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社内UXデザイン組織 4年目の現在地 - UXデザインが当たり前になったいま、CoEにできること

あけましておめでとうございます。今年もよろしくお願いします。
ISID改め電通総研 UXデザインセンターの村田です。
2021年1月にUXデザインセンターという社内デザイン組織として活動を開始してから3年経過し、4年目が始まりました。
社名や会社組織の変更に合わせて、UXデザインセンターのサイト及びステートメント(後述)もリニューアルしています。

この記事では、3年間の活動の中で経験してきたことと見えてきたこと、そしてこれからについて書いていきたいと思います。
ふりかえりと、現状認識、所信表明を含むのでやや長文になりますがお付き合いいただければ幸いです。


組織のマネジメントを担当するときに考えたこと

4年目に入る前に、2023年にどのように取り組んできたかお話したいと思います。

2023年、つまり組織ができて2年目が終わり3年目がはじまるタイミングでマネジメントを担当することになりました。
その時点で考えていたのは、2年間順調なスタートが切れたということと、だからこそ変化・成長していかなくてはいけないということでした。

啓発や実案件を通じて社内にUXデザインを広めてきた中で、一定の認識や評価を得られたという収穫と、その裏付けとなる組織としての成長もあった。
他方どんな考え方やアプローチでも、それが拡がって一般化していくと、その特別さは徐々に小さくなっていく。
2023年開始時点で考えていたのは、UXデザインが当たり前に取り入れられる状況を前提にして、どのようにより高い付加価値を出していける組織に変わっていけるかということでした。

3年間に起こった変化 - UXデザインが当たり前になりつつある

実際の変化としてもこの3年間の世の中の状況に目を向けると、UXデザインが一定の市民権を得たと言えるでしょう。日頃様々なところで耳にするようになったということもありますが、私たちが関わる機会が多いシステム開発の中で言うと、RFPの中にUXに関する要件が含まれているのが当たり前になってきています。
2021年時点やその少し前は、UXの良いサービスを作るということがサービス開発や更改における目玉、特徴となるポイントでしたが、他と並ぶ「要件のひとつ」となってきたのですね。

UXデザインセンターの3年間

UXデザインセンターの活動に目を向けてみると、この3年間の世の中の変遷に対応するように作業内容がシフトきたといえます。
もちろん2021年当初からUXデザインにも数多く取り組んできましたが、設立当初は表面的な画面デザイン(5階層モデルで言う表層:surface)に関する問い合わせがかなりの比率を占めていました。

UXデザインの5階層モデル

システム開発における画面設計が終わった後、Excelで作られた画面イメージを渡されて、「これを使いやすいデザインにしてほしい」と相談されるのがその代表的な流れといえるでしょう。

こういった状況に対して、プロジェクトを通じた説明はもちろんのこと、プロジェクトマネージャーやエンジニアが大多数を占める各事業部門に対する説明会をはじめとした啓発も継続してきました。

そういった活動を通じてUXデザインの位置づけや意味を知り、相談いただく方が徐々に増え、UIだけのデザインも多かったUXデザインセンターとしての仕事も、UXデザインを含む案件が中心になってきています。

変化の中での課題感 - どうやって ”デザイナー” として成長するか

このように徐々に組織として成長していますが、同時に取り組むべき課題も感じています。
もしかすると自分たちだけではなく、様々なデザイン組織において共通なのではないかと感じる部分もありますので少し詳しく考えてみたいと思います。

UXデザイナーの仕事について説明する際に、「デザイナーという名前ではありますがセンスでデザインしているわけではなく、論理に基づいてかたちにしています」という表現を耳にしたり、口にしたりすることがありますね。
もちろんこれは間違っていないのですが、私はこれはUXデザイン全体の説明ではなく、UXデザインが満たさなくてはいけない要件なのではないでしょうか。
行動の中にある使いにくさや困りごとを原則に基づいて取り除く、その上でより心地よい体験をどう実現していくのか。そこまで含めて “デザイナー” の仕事だと考えています。

どんな組織でも、人材育成、組織強化をしていくと、時間や取り組みの差こそあれ、この「満たさなくてはいけない要件」には辿り着きます。
なぜならば、そこには論理や原則があって、それに従うことである種の正解が得られるからです。
しかしその時点はまだ ”守破離” で言うところの、”守” の半分程度、基礎編ができたということなのかなと思っています。

“守” の残り半分、応用編は、論理や原則をそのまま活用したり説明したりするのではなく、武器として使いこなしてよりよいものをつくっていくこと。
その先の ”破” は、論理や原則をスタート地点として捉えてよりよいものを追求していくこと。
論理や原則を答えではなく、手段に過ぎないものとして扱い、どう取り組んでいくのか。

