるのかを考えます。

 「転」は推理やストーリーの転換です。どんな議論になるのか、何をきっかけに推理やストーリーが変わっていくのかを示します。

 「結」はシナリオのまとめです。全てが想定通りに進んだ場合、どのようにシナリオが収束するのかを考えます。


バーチャル空間でミステリー体験ができるというイベントにやってきた初対面の5人(1人はNPC)。専用のゴーグルをつけ、ミステリーの世界へ。


その世界の館で起きた殺人事件を調査する。いかにもな設定でゲームらしいところもありつつ、触覚・痛覚・嗅覚などやけにリアルに感じる部分もある。


新たにNPCの殺害が発覚するとともに、世界の違和感に気付き始める。どうやら、ここはバーチャル空間ではなく、現実であるようだ。


黒幕の正体が明かされ、事件は解決。全員無事に解放される。

起承転結の例1


とあるシェルターで生活する4人。喧嘩もたまにはあるけれど、みんなで仲良く暮らしている。今日は「冷蔵庫から消えたアイス」の話で持ちきりらしい。


アイスを食べた犯人を探したり、雑談したり、いつもと変わらない一日を過ごす。


シェルター内で突如発生した打つ手のない感染症。シェルター全体の未来のために、感染者を外(=危険な空間)に出すか否かの選択を迫られる。


苦渋の決断の後、別れのエンディング。

起承転結の例2


▷推理の流れ
 
事件の概要、推理に必要な要素を記載します。真相に繋がる要素だけでは、一本道の推理になってしまうので、ミスリード要素も一緒に考えておくとよいでしょう。


■シナリオの外側

 現在、マダミスは週に何本かのペースで次々とリリースされています。そんな中であなたの作品を遊んでもらうには、見た人に「面白そう!」と思ってもらう必要があります。

 しかし、マダミスはネタバレ厳禁で、遊ぶ前には中身が分からないコンテンツです。中身を知る作者だからこそ書ける公開情報でしっかりと魅力を伝えるのが重要となります。


▷ターゲット
 
公開情報を書く際には、どういう傾向のある作品なのか、どんな人におすすめなのかを意識しておくとよいでしょう。

 ホラーシナリオなのに明るい雰囲気で伝わってしまう、高い難易度や重厚な推理が売りだが手軽に遊べるかのように思われてしまうといった状態は、ミスマッチが起きやすく、シナリオが正しく評価されない原因となるので避けるべきです。


▷ログライン
 ログラインとは、どのような登場人物が何をする物語なのかを簡潔に書いた一文です。

 公開済みのシナリオを例にとったほうが分かりやすいと思いますので、ウズプロダクションが企画・制作した作品からいくつか挙げてみます。

『女王未遂』
その国で最も優秀な【女王】の名を持つスパイ・マスターが招集した密会にて、東西4名のスパイが織りなす駆け引き&ミステリー。

『殺意のシンフォニー』
キャラクターの背景・行動がマンガで読める、2人用マーダーミステリー。

『コインシデント・ジャメヴ』
ここにいる人、全員、【2度目】――とある事件が起きる前の教室に集った四人の男女は、各々の「目的」を遂行し、たった一つの「証明」に辿り着けるか?

