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売却した事業のロックアップ期間を終えて、ノマド起業家に戻りました。

こんにちは。
かつてUXマンと呼ばれ、今は一般起業家をしている吉永悠記と言います。

先日、約1年前にM&Aした事業について、ロックアップ期間を満了したため退社しました。退社後は自分の会社で、領域を問わず事業を作りまくっています(そしてめちゃくちゃ外しています)。

そこで今日は、自分のMA後の仕事についての振り返りを、Exitを目指す全ての起業家と共有できればと思います。拙いながら、事例として少しでも参考になれば幸いです。

自分も以前、M&A関連のセミナーやイベントに足しげく通った時期がありますが、一般化された話や売却時のスキームの話が多くて売却後についてあまり解像度が上がらず、むしろ先輩がたに聞いた話や書籍の方が役に立った気がします。

なので、大した規模のM&Aではないですが、今度は自分の経験が誰かの役に立てばと思い、できる限り、売却後についてのリアルな振り返りを共有します。

ロックアップと業務委託契約

売却時、オーナーやリーダーにロックアップがかかる場合、その期間は2〜3年のケースが多いと思いますが、本件では、自分からお願いして約1年のロックアップにしてもらっていました。

売却で得たお金ですぐに別の事業を立てるつもりで、1年以内にはそちらに注力する計画を立てていたためです。柔軟に条件を変えていただけたのはありがたいお話でした(その後、並行しながらいくつか事業を立てることが出来ました)。

またこの時、自分の契約形態として、業務委託での契約をお願いしました。しかし今思えば、この時正社員で契約していれば、後に遭遇するいくつかの問題は生まれなかったように思います。

例えば、プロダクトオーナーでありながら、マネジメントの権限や採用の権限を持てませんでした。また、社内に導入されている便利なSaaS群を使うことが出来なかったり、使えてもかなり権限に制約がある状態になったり。

予想していなかったわけではありませんが、買収するのだからその辺は特別扱いしてもらえるだろうという甘えがありました。フリーであり続けるのは個人としては合理的な選択でしたが、起業家のする選択ではなかったなと思います。

事業を伸ばす意欲があるのなら、正社員や役員といった、コミットメントをしっかり求められ権限を十分に与えられるポジションで入るべきです。

採用面での苦労

入った後に知ったのですが、社内にネイティブアプリの人材が少なく、そのためにネイティブアプリのエンジニアの採用枠を設けてもらいました。

ただ、更にあとで知ったことなのですが、エンジニアについてはWEBとゲームの技術を持つエンジニアを積極採用する方針だったようで、アプリでの採用には開発部署自体が消極的でした。

また、自分がネイティブアプリ信者みたいなトコがあって、WEBアプリ中心の技術スタックに対して「スマホシフト出来ていないのでは?」と、不満と反発を覚えていたのも否めません(冷静に考えればこれは的外れな反発です)。

この2つが相まって、実際、採用できたのは自分や自分と一緒にジョインしたメンバーのリファラルでのみでした。後述しますが、この時点で採用方針──ひいては開発方針を変えていればもっとよい進捗をもたらせたように思います。

「敵を知り己を知れば百戦危うからず」と言いますが、まさに「己」を知りませんでした。自分が考えたことやリサーチ結果の通りに開発することにこだわって、自社の強みや弱点を無視していたように思います。

スタートアップはストーリーテラーであるべきで、起業家は脚本家であるべきだと思っていますが、その時描くストーリーは現実に則して最高のものでなければならないなと反省しています。

下記は、ニーア・オートマタなど数々の人気ゲームの脚本を手掛けるヨコオタロウ氏の言葉です。

ゲーム開発では色んな要素によって次々に変更が起きてくるのですが、実はシナリオで回収するのが工数管理的に最適解であることが多い
(中略)
例えば、「このイベントシーン、絵に違和感あるんだよなあ」となっても、実は映像を作り直すより、シナリオを直した方が劇的に早いことの方が多いですよね。
──ヨコオタロウ
https://news.denfaminicogamer.jp/interview/170828/2#i-1

畑違いですが、プロダクトを作る起業家(というか自分)にも同じ哲学が必要だと感じています。

交流不足と抱え落ち

売却当初は、あまり外の手を入れたくないという気持ちが強く、意図的に自分に仕事を集中させていました。

UIデザイン、UXデザイン、アプリのテスト、データ分析、広告配信と分析、SNS運用、LPO、キャンペーン運用、カスタマーサポート、チームビルディング、経理作業、etc...。

