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読書中座記:イーユン・リー著『千年の祈り』
最近読み終えた本から一冊紹介します。朝食後に一編ずつ読み進め、あっというま読了してしまいました。どのお話も個性的ながら、そこには一貫して漂う影と、失敗したものや取り残されてしまったものの気配があります。
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『千年の祈り』イーユン・リー著 篠森ゆりこ訳 新潮社
著者は北京に生まれ育ち、十七歳の年の六月四日には天安門事件が起こりました。のちにアメリカへ移住し、彼の地で中国のことを書いています。本書『千年の祈り』はアメリカで発表したデビュー作を含めた短編集。性別や年齢にとらわれず、様々な主人公たちによって語られる、中国の地域社会と物語です。
訳者あとがきによれば、”共同体そのものを主語とするこの斬新な小説”と記された短編集内の「不滅」によって一気に注目を浴びたそうです。
イーユン・リーさんは本書の中に、政治的な教育や共同体からの抑圧によって無言で捨て置かれることについて書きます。冷ややかな視線や口封じ、世代間の隔たりの中に生活する者たち。
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部屋に鶏とともに閉じこもる男、その鳥を屠って食べることを宣言する妻、手をつけられない小娘、咎める母。
お互いに僅かずつしか手懐けていない、もどかしい外国語とそれぞれの母国語を交え、公園で語り合う高齢者。お互いに重要なことを隠したまま現在に至る娘と父。
アメリカへ渡るための偽装結婚だったはずの男に置いて行かれた女性。
閉じ込められた環境から飛び出そうと試みる者や、全てを抱えたまま孤独に生きる者の苦悩。一筋縄ではいかない人生。抜け出せない蜘蛛の糸の上で、静かにもがき生きていく。そこにはあらゆる国々に共通の、人や町の悩み、夫婦関係、父娘、母たちの思いがあり、巣の上で雨後に輝く小さな雨粒もあります。
十七歳を天安門事件の北京ですごし、ヘミングウェイの本を隠れて読んでいたところをみつかり破り捨てられた(訳者あとがきより)経験のある著者が、その後、中国をいかにみつめたか。事件から三十五年経た今日、我々はこの物語をどう読むのか、考えさせられる一冊です。
お昼休憩に一編読み終わる程の長さで、十の話が用意されています。大きく泣いたり笑ったりするようなことはありませんが、淡々とした筆致に鋭いパンチのある物語が、灰色な大地の印象を静かに残していきます。
fine 休憩室
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