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体験を左右する自己帰属感とデザイン

こんにちは、ユカイ工学の鈴木です。

私たちの周りにはサービスやモノが溢れ、生活は豊かになりましたが、単に新しいだけでは広く受け入れられることが難しくなってきたのではないでしょうか。4月のオンラインセミナーは、昨今、デザイン思考などで注目されている「人間中心のデザイン」をテーマに開催しました。
ゲストに明治大学総合数理学部の渡邊先生をお迎えし、「自己帰属感」を軸にしたインターフェイスデザインについて語って頂きました。

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明治大学 総合数理学部先端メディアサイエンス学科准教授
渡邊 恵太

明治大学総合数理学部先端メディアサイエンス学科准教授。博士(政策・メディア)(慶應義塾大学)。シードルインタラクションデザイン株式会社代表取締役社長。知覚や身体性を活かしたインターフェイスデザインやネットを前提としたインタラクション手法の研究開発。近著に『融けるデザイン ハード×ソフト×ネットの時代の新たな設計論 』(BNN新社、2015)
https://keitawatanabe.jp/Profile

こんな人におすすめのセミナーレポートです。

◇自社プロダクトのインターフェイス/体験に課題を感じている方
◇インターフェイスデザインに興味のあるデザイナー、エンジニア
◇事業会社の新規事業担当者

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ユカイ工学のデザインポリシー

青木
ユカイ工学は、自社プロダクトの企画・開発だけでなく、法人企業の新規事業開発支援を行っています。ただし、デザイン上、共通して
1.生活導線*に入り込む体験の実現
2.シンプルで、美しく
3.ユーザーの感情を動かす

ことを、大切にしています。背景にあるのは、企業が想像するよりも人間は面倒くさがりで、ダサいものは身の回りに置きたくない、また、便利なだけではコモディティ化が避けらないのではないか、という考えがあります。お陰様で様々なデザイン賞を受賞していることも励みになります。
*生活導線とは、私たちが普段の生活で意識せずに行っている(例. 行き来、利用)一連の流れのこと

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BOCCO emoのコンセプト

多賀谷
一般的に家庭の中でのロボットとは、子供が遊んだら片付けるべき存在(=散らかすと怒られるママの敵)でした。そこで、BOCCO emoは、子供だけではなく家族全員に可愛がられる存在を目指しています。幅広い層に受け入れてもらうために、かわいさや愛おしさ等の愛着形成を促す要素と、スマートスピーカーのような利便性との両立を図るための設計(デザイン)にしています。特に前者に関しては、スマホ疲れを考慮し、敢えてディスプレイではなく、ぼんぼり(BOCCO emoの頭部の赤いアンテナのような部分)の動きや頬っぺのインジケータ、首の動き、性格を選択できる点もこだわりました。

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インターフェイスデザインが重要になった背景

渡邊先生
道具の発展により、人間は大きな力を得られるようになりましたが、人間と対象の間に複数の機械や情報処理が入り込み、何をどうしたら、どうなるのかの関係性がわかりにくくなってしまいました。どんなに力を得られるテクノロジーであっても、人間がきちんと操作・制御できなければミスや事故をもたらしてしまいます。そこで近年、人間にとって心地よいインターフェイスデザインの重要性が意識されるようになりました。

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体験を軸にしたインターフェイスデザイン

渡邊先生
コンピューターが世の中に出始めた頃、何でもできると言われましたが、ユーザーがこれまで利用した事がないため利用しきれず、一部のマニアにしか受け入れられませんでした。そのため、コンピューターの万能性を適切に見立てたり、利用者にとって適切な「体験」として設計(デザイン)する必要が生じました。更にIoTが普及し始め、ハード・ソフト・ネットの区分が曖昧になり、画面を越えて、鉛筆や家電などリアルな世界にコンピューターが拡大し、体験の設計が益々重要になってきました。
企業のデザイナーは「売れること」を求められるため、多くのインターフェイスデザイン論も、社会レイヤ(経済性・ブランド)や文化レイヤ(言語学・コンテンツ)から語られることが多いです。しかし、「融けるデザイン」では、使いやすさや利用の継続性を考慮し、人間の「振る舞い」や「どういう体験になるか」という「現象レイヤ」を中心に研究しています