せっかくリソースのある会社に入ったのに、その利点を活かそうとせず、貧乏スタートアップの「何でも自分でやる」やり方を続けてしまったのです。

加えて、大きな会社なのと関係者が増えたことでミーティングも増えていくので、1つ1つの実務に割く時間がどんどん少なくなりました。

戦略面の思索や技術的なキャッチアップにも全く時間を割けなくなり、しだいにデザインやカスタマーサポートといった足元のことにも精彩を欠いてしまうようになりました。

忙殺から来る閉塞感・デモチ

売却から7〜8ヶ月経った頃、広告費の増大やWEB版・Android版のリリースなどにより、ユーザー数は売却時の50倍以上になっていました。しかしこの時期は個人的には絶望の時期にありました。

数字に頭打ちが見えていたためです。ユーザー数は増えても、色々な「率」が上がらない状況でした。自分が宣言した目標にまったく到達せず、一方で日常業務をこなすので精一杯の日々。開発者として恥ずかしさ極まりないことです。

精神的によくない状態になり、WEB版がリリースされた時もAndroid版がリリースされた時も、根本的な改革への焦りから「今はこんなことしてる場合じゃない」と心の内で不満を囁く自分がいました。

優先順位の変更やピボットへの遠慮

自分はUXデザイナー・リサーチャーなので、サービスについて思い悩んだ際は社内ではなく、ユーザーのインサイトに答えを探しに行く習性があります。

この時もそうしました。

交流したことのあるユーザーさんと話をしたり、休日に1日中Twitterで観察したり、自分がユーザーになってみたり。

すると気づくことがいくつかあり、それらをプロトタイプに落とし込みます。しかし、そこで止まってしまうのです。

既に走っているプロジェクトなので、新規事業と違い、先に決めた優先順位に沿って動いています。せっかく何度もミーティングを重ねて、決めて、進めているものたちがあるのに、それをひっくり返して別のものを差し込むのは、掛けた手間や時間が勿体ないように思え、優先順位の変更やピボットに消極的なインセンティブとなっていました。

この「遠慮」が原因で、リサーチやプロトタイピングをしても、なかなかユーザーに届く価値に昇華することが出来ませんでした。

開発チームとの距離感

上記のような忙殺具合から、実はアプリ開発チームの指揮を、途中からエンジニアのリーダー的ポジションの業務委託メンバーに任せていました。

これは中途半端な選択だったと思います。自分がやるか、社内のゼネラルマネージャー層に委ねるかのどちらかにすべきでした。そうすればコミュニケーションの階層が減るからです。

また、自分が離れ、かつ正社員でないリーダーになったことで、UXにこだわる人間が開発チームに存在しない状態と社内の調整役がいない状態を同時に招いてしまいました(指揮を引き継いでくれたメンバーにはとても感謝しています)。

今思うと何でそんなことも思い至らなかったんだろうと思うのですが、とにかく忙殺されていた記憶しかないですね...。

革新への意欲と仕事の哲学を切り離せなかった

あとは、スタートアップでない会社の力学に自分が不慣れだったのも困った点でした。

例えばWEB版やAndroid版の開発については、自分とは違う部署のエンジニアが担当してくれていたのですが、こちらについては完全にマネージャーが別で、優秀なマネージャーさんなのでテキパキと開発を進めて頂けました。

彼らは、個々のスキルが際立って高いとか熱量が高いとかではなく、リソースの足し引きと管理で安定してパフォーマンスを発揮していく。そういう人たちでした。

個々が突破口を見つけてめちゃくちゃでもぐちゃぐちゃでもいいから各々価値や成果を出していこうとするスタイルを信奉していた自分は、その力学と相性が悪かったように思います。

彼らとのコミュニケーションは、課題について会話するのではなく、どういうものを作るかお願いしたらそれを作ってくれる、というものになりがちでした。

お願いしたことは概ねスケジュール通りに終わるので特に言うことはないけれど、1つのチームとして仕事出来ていない。でも自分は「安定したパフォーマンス」の中に入りたくない。むしろイシュードリブンな文化に変えてやりたい。そんな感覚だったことを憶えています。

でも彼らはそれが得意だったのですから、乗るべきだったのです。

スタートアップにはスタートアップの戦い方があるように、資本のある会社にも相応の戦い方があるということにもっと早く気づき、その波を利用することを思いついていればと思わずにはいられません。

強くてニューゲーム出来たらどうするか

たらればを言っても仕方ありませんが、もし今の自分が1年前に戻れたとしたら、こうすべきだっただろうというのは、やはり考えてしまいます。

まずは、会社との関係性として、業務委託ではなく正社員や、可能なら株主や役員で入る選択をするでしょう。自分の自由の代償に事業を伸ばすのに枷をハメる選択は悪手です。

そして真っ先に社内のマーケターたちと連携を強化し、彼らの持っているデータをかなり参考にしたり、広告やデータ分析についてお任せします。

やる気があるのは良いことだったと思いますが、戦略と開発以外のことは、社内の色々な人たちを信用し、早くから大いに任せ、積極的にフィードバックし合う関係性を築くべきでした(任せる勇気が出たのは、入ってだいたい半年後でした)。

