定義しないことで生まれるユカイらしいデザイン | ユカイ工学CDO 巽孝介 インタビュー
9/3に行われたユカイ工学・ロフトワーク共催オンラインイベント。
特別ゲストパネリストは『弱いロボット』著作で知られる、次世代ロボット研究者の岡田美智男先生でした。
同イベントに登壇したユカイ工学CDOの巽は、かつて岡田研究室でロボットをデザインしたご縁がありました。
そんな彼にイベントで語りきれなかったユカイ工学のロボットデザインや「弱いロボット」の岡田研究室との関連性ついて伺いました。
-----
あえて定義しないユカイ工学らしさ
----- BOCCOや開発中のBOCCO emo、猫舌フーフーなどユカイ工学の様々なロボットのデザインをされていますが、「ユカイ工学らしいデザイン」は意識されていますか?
巽
これまで色んな方から僕たちの作ったロボットに対して「ユカイ工学らしいデザインですね」とお声をいただきました。
ただ、僕はモノを作る時に「ユカイ工学らしいデザイン」は意識していないんです。
----- なぜですか?
巽
「ユカイらしさとはこれである。それにそぐわないものはダメ。」って決めてしまうのは…なんだか自由度が狭まってしまう気がして嫌で。
アイデアの出し方だったり、デザイン方法って世の中にあふれていますよね。専門性にかかわらず大なり小なり人それぞれあると思うんです。それこそユカイ工学には技術を持った人が多いので、メソッド化しようと思えばできると思います。
でもそれをユカイ工学の教科書みたいにしてしまうのって、なんか違うと思っていて。
教科書通りにものを作っていくのがユカイなんだろうか?って思うんです。
教科書の存在により発想が制限されかねない状況って、もったいなくないですか?
僕は僕の方法論で、他の人は他の人の方法論で。謎の教科書的な縛りなく考えてものづくりをするのが良いんだろうと思います。
だからこれまで「ユカイ工学らしいデザイン」について明言化してきませんでした。
それでも人が「ユカイ工学らしさ」を感じるのは、きっと似たところのある人が集まってものづくりをしているからだと思います。
ルール化とかメソッド化しなくても、歩いた後ろを振り返ってみると、作ったものに自然と統一感が生まれている。
目指している方向が似ている人が生み出すものだから、デザインや使われている技術が異なっていたとしても、核となる部分は共通しているんです。
ユカイ工学の職種を越境したものづくり
----- ユカイ工学のメンバーは似た思想を持った人が多い気がします。でも得意なところはそれぞれ異なっているから面白いですよね。
巽
そうですね。
僕はユカイ工学ではデザイナーですが、前職のデザイン事務所ではデザイナーではありながらエンジニア的な役割もしていました。ギズモードとか好きだし、3Dソフトの扱いも得意だし、半田付けとかもできるし…みたいな感じで。
デザインが強いメンバーが多いからこそ、その人たちが持っていないスキルが際立つ。
でもユカイ工学では、逆にエンジニアが多いので、テクニカルなこともわかりつつ、デザインスキルを発揮することが求められる。
振り返ってみると、エンジニアリングとデザインを常に半歩残しな感じでやってきてますね。
そういうメンバーはユカイ工学に結構いるんじゃないかな。
----- みんな職種を越境してものづくりしていますよね。
巽
社内でも「ユカイらしさ」って割と話題になるけど、僕があえてハッキリ定義したくない派なのは、社内外に固まったイメージを持ってほしくないからなんです。
例えば、面白いアイデアを持っていて、IoTプロトタイプとかできるところないかな〜って探している人にユカイを見つけてほしい。
うちならギャグっぽいものから可愛いものまで作れるし、ユカイ工学って社名自体がユニークじゃないですか。
実際になんか面白いことできそうだなってイメージでクライアントだったりリクルートも引き合いで来てくれているんじゃないかなぁって思いますね。
----- 逆に言うと、そのハッキリ定義しない余白の部分に「ユカイらしさ」を感じるのかもしれませんね。
巽
そうかもしれません。
ユカイ工学ではメンバーの持っている妄想をカタチにすることを推奨しているんです。年に1度は複数人でグループになってモノ作りをするメイカソンを行ったり、「妄想会」って言って、ものづくりのアイデアをシェアする時間があったり。
猫舌フーフーのように妄想がクライアントと繋がって案件化したりすることもあります。
社内外関係なく、おもろいもん作ってみたいなってユカイに来てくれる人がいる。その期待が「ユカイらしさ」を形作って行くと思うし、そういう繋がりが超大切って感じます。
妄想は面白いからみんなで具現化していく
----- 妄想の実現といえば、ユカイ工学のロボットは妄想からよく生まれると聞きました。これまで携わってきた中で印象深いロボットはいますか?