こうすればいいという答えが一つではない中での取り組みについては、現在のUXデザインセンターでは、まだ経験豊富なデザイナーに依存しているのが現状です。
組織としてきっちりとこなせるようにしていくためには、メンバーそれぞれがただ実戦経験を積むだけではなく、多くの仕掛けが必要となります。
ハードルは決して低くありませんが、新しいスタートに際して自分たちのハードルを少し上げてみる次第です。
なお “守破離” というときの “離” って、UXデザインにおいてどういうことなのでしょうね。
自分たちが “破” に至れれば見えてくるのかもしれません。

なぜ ”守” だけでは不十分なのか

“守” もとても大切なことで、それによって解決される課題は今後もあり続けるのは間違いありません。しかし “守” だけでは不十分と考えている、その理由は2つあります。

①生成AIの存在

昨今話題の生成AIについてその適用範囲や限界などが議論されていますが、基本的な線として論理や原則に従って正解を導き出せるものは生成AIによって自動生成が可能であると捉えて差し支えないと思います。
そしてそれはデザインの領域も例外ではなく、特にこれまで説明してきたように ”守” の、特に基礎編は完全にこの生成AIが代替していく領域といえるでしょう。個人的な予測として遅くとも2年くらい後には基礎的なワイヤーフレームやデザインカンプを出力するという部分について生成AIはそれなりの作業を担う状況になっているのではないかと考えています。最終的にどこまでのデザインがAIに取って代わられるかは議論の余地がありますが、基礎的な領域についてはAI活用は前提となると考えておいた方がよいでしょう。

②本質的な意味でのデザイナー性

デザイナーが行う作業の中で、求められているものを正しくデザインすること、課題をデザインで解決することなどいくつかの要素があります。
ただ私の考え方としては、要件をいかに正しく実現するかというのはエンジニアの、いかに課題を解消するかはコンサルタントが持つ本質的な要素だと捉えています。それがデザイナーに必要ないということではなくて、どちらもデザイナーに必要な要素ですが、能力として持つものではあるが本質的な要素ではない。
では、デザイナーの持つ本質は何か。
「いかによいものを作るかを追求し続けること。」
「よい」は、使いやすい、かっこいい、美しい、心地いい。その時々に応じて色々な言葉に置き換えることができます。それをあらかじめゴールを定めるのではなく、少しでも「よい」に近づけていく。それこそがデザイナーの原点であり、楽しみであると私は考えています。
これはUXデザイナーでもグラフィックデザイナーでのビジネスデザイナーでも共通のものでしょう。
理由を2つ挙げましたが、いずれ基礎的な部分が生成AIなどに置き換わっていく危機感はありつつも、デザイン組織として本質的なデザイナーの原点を忘れず追求を続けたい。それがこれからを考える源泉になっています。

UXデザインセンターのこれから - 2つの方向性

4年目に入ったUXデザインセンターですがこれからの次の一歩は、そのための踏み出しとなり、大きく2つの方向性を考えています。

①より深いレイヤーへの取り組み
お話してきたように、この3年間でUXデザインセンターの取り組みは、表層(surface)から骨格・構造・要件・戦略(skelton/structure/scope/strategy)へと徐々に深いレイヤーの取り組みが増えてきており、これからもより深いレイヤーの仕事への取組みを強化していきます。
例えば組織立ち上げ支援や組織戦略立案、例えば新規事業やサービス立ち上げへの起案段階からへの参画。
そういった取り組みを通じて、システムに強みを持った会社の中にありながら、システムに留まらない領域への取り組みを牽引していきます。

②より高いデザインの質への取り組み
これまで中心であった表層から骨格・構造レイヤーのデザインについても、これまで通り取り組んでいきますが、それだけでなくひとつひとつのデザインの質を高めていきます。
また別の機会にお話しできればと思いますが、プロジェクトの進め方の見直しや能力開発など様々な取り組みを通じて組織としての質の向上を目指します。

新しいステートメント

今後の2つの方向性のどちらの取り組みでも、使う人の状況に合わせて、ちょうどよく。
それだけではなく、ちょっとよく。
そうやって取り組んだ未来は、きっとよい。
UXデザインセンターは、そんな想いで4年目からも取り組んでいきます。

足元で言えば、

  • ちょうどよいものを作り出すことにこだわること

  • ひとつ前の成果よりも必ずちょっとよくなっていること

  • その先のきっとよい未来を模索し続けること

まず自分たち自身がひとつひとつ取り組んでいくことを年初の所信表明と代えさせていただきます。

written by 村田 祐史
新規事業企画などを行っていたが、気が付けばUXデザインセンターのマネージャーに。
趣味は引かれるほど多いが、お酒と美味しいもの、アートがとても好き。


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