また、プロダクトについても、ネイティブアプリのエンジニアの採用枠は廃し、公開用のAPIを作る方に採用枠を設けると思います。主な開発計画には、クライアント側の開発を全て後回しにして、オープンAPIやサードパーティ用のマーケットを作る方に集中するでしょう。

これは、プラットフォームとしての戦略という意味もありますが、売却先はアプリよりもWEBの技術に長けていたためです。既に社内にある開発部署や技術スタックをしっかりリスペクトし、その方針に抵抗しない方がプロジェクトをスムーズに進められます。組織の変革にスタートアップ魂を燃やすのは無駄です。気に入らないものがあっても、従うか辞めるかの2択で意思決定すべきです。

プロダクトチームについては、管理は社内のマネージャーにお任せした上で、もっと社外に連れ出すようにすると思います。作業に集中してタスクをどんどんこなしてほしいという気持ちを抑えるのにはとても苦労すると思いますが、そこはマネージャーさんにお任せし、僕からは彼らがユーザーと対話する時間やメンバー同士の哲学を共有する時間を提供していきます。

反省点まとめ

事業を伸ばす意欲があるなら、自分の自由欲しさに業務委託を選んではいけない。正社員か、可能なら役員などで入るべき。
社内の人々を信用し、自分のすべきこと(自分の場合開発と戦略)以外については積極的に任せ、フィードバックし合う関係性を築く。また、任せることを恐れてはいけない。
一度立てた計画の遂行に拘泥せず、社内にある方針や技術スタックを早く察知し、リスペクトし、その得意分野に沿って計画を修正すること。
メンバーのマネジメントを成り行きで誰かに任せるのではなく、正社員のマネージャーに任せるか自分で行うこと。UXにこだわる人間が開発部署にいない状態を作らないようにする。

M&A後は特に謙虚に

売却後は正直なところ、ユーザー数以外は思ったほど伸ばすことが出来ませんでした。

主な要因はここまで書いたように、すべてを自分でやろうとして、買収先の会社のリソースを上手に頼れなかったことにあるように思います。

Exitから来るヒロイック症候群というか、メサイア症候群のようなものが邪魔していました。「ユーザーや事業のことを一番分かっているのは自分で、自分が全てをやらなければならない」という気持ちです。

スタートアップでは自分がトップラインを引っ張ることは重要ですが、M&A等の後については謙虚な思想に努め、会社や部署を1つの主体として「己」を知り、自分の思想との相性を見極め、得意な部分に上手く乗っかることが肝要だなと思います。

あとは、仕事だけに徹するのではなく、もっと色んな人と飲んだり遊んだりすることで社内の事情をいち早く察知することも出来たかもしれません。それだけでも結構違ったかもしれませんね。

離脱後の気持ち

辞めますと言ったのは自分なのですが、実際のところはめちゃくちゃ未練タラタラで、離脱に際しては一般的な引き継ぎ資料に加えて、これまでどういう意思決定をしてきたかをすべて遺したり、自分がまだしばらく居たらどうするかについての記述など、大量のテキストを残したりしました。

自らデザインし自らユーザーと触れ合ってきた愛するプロダクトだったので、まだなかなか子離れできずにいます。直近、かなり精神的に不安定になり、生活も仕事も荒れ放題になりました。今もややリハビリ状態です。

自分ではかなり割り切りの良い性格だと思っていたので、実際離れることになってこんなに荒れるとは思っていませんでした。サービスやユーザーを心から愛せた幸せな時間だったなと思います。

謝辞

プロダクト発足から2年間ずっと手伝ってくれた佐藤くん、無理を言って売却後も一緒に来てくれた田中さん、急に声をかけたのに快く手伝ってくれた呉維さん、起業家魂に刺激をくれたはっさん、

1年前、Messengerで声をかけてくれた辻さん、最初から最後までずっとお世話をしてくれた生原さん、自由にさせてくれた明石さん、何かと話しかけてくれた三浦さん、ちょいちょい夜まで飲みに付き合ってくれた中畑さん、細かくサポートしてくれた企画部や開発部の皆さん、

自分が丸1年間リソースの半分以上を別会社での仕事に取られることを知りながらSUIHEI社の共同創業者になってくれた谷口くん、

いつもありがとうございます。
これからも、色々と頼りにさせて頂ければ幸いです。

吉永悠記
会社:https://suihei-inc.studio.site
ポートフォリオ:https://iamuxman.studio.site
Twitter::https://twitter.com/yoshinaga2015

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