日本語ラップに参戦したスマブラファイターたち#3(ピカチュウ・リザードン編)
こんばんは、Uuit+といいます。
今回もスマブラのファイターが登場する日本語ラップの楽曲を紹介していきます。
第一回の記事はこちら↓
前回の記事はこちら↓
第三回となる今回は、世界的タイトル『ポケットモンスター』シリーズから、ピカチュウとリザードンが登場する楽曲を紹介します!
※ 紹介する歌詞の中に直接的、または婉曲的な性表現や薬物の描写がある場合があります。苦手な方はご注意ください。また、本記事は楽曲を紹介することを目的としており、楽曲中の特定の表現や描写を擁護、批判する意図はありません。
みなさんご存知のねずみポケモン、ピカチュウ。初登場は1996年発売『ポケットモンスター赤・緑』です。アニメ版『ポケモンモンスター』では主人公のサトシの相棒として活躍し、今ではポケモンを代表する、ひいては日本を代表するキャラクターにまで成長しました。スマブラシリーズには初代からの皆勤賞で、持ち前の小さい体とスピードに加え、「でんげき」や「かみなり」などのでんきタイプの技で相手を翻弄することを得意とするファイターです。
ポケモンKids TV - ピカチュウ!ミラクル!ポケライム
まず紹介するのがこの曲。なんとポケモン公式から「ポケモン×日本語ラップ」の楽曲がリリースされているのです。『ポケライム』という子供向けのラップのシリーズで、リズムに合わせてポケモンにちなんだ言葉遊びができるというコンセプトになっています。ピカチュウが主役のこの動画は第二弾で、現在5本もの楽曲がリリースされています(そのうち4本は英語版も公開されています)。
ラップというジャンルはまだまだ「不良」「怖い」といったイメージを持たれがちで、「子供向けのラップ」というとピンと来ない方もいるかもしれません。しかし、「韻を踏む」ことが特徴のラップという歌唱法は子供にとっても歌詞が覚えやすく、無意識的に言葉の意味と発音を一致させやすいという点で、教育的なコンテンツとの相性がよいと思っています。
前半部分では「爽快」「壮大」「状態」「Showtime」で韻を踏んでいます。押韻の箇所が強調されているので子供でもわかりやすくなっていますね。その後も「喜怒哀楽」「四苦八苦」「めくるめく」「Make a miracle」のように、韻を踏みながら少し難しい言葉が続いていきます。本来子供向けの歌詞としては難しめの単語ですが、「音の響き」という共通点があることで歌詞に取り入れやすく、新しい単語を覚えるきっかけになるのではないでしょうか。これはラップを教育に取り入れる明確なメリットだと思います。
また、後半部分の各小節の頭文字をつなげると、サトシの決め台詞であり、アニメ版ポケモン第一話のタイトルでもある「きみにきめた」となるなど、韻を踏む以外の言葉遊びも満載となっています。
JP THE WAVY - Pick N Choose feat. LEX
次に紹介するのは、日本を代表するラッパーの一人、JP THE WAVYの『Pick N Choose』です。イントロでピカチュウの鳴き声が聞こえたり、PV中では文字のフォントがポケモンのロゴ風になっていたりと、ピカチュウがかなり意識されています。この曲のコンセプトになっているのが「ピカチュウ」と「pick and choose」(=選り好みする、自由に選ぶ)の発音が似ている、という言葉遊びです。
自分のルーツを重要視するヒップホップでは、自分の地元や出身地に誇りを持っていることをアピールする文化があります。ピカチュウが曲のテーマになったのはこういった背景があるからでしょう。「JP THE WAVY」という名前からも分かる通り、彼は海外オーディエンスを強く意識しているラッパーで、実際に韓国、タイ、アメリカなどのラッパーと積極的にコラボしています。ピカチュウという日本を代表するキャラクターを曲のコンセプトに据えることで、自分のルーツを表現し、全世界に「この曲は日本人の俺にしか作れないだろ」と自分のオリジナリティをアピールしているのだと思います。
まずはフック(サビ)部分の歌詞を紹介します。
ここでは「Pikachu」「pick and choose」「進化中」「にCartoon」「機関銃」「近づく」「リア充」と、「いあう」の韻で一貫して踏み通しながら、ピカチュウを3種類の比喩表現として使用し、フレックス(自慢)しています。この比喩表現を一つずつ見ていきましょう。
(1) ピカチュウ × 女性
