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ゲームのUXデザインってなんなのか本気で考えた

ゲーム制作に携わっている、悩めるUIデザイナー・UXデザイナーへ。
その気持ちわかります。

「ゲームのUXデザインって一体なんなの?」


この記事の登場人物

(左)ありーずさん
人間中心設計スペシャリスト
ゲーミフィケーションつよつよデザイナー
オタク
 
(右)アンジェリカ
元テレビゲーム開発スタッフ
UI/UXデザイナー
オタク

■悩めるゲームUIデザイナーの話

最初に少し私の話をします。
アンジェリカという名前はゲーム用に使っているハンドルネームで、ミドルネームでもなんでもない偽名です。緑あふれる北海道で生まれました。

しかし緑には興味がなくポケモンに夢中になり、チャリのカゴにN64のコントローラーを入れて友達の家にダッシュして過ごしました。
スターフォックス64のスリッピー(カエル)の声真似で永久に笑える感性のまま大人になった私は、地元のゲーム会社に就職しました。

マリオパーティシリーズの開発を主に担当している任天堂グループの会社、エヌディーキューブ株式会社で長いことお世話になりました。
UIデザインを学び、アートディレクションを学び、そして、大好きな作品のスタッフクレジットに名前を刻むことができました。

その結果、海外の情報サイトに個人情報を転載されたうえ何故か年齢を6歳も盛られるという屈辱も経験しましたが、ゲーム業界での仕事は本当に楽しかったです。

しかし、UIデザイナーとしてのキャリアを積むうち、私は壁にぶつかりました。

「UXデザインってなんなんだろう」
「どう勉強すればいいんだろう」



■HCD(人間中心設計)との出会い

書籍も事例も、アプリ開発やwebデザインの話ばかりで、ゲームの話は見つかりませんでした。「いまどきのUIデザイナーはUXも考えないとね😉」という概念ばかりが世間に飛び交って、具体的に何をしたらいいのかよくわからなかったんです。

学ぶうち、私はHCD(人間中心設計)の考え方を知りました。

私はこの分野の勉強に引き込まれました。
HCDの考え方をうまく使えば、アプリやWebサイトだけでなくあらゆる製品の使用体験が向上するというではないですか。しかし、本を読むばかりで実践をしなくては意味がない。

私は愛するゲーム業界を出て、株式会社ゆめみの門を叩きました。

顧客体験設計の支援を得意とし、HCDの資格保有者がゴロゴロいる環境に身をおけば、望む成長機会が得られると思ったためです。成長し、まだ見ぬUXの世界を見るのだ!

「ありーずさん!HCDでゲームのUXデザインはできるようになると思いますか!?!?!?!?」

「無理だと思う」


〜 完 〜



■HCD、ゲームでは使えないんか…?

「HCDって、全体のデザインのレベルが上がるから便利なんだけど、あくまでツール。そして、『改善すること』に強いツールなんだよね」
「おもしろさをゼロから作ったり、世界観を作ったり…っていう部分には使いにくい。というかエンタメには不向き

「薄々そんな気はしていました」
「でも逆に言うと、ユーザビリティの改善って部分に絞ればゲームにも使えるってことですかね?」

「うん、使える。というより、似たようなことは既にゲーム会社でもやってると思う」
「作ったものをテストして、改善点を見つけて、解決策を考えて、評価する…って流れ、ゲーム会社でもやるよね?」

「確かにやってたわ」
「ただ、HCDの知見があれば、テストの仕方改善点の見つけ方についてはもっと工夫できたと思いますね」

「本当はアンケートよりインタビューのほうが向いてた…とか、ありそうだね」
「ちなみに、ゲームセンター用の筐体にはロケーションテストっていう方法もあったりしたよ。データのとり方は紙アンケートだったり、表情だけ見られているケースだったり色々あるんだと思うけど、僕が参加したテストではその場でインタビューしてた」

ロケーションテストとは、主にアーケードゲームにおいて実施される、開発途上のゲームを一般公開し、ユーザの意見の取り入れ・ゲームバランスの調整・デバッグ・市場調査などのために行う、ベータテストの一形態である。

Wikipedia 「ロケーションテスト

「でも、HCDで『改善点を見つける』はできても、『解決策を出す』ゲームの分野では難しいと思いますね。ルール作りや演出で解決するとなると、結局はアイディア勝負になる」

「最終的にはアーティストのひらめきが必要、ってのはエンタメの宿命なんですかね…」
「私が調べても情報が見つからなかったのも、ゲームの分野では再現性のある手法化に成功してる人がまだいないってことなのかも」

「「知ってる人がいたら教えて下さい!」」

 


■ちなみにゲーミフィケーションとは

「ところで、ありーずさんはゲーミフィケーションの分野に詳しいですよね。なんとかして理論でゲームを作れないかとあがいているゲームクリエイターは少なくないと思うんですけど、ゲーミフィケーションの知見は役に立つと思いますか?」

「これは僕の考えだけど、ゲーミフィケーションでゲームは作れないと思う」

「またダメだった・・・・・・・・・・」

「あくまで『ゲーム化』だしね。学習、スポーツ、ダイエットのように、『習慣化』が目的のものには効果を発揮する
「けど、それはゲームの楽しさとは違う。モチベは上げてくれるけど、エンタメ的な意味で面白い体験にはならない」

