日本語ラップに参戦したスマブラファイターたち#1 (マリオ・ピーチ編)
こんばんは、Uuit+といいます。
このシリーズでは、私の趣味である日本語ラップとスマブラについて書いてきます。
私は日本語ラップの面白さの一つに「引用の幅広さ」があると思っています。「個」を重視する価値観と韻を踏む文化のおかげか、日用品から高級車、スポーツ選手、美空ひばりまで、巧みな比喩表現を駆使して描かれるラッパーたちの生き様はまさに十人十色で、個性豊かな自己表現を創り出しています。
そして、個性が魅力なのはスマブラも同じでしょう。多種多様な世界観を持った、80を超えるファイターが一堂に集結して熱い戦いを繰り広げる。オールスターの名に恥じない、「個」のぶつかり合いが楽しめるのがスマブラの醍醐味ではないでしょうか。
そこで今回は、スマブラと日本語ラップ、ふたつの「個」が融合することで生まれる化学反応が楽しめる、スマブラのファイターが登場する日本語ラップの楽曲を紹介していきます。スマブラはよくプレイするけれど、日本語ラップはあまり聴かない、そんな方々にも面白いと思ってもらえるような記事になればいいなと思います。
初回となる今回は任天堂の顔、マリオシリーズからマリオとピーチが登場する楽曲を紹介します!
※ 紹介する歌詞の中に直接的、または婉曲的な性表現や薬物の描写がある場合があります。苦手な方はご注意ください。
任天堂の看板キャラクターであるマリオ。世界一有名なキャラクターとしてギネス世界記録に登録されているほどの知名度と多様なジャンルのゲームへの出演によって、多くの楽曲に登場しています。スマブラにも初代から参戦していますね。『スマブラSP』では高火力コンボと早期撃墜のポテンシャルと飛び道具や反射といった器用さを併せ持つ強キャラとして知られています。
梅田サイファー - マジでハイ feat. R-指定, KZ, peko, ふぁんく, KOPERU, KBD, KennyDoes (prod. LIBRO)
ここで紹介するのは、Creepy NutsのR指定を筆頭に大阪は梅田を中心に活動するヒップホップグループ、梅田サイファーの代表曲『マジでハイ』です。中毒性の高いビートと7人それぞれの個性が光るフロウ、大阪のノリを感じさせるユーモアに溢れたリリックが特徴の曲です。フルの歌詞はYouTubeのコメント欄からどうぞ。
まずはKZのバースの後半部分の強烈な比喩表現に注目です。薬物を連想させる言葉を羅列しつつも、ラップだけでハイになれる、そして違う意味でハイになる(=高みに辿り着く)といった意味が込められているのではないでしょうか。「鼻から吸う粉」は身を粉にしてラップした粉であり、大麻に火をつけるのではなく、代わりにケツに発破(葉っぱ)をかけて火をつける、そして静脈には注射針の代わりにレコード針を打つ、という過激ながらも高度なダブルミーニングが光るパンチラインです。
そして続くpekoのバース、直前のKZの薬物の比喩から「キノコ」を連想してマリオの話につなげています。「マジックマッシュルームを食べなくても、マリオカートのキノコを取ったマリオのように爆速で進んでいく、そして薬物を売り捌かなくてもそれ以上の金を稼いでいる」と自分のスタンスの提示とセルフボースティングを同時に行っています。ちなみにスマブラのキノコを取得すると原作と同じように体が大きくなるのですが、その場合でも「キノコを食べなくてもビッグになる」と言えそうですね。
次のラインでもゲームの話が続き、自身をストリートファイターシリーズのキャラクターであるサガットに重ねています。『スマブラSP』ではスピリッツとして登場していますね。「完全無欠 like ナーフ前のサガット」というのは、サガットが『ストリートファイターⅣ』において最強キャラクターと名高かったものの、新バージョンである『スーパーストリートファイターⅣ』で大幅な弱体化が施されたことを指していると思われます。
サガットは「タイガーアッパーカット」という技がトレードマークであり、相手を物理的に打ち上げる(飛ばす)格闘技における「アッパー」と、脳の中枢神経を興奮させ、ハイになる(飛ぶ)薬物の総称である「アッパー」がかかっています。「俺のラップは大麻よりもぶっ飛ぶぞ」というセルフボースティングになっていますね。
また、MVの中でそれぞれのラッパーが「大金を手にしたら何をするか」を映像で表現しているのですが、他のメンバーが貯金やファッション、ご飯にお金を使う中、pekoはSwitchを買って友達とスマブラしていますね。ストリートファイター勢であることを示唆する歌詞になっていますが、スマブラの腕前も気になるところです。