まず「She looks like a Pikachu」ではピカチュウと「女性」を重ねています。「光輝くピカチュウのように可愛い、美しい女性」という意味でしょう。英語では容姿が魅力的な人、特に女性を「stunning」=「気絶してしまうほど魅力的」と表現することがあり、でんきタイプであるピカチュウとかけているのかもしれません。また、ピカチュウが日本のキャラクターで、黄色いことから「黄色人種」「日本人」という意味も意識しているのではないでしょうか(実際にJP THE WAVYの彼女であるニーナは日本人です)。
そして「Anything you want, you can pick and choose(なんでも好きなものを選んでいいよ)」と、コンセプトである「ピカチュウ」と「pick and choose」の言葉遊びをしながら、「可愛い女性になんでも好きなものを買ってあげている自分」を表現しているのです。
(2) ピカチュウ × カナリアダイヤモンド
次に「光ってるPikachu」「Canary diamond色 Pikachu」「可愛いYellow VV my Pikachu」では、ピカチュウをカナリアダイヤモンドの比喩表現として使用しています。カナリヤダイヤモンドとは黄色いダイヤモンドの一種で、一般的な透明なダイヤモンドよりも高値がつくことも多い、最高級のダイヤモンドです。
「VV」とはおそらく「VVS」を縮めたもので、ヒップホップにおいてはお金持ちであることをフレックスする際によく使用されるスラングです。VVSは元々ダイヤモンドの品質を示すカテゴリーで、「very very slightly included」=「内包物がとても少ない」ことを意味し、純度の高いダイヤモンドのみが対象です。ピカチュウのように黄色く輝く、VVSのカナリアダイヤモンドを「my Pikachu」と表現することで、サトシにとってのピカチュウのように、「このジュエリーが相棒だ」と表現しているのではないでしょうか。
(3) ピカチュウ × 自分自身
そして最後、「Shiny like a Pikachu」「カミナリ電光石火 I'm 進化中」ではピカチュウと自分自身を重ねています。ここでもピカチュウが黄色いこと、世界的に人気な日本のキャラクターであることから自身を「日本を代表する存在」としてアピールしているのでしょう。また、「Shiny」は日本語で「輝いている」という意味ですが、英語のポケモン用語で「色違い」という意味もあります(色違いのポケモンがモンスターボールから出現する際に、特有のキラキラとしたエフェクトが出ることからそう呼ばれています)。
つまり、ピカチュウのように輝く存在でありながら、色違いのように「他とは違う特別な存在」であることをさらに強調しているのだと思います。(ちなみにピカチュウは色違いでも黄色いままで、少しだけ暗い色調になっています。)
「かみなり」「でんこうせっか」はポケモンに存在するわざで、その名前のイメージから「速い」ことが連想されます。実際にポケモンのゲーム中では「でんこうせっか」は先制技(すばやさの値にかかわらず相手より先に攻撃できるわざ)です。(スマブラでもピカチュウはこの二つの技を覚えていますが、攻撃判定の発生が「かみなり」は13フレーム、「でんこうせっか」は15フレームと、少し控えめの早さとなっています。)また、ポケモンには「進化」という概念があり、進化したポケモンは能力値が変化したり、能力値が上昇したりします。このことから、「稲妻や電光石火のようなスピードで成長し、進化し続けている」といった意味の歌詞になっていることが推測できます。
さて、フックはこのくらいにして、それぞれのバースの歌詞も少しだけ解説しようと思います。まずはJP THE WAVYのバース、ラストの部分のみ紹介します。
「Bankroll」とは「札束」を意味し、「Big bankroll」で「お金をたくさん稼いでいる」様子を表現しています。「Sippin' coke」は直訳すると「コーラをゆっくり飲んでいる」になるのですが、「coke」は「コカイン」の俗称でもあるので、どちらを指しているのかは判断が難しいところです。
「Hit dem folks」とは2015年ごろに流行したダンスムーブのことで、腕を交差してU字型に掲げるといった動きが特徴です。みんなで踊って盛り上がっている様子を表現しているのだと思います。元々ダンサーだったJP THE WAVYらしい歌詞ですね。
そして「Surfin’, surfin', イケすぎてるFlow」に関しては「なみのりピカチュウ」を意識しているのでしょう。なみのりピカチュウとは文字通り「なみのり」を覚える、特殊な方法でしか入手できないピカチュウのことです(第8世代以降は手軽に入手できるようですが)。これもフックの「shiny」=「色違い」の描写と同様に「自分は特別である」という意味が込められているのだと思います。