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自己帰属感とは何か

渡邊先生
自己帰属感とは、「この身体はまさに自分のものである」という自己感覚です。
体験は「やってみる」ことで生じますが、「自分が」操作している感覚がどの程度発生するかによって、気持ちよさ(自己感)が変わってきます。
道具によって人間は新しい力を得るため、通常、身体の延長・拡張として議論されることが多いですが、機能中心の議論になってしまいます。自己帰属感は、拡張しながらも「自己」の方向を向きながら体験を設計をする点が特徴です。

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渡邊先生
iPhoneの気持ちよさは、画面そのものの動きが指と連動すること(自分の身体の一部延長になる感覚)にあるのではないでしょうか。ただし、見習うべき点として、アイコンやGUIのグラフィックの美しさ、アニメーションではないことは注意が必要です。

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自己帰属のレベル感

渡邊先生
感触については、動きの連動が高いほど気持ちよく、自己帰属感が高いとサクサク感があります。逆に、何かを操作して反応するまで3秒くらい遅延すると、もっさりどころか、「自分の」体験ではなくなります。

青木
ロボットを作っているなかで、動いているものに人間が愛着を感じることがあると感じています。敢えて自己帰属感を低下させることで、他者や相棒といった存在になることがあり得るのではないでしょうか。例えばQooboは、人間の操作に完全に動きが連動している訳ではなく、膝に載せている時に突然、しっぽを振ってみたりすることで、より生き物らしさを表現しています。

渡邊先生
おっしゃる通り、全てのプロダクトが自己帰属感を高めれば良いという訳ではないです。例えばロボットのような存在を設計する際には、敢えて動きの連動性を切ることも大事になるかもしれません。

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生活や行為に馴染むUXデザイン

渡邊先生
一度お聞きしたかったのですが、ロボットはどこに置くのが自然なのでしょうか。私は新しいテクノロジーを浸透させるためには、人間の習慣や文化を読み解き、これまでの生活に馴染ませることが重要だと思います。

青木
例えばQooboはロボットでもあり、クッションでもあります。そのため、通常、新しいプロダクトを販売したい場合はロボットコーナーに展示しますが、クッションコーナーという既存のチャネルや、ソファの上という家の中の一等地を占有できることは、ユーザーとの接点作りという観点で大きなメリットだと感じています。

鈴木
実際、私たちは生活の中で動き続けており、複数のプロダクトを途切れなく利用していると思います。その中で、1社がプロダクトや情報システムの設計でできることはあるのでしょうか。

渡邊先生
自社のプロダクトを利用してほしいため、目立つデザインをしてしまうことが多いです。店頭では良いかもしれませんが、家の一等地であるリビングに置いた場合、長く使い続けてもらうには「でしゃばらないこと」が大事ではないか、と考えています。


セミナー終了後談

あっという間の1時間だったので、どうしてもお聞きしたかった、ハード、ソフト、ネットの区分が曖昧になっていく世界での「ハードウェアの役割」についてお聞きしました。渡邊先生からは、ハードウェアは大量生産に向いているが、一人ひとりの精神的欲求を充足すること(=パーソナライズ)は難しい(ソフトウェアの方が得意)。そこで、ハードウェアには、物理的な存在であるからこその愛着や、人間にとっての知覚のしやすさ、背中を押してくれる役割が期待されるのではないか。ただし、ソフトウェアとハードウェアの機能分担に関しては、UI/UX改善のしやすさを考慮し、柔軟性を保持する必要があるとのことでした。示唆に溢れた渡邉先生のお話、またお聞きしたいです。

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セミナーレポート | Yukai Design Talkシリーズ

 #1
体験を左右する自己帰属感とデザイン(ゲスト:明治大学総合数理学部 渡邊氏)

#2
モノとヒトのちょうど良い関係性(ゲスト:tsug,LLC 代表 久下氏)

#3
現在に求められるデザインとテクノロジーのあり方(ゲスト:株式会社Takram ディレクター、デザインエンジニア 緒方氏)

#4
「何しよっか?」から始まるお仕事(ゲスト:株式会社テント 青木氏、治田氏)



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・既存事業の課題をIoTシステムを用いて解決したい
・利用者の視点で使いやすいシステムに改善したい
・実証実験用のシステムをクイックに開発したい
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