キノコ王国のお姫様、ピーチ。元々はさらわれてマリオの助けを待つか弱い存在でしたが、最近の作品ではプレイアブルキャラクターとして登場したりと力強い一面も見せています。スマブラにはDXから参戦し、『スマブラSP』では浮遊を駆使した立ち回りの自由度とカブを絡めた高火力コンボが魅力の強キャラとして活躍しています。
Red Bull 64 Bars - CHICO CARLITO prod. by DJ Fumiya
ここで紹介するのがこの曲。Red Bull主催、フック(サビ)を挟まずに64小説ぶっ続けでラップするという企画で、フリースタイルダンジョンやTHE FIRST TAKEへの出演でも知られる、沖縄出身のラッパーCHICO CARLITOが参加した回です。変則的なビートに対しての多彩なビートアプローチと、そこに散りばめられた無数のの言葉遊びが聴いていて楽しい曲です。YouTubeの概要欄にフルの歌詞があるのでそちらもどうぞ。
沖縄から飛行機で東京に向かい、タクシーでレインボーブリッジを越える自分と、マリオカートのレインボーロードでスターをゲットしたマリオを重ねている歌詞です。スター=無敵、つまり、自分に敵はいない、というセルフボースティングにもなっていますね。
セルフボースティングとはラッパーがよく行う自己賛美のことで、「俺はこんなに稼いでる」「俺はこんなに女にモテてる」「俺はこんなにラップが上手い」といったことを誇示するものです。
また、次のラインでは「マリオはピーチに乗る(セックスする)けど、俺はPEACH(格安航空会社)には乗らないよ」とピーチ姫と航空会社をかけつつ、格安航空会社に二度と乗る必要がないくらいに稼いでいる、そして「ピーチ」「ビッチ」で韻を踏みながら、「それでも女にはモテモテだ」と高度なセルフボースティングを続けています。原作のピーチならともかく、スマブラのピーチに乗るのは難しそうですね。むしろカブトレインに乗せられてそのまま撃墜されてしまいそうです。
ここではマリオの話から派生してスマブラの話になっており、64小節のラップでウン万円稼ぐ今の自分と、昔スマブラ64での賭けでウン万円失った昔の自分をラップしています。同じ64でも、金を稼いでいる現在と失った過去を比較して成り上がった自分を表現しているのかもしれませんね。
「名字は宮城じゃない」とは、日本でもヒットしたアメリカ映画『ベスト・キッド』に登場する主人公の空手の師匠「ミスターミヤギ」のことで、CHICO CARLITOと同じ沖縄出身という設定があります。「ミヤギの空手みたいに俺のラップは上手いぞ」、そして「マリオカートのキノコがなくてもベロ(ラップ)だけで俺は先に進んでいくぞ」とボースティングしつつ、「名人」と「エンジン」で韻を踏んでいます。
次のラインでは「政治」「火炎瓶」で「名人」「エンジン」と踏みつつ、「しにダサい」(沖縄弁で「死ぬほどダサい」)芸能人や政治家を揶揄しています。さらにはマリオカートの話題と「ガソリン」という単語の意味が「かかって」いて、火炎瓶にも燃料として文字通りガソリンが「かかって」いる、というダブルミーニングを披露しています。
また、英語で「燃えている」を意味する「lit」は、スラングで「素晴らしい」「ヤバい」といった意味もあります。つまり、「どこぞの芸能人は炎上してるけど、俺は(二つの意味で)ガソリンがかかった火炎瓶でlitな(燃えている、超ヤバイ)ラップをお見舞いしてやるよ」、という何重にも意味がかかった神懸ったラインになっています。マリオが火属性の技を使うことも合わさって、なかなかアツいバースですね。
いかかでしたか?初回となる今回はマリオ・ピーチ編ということでマリオ・ピーチが登場する日本語ラップの曲を紹介しました。指摘、意見、感想などはコメントかTwitterのDMまでぜひお願いします。次回はドンキーコングシリーズからドンキーコング、ディディーコングが登場する楽曲を紹介します。
次回の記事はこちら↓
もっと日本語ラップを聴きたい、興味ある!という方はAbemaのオーディション番組『ラップスタア誕生』がおすすめです。楽曲だけでなくラップの聴き方やラッパーの生き方、考え方について知れるのでぜひ観てみてください!それではまた次回!
ラップスタア誕生2021(完結)
ラップスタア誕生2023(2023/01/21現在放送中)
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