ヒップホップのビートはしばしば「波」「WAVE」と表現されるほか、「WAVY」はヒップホップのスラングで「イケてる」という意味があります(JP THE WAVYの名前の由来でもあります)。ここでサーフボードで波に乗るなみのりピカチュウを持ってきたのはそういう繋がりも意識しているのだと思います。また、「Flow」は「水の流れ」という意味と「ラップの乗り方」という意味のダブルミーニングになっていますね。
さて、ここからLEXのバースを紹介するのですが、ここでリザードンが登場します。初登場はピカチュウと同じく1996年発売の『ポケットモンスター赤・緑』。アニメではサトシの手持ちとして活躍し、以降のシリーズでも度々出演しています。公式からもファンからも長きにわたって愛されているポケモンですね。
スマブラシリーズには『スマブラX』から参戦しており、ポケモントレーナーの手持ちのうちの一体として登場しました。その後『スマブラfor』ではなんとリザードン単体として参戦を果たし、現在最新作の『スマブラSP』ではまたポケモントレーナーの一員となっています。長い復帰距離に重い体重、一発逆転の破壊力を併せ持ち、攻守にわたって重要な局面で大役を任される、仕事人のような存在のファイターです。
JP THE WAVYのフックが流れた後、「ピカって光る腰ベルトと首のタトゥー」からバースが始まります。LEXの首には大きなタトゥーが入っており、これについて言及しているのでしょう。
少し深読みかもしれませんが、これはフックの「ICE VVS 首元にCartoon」というラインと対比されているのではないか、と思っています。「Cartoon」は漫画やアニメ、またはその画風一般を指す言葉で、黄色く光るピカチュウのようなネックレスを「首元のCartoon」と表現しているライン。これは以下の3点においてLEXのラインとの対比になっています。
「ピカチュウのように光るのは首ではなく腰」という体の部位での対比
「Cartoon」と「タトゥー」で韻を踏みつつ、同じ首でも「JP THE WAVYの首にはCartoon、LEXの首にはタトゥーが存在する」という対比
「Cartoon」から連想される「ポップさ」や「かわいさ」と、タトゥーから連想される「いかつさ」や「怖さ」という印象の対比
この先は「腰」というワードから次の下半身に関する歌詞に繋がっていきます。正直、直接的すぎる下ネタは個人的に得意ではないのですが、こういう「子供っぽさ」を出しながらも繊細なフロウ魅せる、というのはLEXの魅力の一つでもあります。
「いとも簡単に発射するリザードンみたいに」というラインはおそらくアニメ版ポケモンに登場するリザードンの性格のことを指しているのでしょう。レベルが上がり過ぎてしまい、サトシのトレーナーとしての実力レベルでは言うことを聞かなくなってしまったリザードンは、暴れ回ったり、サトシに「かえんほうしゃ」を浴びせてしまうなど、攻撃的な性格になってしまいます。この「かえんほうしゃ」の「発射」を下ネタとして使っているのだと思います。
スマブラに参戦しているリザードンも「かえんほうしゃ」を使用でき、リザードンを象徴するわざとして活躍します。
また、同じポケモントレーナーの手持ちとしてスマブラに参戦しているポケモン、ゼニガメの進化系であるカメックスも登場していますね。スマブラの過去作ではアイテム「モンスターボール」から出現したほか、最新作『スマブラSP』ではスピリットとして登場します。
LEXのバースの最後では、「My house 全然帰らない」「一年中旅行してる」とポケモントレーナーと自分自身を重ねています。旅しながらポケモンジムの攻略やポケモン図鑑の完成を目指すポケモントレーナーと、ラッパーとしてライブで全国各地を飛び回るLEX。ラッパーとしての人気や実力をフレックスしながら、それをポケモンに絡めて表現した、見事なラインだと思います。
また「バタフライ 自由に飛ぶ」では、先ほど登場した首のタトゥーのモチーフを歌詞に組み込みながら、「旅行してる」というラインにかけています。芋虫が成長し、蛹を経て外の世界に羽ばたいてゆく。ポケモントレーナーの成長とも重なる歌詞になっています。
いかかでしたか?第三回となる今回はピカチュウ・リザードンが登場する日本語ラップの曲を紹介しました。指摘、意見、感想などはコメントかTwitterのDMまでぜひお願いします。次回はゼルダの伝説シリーズからリンク、ゼルダ、そしてこどもリンクが登場する楽曲を紹介する予定です。
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楽曲だけでなくラップの聴き方やラッパーの生き方、考え方にも触れられるのでぜひ観てみてください!それではまた次回!
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