日本語ラップに参戦したスマブラファイターたち#2 (ドンキーコング・ディディーコング編)
こんばんは、Uuit+といいます。
今回もスマブラのファイターが登場する日本語ラップの楽曲を紹介していきます。前回とはまた違った「個」が楽しめる記事になれば良いなと思います。
前回の記事はこちら↓
第二回となる今回は任天堂の大古参、マリオの生みの親でもあるドンキーコングシリーズから、ドンキーコングとディディーコングが登場する楽曲を紹介します!
※ 紹介する歌詞の中に直接的、または婉曲的な性表現や薬物の描写がある場合があります。苦手な方はご注意ください。また、本記事は楽曲を紹介することを目的としており、楽曲中の特定の描写を擁護、批判する意図はありません。
ジャングルのヒーロー、ドンキーコング。初登場は1981年のアーケード版『ドンキーコング』ですが、実は1994年発売の『スーパードンキーコング』から二代目に代替わりしており、スマブラシリーズに参戦しているのも二代目ドンキーコングです。スマブラでは初代から参戦しており、その巨躯から繰り出される豪快な技と一瞬で戦況をひっくり返す逆転力が魅力のパワーキャラです。ドンキーコング自身もラップが好きという設定があり、『ドンキーコング64』のOPの「モンキーラップ」では仲間たちとラップを披露しています。スマブラにも収録されていますね。
あっこゴリラ - ドンキーコング
今回まず紹介するのは、ドラマー出身という異色の経歴を持つフィメールラッパー、あっこゴリラの『ドンキーコング』です。「あっこゴリラ」という名前は、リズムで会話をするゴリラに魅了され、バンド活動中にラップするキャラとして名乗り始めたのがきっかけで、ソロでラッパーとして活動するようになってからもこの名義を使用しています。
『ドンキーコング』というタイトルの通り、ドンキーコングが曲自体のテーマになっています。あっこゴリラ自身が主催するイベント『ドンキーコング』のテーマ曲でもあり、かなりドンキーコングというキャラクターを意識しているようです。もしかしたらお互いにラップと打楽器が好き(ドンキーコングはタルコンガの演奏が得意)なゴリラであるというところに親近感を抱いているのかもしれませんね。『スマブラX』『スマブラFor』のドンキーコングの最後の切り札「タルコンガビート」はリズムに合わせてタルコンガを叩くという音ゲーのような技でした。(ちなみに世の中にはタルコンガ型のコントローラーを叩いてスマブラをプレイする人もいるようです、、、)
この曲のビートは『スーパードンキーコング』の挿入歌『JUNGLE LEVEL』をサンプリングしており、メロディに聞き覚えがあるかもしれません。またメロディラインだけではなく曲全体の構成として、ジャングルの環境音とシンプルなパーカッションのみのビートからだんだんと音が増えていき、途中で落ち着いた曲調に変化するという点においても共通しています。
この「ジャングルサバイブ」の部分はイントロ部分のシャウトに「Fxxkin' concrete jungle survivor」とあるように、実際のジャングルではなく、「コンクリートジャングル」のことを指していると思われます。「コンクリートジャングル」とは、ビルなどの建物が林立する都会をジャングルに見立てた言葉で、主に都会の温かみのなさや過酷さを表すネガティブな意味で使われることが多いです。「ゴリラがジャングルに君臨するように、この寂しい大都会を力強く生き抜いてみせる」というメッセージが込められているのではないでしょうか。
個人的には「力づくでparty」「スマイル絶やさずに」のように、冷たく過酷な現代社会においてもあくまで明るくポジティブに生きるというスタンスを提示しているところがあっこゴリラらしくて好きです。また、自分がエンターテインメントを提供することで周りも巻き込んで笑顔にするという生き様も垣間見えるような気がします。
ちなみにジミ・ヘンドリックスとはロック史に残る伝説のギタリストであり、ギターを歯で弾いたりギターに火をつけるなどの派手なパフォーマンスが有名です。直前のラインの「地味」との対比になっていますね。バンドマンだったあっこゴリラだからこそできる、力強さを表現するユーモラスな比喩だと思います。