『死神はトリックをかたらない』
自らを隠し、相手を欺け――千の奇術師、司丹神朔夜(しにがみ さくや)の死をめぐる奇術師たちのミステリー。


▷公開あらすじ
 
公開あらすじはログラインを軸に作成します。起承転結の「起」も参考になります。
 上記から2つの作品をピックアップして見てみましょう。

『女王未遂』

ログライン
ある帝国で最も優秀な【女王】の名を持つスパイ・マスターが招集した密会にて、東西4名のスパイが織りなす駆け引き&ミステリー。

公開あらすじ
その帝国は、西と東の都市に分かれ、長らく内戦をしていた。
しかしある時、その内戦をようやく終わらせる目途が立ったということで、とあるホテルにて、西と東の代表者が秘密の会談に臨むこととなった。
外交官による公式発表の前に事前準備として密会するのは、東西でそれぞれ2人ずつ選ばれた腕の立つスパイ。密会を招集したのはその国で最も優秀なスパイ・・・【女王】のコードネームを持つ、顔も名前も容姿も性別も不明の、東陣営のスパイ・マスターである。
しかし、いざ開催場所のホテルに集まった代表者のスパイ4名は、絶句することとなる。
秘密の会談。その場所に選ばれていたスイートルームに、なんと、仮面をつけた女性が血を流して死んでいたからであった。
この女が【女王】なのだろうか。一体、誰がこの女を殺したのだろう。

『コインシデント・ジャメヴ』

▶ログライン
ここにいる人、全員、【2度目】――とある事件が起きる前の教室に集った四人の男女は、各々の「目的」を遂行し、たった一つの「証明」に辿り着けるか?

▶公開あらすじ
「ここにいる人、全員、【2度目】」
夕方の教室、信じられないことが起こる。
とある事件が起きる前の教室に集った四人の男女。彼らはある「目的」のため、この場所に集まった。思惑は様々だが…各々の目的を「遂行」できるだろうか?
そして、たった一つの「証明」にたどり着けるだろうか?


■キャラクター

 キャラクターのプロットでは、「名前」、「役割」、「表」、「裏」、「変化」、「関係性」などを考えます。それぞれについて順に見ていきましょう。


▷名前
 表裏、変化、関係性などを書くときにキャラクターが判別できると便利です。名前は後から決めるタイプの方は、ひとまず記号か何かで置いておくとよいでしょう。

▷役割
 
犯人役、探偵役、共犯者、黒幕など、キャラクターが持つ役割を考えます。

▷表と裏
 
表と裏とは、他のキャラクターから見える部分見えない部分(秘密や目的)のことです。

表:裕福そうで紳士的な男性。職業は医者。
裏:実は医者ではなく、ある目的のためにやって来ている。

表:しがない老人。
裏:実はその国の王である。

表:怯えている少女。
裏:実は両親を殺されたことに対する復讐心を燃やしており、武器を隠し持っている。

キャラクターの表裏の例

▷変化
 
キャラクターがシナリオの中で何を知り、どう変化していくのか、シナリオを通して何を解決していくのかといった変化を書き出します。

●序盤は記憶を失っており、自身が犯人だと気づいていないが、推理を進めるうちに自分が殺してしまった可能性に気付く。

●ある人物を恨んでいたが、話を聞いたり、新たな情報を得たりするうちに、気持ちに変化が生まれる。

キャラクターの変化の例

▷関係性
 
初対面なのか、知り合いなのか、知り合いだとしたらどういう関係なのかなど、他のキャラクターとの関係性を書きます。どちらからから一方的に知っている場合、昔会っているが忘れている場合などもあるでしょう。


■簡易時系列

 プロットとして必須ではありませんが、重要な行動を中心に、簡易時系列を組んでおくのもオススメです。一番上の行にキャラクター、一番左の列に時間帯を設けたような表を利用するとよいでしょう。

簡易時系列の例

 キャラクターテキストとして配布する詳細な文章を書く前に、こういった簡易時系列表で行動を整理しておくと、破綻や齟齬をできるだけ避けることができます。


おわりに

 今回はプロットとして書く項目の例とそれぞれの内容について解説しました。
 プロットはマダミス制作を円滑に、そして地に足をつけて進めるために重要なものの一つです。

 普段からプロットを書く方は、より自分に合った方法を見つけるために、プロットを書いたことがない方は活用し始める際の参考に、本記事を使っていただければと思います。


【ライター】
ウズスタジオ編集部
マダミス通話アプリ「ウズ」のシナリオ担当チーム。
ウズに掲載される作品の審査・公開対応、公式シナリオの企画・制作、マダミス制作のナレッジ共有等をおこなっている。

ライター紹介

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