「ただ、これについてはゲームメーカー出身の人は違う考えを持っていたりする」
「もともと『ゲームとはアートや演出を含めて作るもの』って発想の人だと、本当に楽しいものが出来上がることもある。仕組みづくりという意味ではノイズが多い面もあるけど」

「『楽しい』の舌が肥えてる人からすると、単にゲームっぽい仕組みを敷かれただけじゃちっとも奮い立たなかったりするもんなあ」
「なんにせよ、ゲームを作るための理論ではないってことですね。やっぱり、理論の力だけでゲーム体験を整えるのは難しいのかなあ〜」
 


■ゲームで「UX」って呼んでるもの、曖昧すぎ問題

「てか、そもそもゲーム体験のデザインって、構成要素が多すぎなんだよなあ」
『ルールのおもしろさ』ユーザビリティ』『世界観』『演出』…」
「ゲームってそもそも総合芸術で、色んな要素を絡み合わせて1つの体験を作るものじゃないですか。どの要素も切り離せないし、どれのことを指してUXと呼ぶのか定義しようとすることがわりと野暮ですよね」
「だからUXって言葉の共通認識が持ちにくい…

「ディズニーランドに入ったときに舞浜モードになる感覚ってあると思うんだけど、あれと同じで、『このゲームを起動したらこういう気持ちになる』を作り手が意図的に起こせるかどうかが重要だと思う」

「(北海道出身だからあんま舞浜行ったことないな)」
「そうですね」

- 余談 -
この話題は、HCD-NetのUX連続セミナーで聞いた怖い顔の店主がいる高級寿司屋の話が参考になりました。2万6千円払って、20分で食べ終わって、ガチガチに緊張して店を出るという…

最悪な体験に聞こえますが、高級店というのは未知の世界に足を踏み入れるドキドキを買っているという話でした。「いつかは常連になりたい」と願って寿司沼にはまっていくのです。店主がニコニコしてサービスしてくれたら、この価値は得られない。

「そういう意味では『世界観』と『演出』の設計というのは、ゲーム分野のUXデザインにおける最も重要な業務であり、独自の業務だと思います」
「他の分野に例えると、空間デザイン場のデザインにも近いスキルなのかなあと感じました」

「(そして、プランナーがやるのかアートディレクターがやるのか総合ディレクターがやるのか、最も切り分けが難しい業務だったり・・・・)」
 


■ゲームの「世界観」って何すか

「ところで、『世界観』って、こういうの↓を想像しかねない言葉だと思うんですけど、そういうことじゃないですよね」

かつて伝説の勇者が、その身もろとも魔王を封印したという魔剣が祀られているユメミ共和国。ここでは100年に一度、勇者の紋章を受け継いだ子が生まれると言われている。ある日主人公は幼馴染のリカとともに試練の以下略

「これは『設定』とか『シナリオ』の部分だね」
「設定が先行してしまって、ゲームのルールとの接続性がないと、ゲーム全体の体験としては没入しにくいものになるよね」

「漫画とかだと逆なのかもしれませんけど、ゲームだと設定はかなり後半の段階で考えるイメージがあります」
「さっき言ってた『世界観』というのは、『ルールのおもしろさを最大化するための世界作り』なのかなあと思いました」

「この手の話はやっぱりSplatoonが有名ですよね〜」
 


■結論!

ユーザーの状況に応じた価値を考えて、最良の体験を設計するって意味では、ゲームのUXデザインもそれ以外も変わらないとは思うんですけど」
「方法論に関しては、やっぱりゲームへの応用はききにくいんですねえ」

「そうだね。まずHCDでよく使うフレームワークはエンタメには向かないっていうこともあるし…」
「さらに同じエンタメでも、プロットでユーザーの感情をコントロールできる映画やアニメと違って、ゲームには『操作』があるから。作り手が体験を制御する事自体が、まずすごく難しい媒体だよね」

「なんか、それ聞いただけでちょっと安心しました」
「ゲームのUXデザインって、調べてもやり方が見つからないから『ほんとにこれでいいのかな』『ちゃんとした方法でやってる人はどうやってるのかな』って不安との戦いだったんです」
「でも、作家のやりかたに正解がないように、ゲーム体験も作品と思えば、難しいのも悩むのも当たり前のことですね」

「というわけで、おもに過去の悩める自分に向けて、メッセージを贈りたいと思います」


1.「UXデザイン」という言葉に惑わされるな!

確かに「UXデザイン」という言葉が目指すものはどの分野でも同じだ!
しかし、ゲーム業界の「UXデザイン」で実際にやる作業は、別分野のそれとはだいぶ違うぞ!

2. 手法や理論で解決しようとするな!

たぶん逆に難しいぞ!
クリエイターとしての自分、アーティストとしての自分を信じろ!
(※ 理論化できた方がいたらご一報ください)

3.  「世界観」「演出」の意味と重みを理解しろ!

世界観・演出の練度はゲーム体験に直結するぞ!
「ゲーム UXデザイン やり方」でググってる暇があったらSplatoonの開発プロセスを100回読め!
色々な場所に出向いて、その空間がどういう思いで作られているか考えろ!
 


願わくば、過去の私と同じような悩みを抱えている人に、ちょっとしたヒントになりますように。

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