この部分では社会風刺的な要素が特に強く、言いたいことが言えないのに自己主張をしなければ生き残れない社会のジレンマをラップしています。韻の連続がとても気持ち良いバースです。ディディーコングも少しだけ登場していますね。これは推測に過ぎませんが、もしかしたら「高みへ到達の景色どうだ腹黒」というラインは実際のゴリラの黒い体とかかっているのかもしれません。ジャングルの頂点に立つのは黒く力強いゴリラである一方、コンクリートジャングル(現代社会)で上に立つのはただの腹黒である、という皮肉なのでしょうか。散文的なリリックだからこそ、考察の余地が広くて楽しいです。
ドンキーコングの弟分であるディディーコング。『スーパードンキーコング2』では主人公として出演しています。スマブラには『スマブラX』から参戦しており、ドンキーコングと比べるとパワーは劣る一方、機敏な動きに加え、ピーナッツポップガンやバレルジェット、バナナなどを駆使したトリッキーな立ち回りが特徴のファイターです。『スマブラFor』では最強キャラの一角、『スマブラSP』では強キャラとして活躍していて、競技シーンではよく目にするファイターです。
DJ CHARI & DJ TATSUKI - JET MODE feat. Tyson, SANTAWORLDVIEW, MonyHorse & ZOT on the WAVE
ここで紹介するのが、DJ CHARI & DJ TATSUKIの『JET MODE』です。ラッパーとしてはTyson, SANTAWORLDVIEW, MonyHorseの3人が参加していますが、今回は特にSANTAWORLDVIEWのバースにフォーカスして紹介していきます。
曲のテーマとしては『JET MODE』というタイトルの通り、「飛ぶ」ことがテーマで、イントロとフック(サビ)部分のダブルミーニングがコンセプトになっています。
一つ目の「飛ぶ」は文字通り空を飛ぶという意味で、特に「羽田」から分かるように飛行機に乗って飛び回ることを指していると思われます。「ラッパーとしての活動が忙しくなり、全国各地(または世界)でライブするために飛行機で飛び回ってる」というセルフボースティング(ラッパーがよく行う自己賛美のこと、詳しくは前回記事参照)ですね。もしくは、ラップで稼いだお金で旅行をして遊びまわっているという意味もあるのかもしれません。
二つ目の「飛ぶ」は薬物などで「飛ぶ」という比喩表現です。薬物ってダメじゃん!と驚く方もいるかもしれませんが、ヒップホップカルチャーにおいて薬物の使用をフレックスする(自慢する)ことは珍しくありません。違法薬物の使用を擁護する意図はありませんが、貧困な黒人コミュニティから始まり、既成文化や権威に反発するカウンターカルチャーとして大きくなっていったヒップホップの歴史とドラッグは切っても切り離せない関係にあります。
日本語ラップにおいて薬物に対するスタンスはラッパーによってまちまちで、前回紹介した『マジでハイ』などの曲はむしろ逆の立場をとっています。ドラッグについてラップするラッパーでも人によっていろいろな理由があったりするので、ヒップホップと薬物の関係について調べてみるとなかなか興味深いですよ。
では実際にSANTAWORLDVIEWのバースを見ていきましょう。金、酒、薬物、女性とセルフボースティングのオンパレードになっています。ここでは前回紹介したキャラ、マリオが少しだけ登場します。「I'll be ballin' million」とは「金を稼ぎまくって遊んで暮らす」といった意味で、それをマリオがコインをたくさんゲットしながらいろいろな世界を回っていくことと重ねているのだと思われます。また、マリオシリーズに登場するキャラ数の多さが次の「仲間と〜」のラインともかかっているかもしれません。