巽
印象深いといえば、絶賛開発中のBOCCO emoなんですが…これはまた別でじっくり語るとして。笑
僕がユカイ工学に入社したタイミングで作っていたBOCCOもかなり印象深いですね。
BOCCOはCEO青木さんの妄想から生まれたロボットです。
お子さんが小学生になるタイミングで、共働きだから子供の様子を確認したいけど、スマホは持たせたくない。そんな悩みを解決するロボットがいたらいいなって妄想したそうです。
僕がデザインを担当したのですが、販売までスケジュールがタイトで。
ギリギリまでデザインやメカの調整をして、みんなでバタバタしながら発売まで走り切りました。
----- デザインはどのような調整があったのでしょうか。
巽
BOCCOのお腹の出っ張り具合とかですね。
プロトタイプの時はRaspberry Piを使っていたので、それがギリギリ入る形で完成想定よりやや太らせてデザインしていました。
でも最終的に使うのはRaspberry Piではなく、それよりも小さな専用のポートなので、元々想定していたくらいに痩せさせたんです。
でも「痩せさせる前の方がちょっと可愛かった」って青木さんからコメントがあってギリギリで調整しました。
納品までも結構バタバタでした。
最初は社内で組み立てするしかなくて組み立ててみたら、深夜2時くらいにノイズが入っていることに気づいて慌てて直したり。
翌朝9時に僕とエンジニアで直接倉庫に納品しに行ったのは今でも鮮明に覚えていますね。
BOCCOはメンバーが職種を越境して作っているロボットです。
今開発しているのBOCCO emoは、さらに携わっているメンバーが増えているので、開発のこぼれ話も結構ある気がします。
BOCCO emoのデザインこぼれ話
----- BOCCO emoはBOCCOから大きく変化した印象ですが、どのようにデザインされましたか?
巽
新しく作るなら頭のサイズがもうちょっとでかいかちっさいかっていうよりかは、パンチを打ち込んだ感じにしたかったんです。
アイデアから実行フェーズに移ってからは、排熱効果が必要だったり具体的な話をエンジニアとしながら細かな調整をしていきました。
例えば、最初は吸気口を作るために本体側面に穴開いちゃうかもってあがってて、みんなで「なんかやだね〜」って話して。
できればさりげない感じで実装できないか試行錯誤して、底面につけたんです。ちなみに首元が排気口になっています。
----- それは知りませんでした!首が動かしやすいように隙間が空いているのかと思っていたのですが…排気口の役割があったなんて…!
巽
BOCCOとBOCCO emoは見た目は似ている部分が多いですが、内蔵しているものが違ったり、デザインで配慮する部分が異なるので逐一エンジニアと相談しながら設計しました。
「弱いロボット」に共感するユカイ工学のロボット
----- 先日のオンラインイベントで岡田先生と久々にお話しされたそうですね。巽さんは岡田研究室とユカイ工学どちらでもロボットのデザインをされましたが、それぞれで共通する部分はありましたか?
巽
岡田研究室では、「弱いロボット」をコンセプトにしたロボットだったり、スーパーマンじゃないロボットづくりをされています。
ユカイ工学のロボットも、スーパーマンロボットというよりも、人の期待値を上げない、でも可愛らしく感じるアプローチのものが多いです。
ココナッチの発売時(2010)からもそうだと思うんですけど、あえて二足歩行のガッチリしたロボットって作ってないと思うんですよね。
そういうアプローチも似ていて、繋がってる感があります。
----- ロボットってなんでもできるイメージを持っている人が多いと思いますが、逆の視点なのが面白いですね。
巽
世の中にいるスーパーマン的なロボットって基本的にお高いじゃないですか。ユカイ工学のロボットは基本10万円以下で、そこと張り合うのではなく、見た目やデザインで一工夫入れるアプローチをしてきました。
それこそBOCCOを最初に作った時は、見た目が可愛いから一般的にロボットよりもおもちゃって見られがちかなと思っていて。それをあえてロボットって呼んでいくことで、ロボットの概念を広げようぜ。みたいなちょっと意欲的な話もあったりしました。
以前、開発チーフの多賀谷がBOCCO emoは「情緒的で心を揺さぶるメッセージを届けるコミュニケーションロボット」って話をしていましたね。
BOCCOでチャレンジしたロボットの概念拡張体験をBOCCO emoでは、さらに感じてもらえると思います。
近々BOCCO emoの続報をお届けできると思うので、楽しみに待っていてもらえると嬉しいです。
----- BOCCO emoの続報楽しみにしています!ありがとうございました!
編集後記:「弱さ」と「余白」の重要性
私たちは無意識に生活に溶け込むロボットに対して「余白」を求めているのではないかと思います。
例えばそれは、自分たちが共感できる弱さだったり、自分の手が加えられる可能性だったり、想像通りにいかない面白さだったり。
弱いロボットたちに抱く感情は、完璧だと思っていた人が弱さ見せてくれた時に距離が縮まる気がする、あの愛おしさに少し似ている気がするのです。
はたまた、かつての自分や幼い兄弟へ抱く母性のような感情にもどこか近い。
相手はロボットだと認識しているにも関わらず、です。
なんとも不思議な体験だと思いませんか。
ロボットを介して人と新しい繋がりがもてる。
ロボットと人間が弱さを補い合う関係になっていく。
ロボットに対して人と触れ合った時に生まれる感情を抱く。
これがSFではなく、私たちの生活の中でリアルに起こっているのです。
そんなワクワクする体験が、これからもっと広がっていくことに胸を躍らせながら筆をおきたいと思います。
その他のインタビューnoteはこちら
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?