そして次に登場するのが今回のメイン、ディディーコングです。「Beer pong」「smoking bong」「Diddy kong」と韻を踏みながら名前が出てきます。「Beer pong」とはお酒のビール(beer)と卓球のピンポン(ping-pong)を組み合わせた言葉で、ビールを入れたカップをテーブルの両端に配置し、相手側のカップにピンポン玉を投げ入れるゲームです。ボールを入れられた側はそのカップのビールを飲まなければならず、相手に全てのカップのビールを飲ませたら勝ち、というもので、欧米の飲み会やホームパーティーなどで遊ばれることが多いです。一人でプレイすることができないゲームなので、「たくさんの仲間とお酒を飲んで遊んでる」というセルフボースティングになっています。
一方「bong(ボング)」はタバコや大麻などを吸引するためのパイプ型喫煙具で、フィルターとして使用する水を入れる大きい容器と、タバコや大麻などを燃やした煙が通る細いパイプからなっています(日本語では水パイプという名称の方が一般的かもしれません)。何を吸っているかは明言されていませんが、おそらく大麻のことでしょう。ボングはジョイントやパイプなどの手軽な吸引方法と違って大きめの器具が必要ですが、その分効果を感じやすかったり喉に優しかったりと「贅沢な」吸い方であり、その器具の名前をあえて出すことによってセルフボースティングをしている訳ですね。
そしてここでディディーコングが登場するのですが、自分とディディーコングを重ねることにはいろいろな意味があると推測できます。まずは「黄色人種であることを誇っている」という意味。「yellow」も「monkey」も黄色人種を連想させる単語であり、差別的な意味で使われることが多いです。特にヒップホップは黒人発祥の文化で、白人でさえも差別されることがあります。アジア圏のヒップホップは世界的に見て注目度が低く、ヒップホップ的にはとても「弱い」人種なのです。だからこそ猿がモチーフの人気キャラクターと自分を重ねて「アジア人でもかっこいいぞ」とアピールしているのだと思われます。特にディディーコングは日本のゲームのキャラクターなこともあり、自身のアイデンティティをより強く表現できていると思います。
次は「本能のままに遊んで生きてる」といった意味です。ここではっきりと示唆されているわけではありませんが、SANTAWORLDVIEWが参加している楽曲『俺らは猿』では「快楽主義で好き勝手する」といった人生哲学を「猿」というワードに重ねており、もしかしたらこの曲でもそのイメージを「ディディーコング」に込めているのかもしれません。
最後は「『ディディーコングレーシング』を意識している」、という説です(完全な憶測です)。『ディディーコングレーシング』は1997年発売、ディディーコングが主人公のNINTENDO64用レーシングゲームです。このゲームではレースカー、ホバークラフト、飛行機に乗ってレースし、世界を回るというストーリーです。
各ゾーンには扉が配置されており、そこからレースに参加することによってストーリーが進んでいきます。そして、レース場に繋がる扉は「スライド式の扉」なのです。「OpenするSlide door」という歌詞はここにかかっているのかもしれません。
また、物語を進めるためには各ゾーンのレースでコインを全て集めてゴールする、というミッションをクリアしなければならず、「増えてくBank account」にかかっており、また飛行機にのってレースできることから「手にするPrivate jet」にもかかっていると解釈することもできます。もちろん、ただ単に「ラップでプライベートジェットを買えるくらい稼ぐ」という意味かもしれませんけどね。
いかかでしたか?第二回となる今回はドンキーコング・ディディーコングが登場する日本語ラップの曲を紹介しました。指摘、意見、感想などはコメントかTwitterのDMまでぜひお願いします。
次回はポケットモンスターシリーズからピカチュウとリザードンが登場する楽曲を紹介します。
次回の記事はこちら↓
日本語ラップに興味がある!もっと聴いてみたい!という方はAbemaのオーディション番組『ラップスタア誕生』がおすすめです。楽曲だけでなくラップの聴き方やラッパーの生き方、考え方にも触れられるのでぜひ観てみてください!それではまた次回!
ラップスタア誕生2021(完結)
ラップスタア誕生2023(2023/01/21現在放送中)
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