葉っぱの下に鬼灯のような実
葉っぱの下に鬼灯のような実がなっている、と思ったら見たこともない巨大な蜂であり、私は頭を刺される。おそらく新種だという。一緒にいた友人は医師で、私の大きく腫れた頭に、このままでは死んでしまうだろうと、漫画のように巨大な注射を刺す。あまりに大量の注射液が私の頭に注入され、口内にも液が溢れてくる。注射液はしょっぱかった。それで私はすっかり快復した。勿論夢の話である。
外と中はシームレスに繋がっている。白く巨大な円柱に支えられた廊下の天井は恐ろしく高く、見上げてみて豪奢な明かりが煌めいているのだな、と微かに分かる程度である。床には臙脂色の敷物、壁も臙脂色の装飾具で統一されており、幻想的中世ヨーロッパのようで、はたまたアジアの宗教的雰囲気も織り混ざったようであった。私は商談をしに来たのだ。先客がいるのを引き戸の隙間からのぞいている。主の女性は臙脂色の民族衣装を纏い、少女のように若い。主が部屋から出てくると、私は新種の蜂も叩き殺す、画期的ハエ叩きのプレゼンをして、大いに気に入られる。画期的といっても、至って普通のハエ叩きである。先ほどと違う部屋に案内されようとしたところで底が抜けて、大学の講義堂のような場所に落ちていく。
そこは朝食ビュッフェ会場だった。食べ物を取るお皿には塩がたっぷり塗りつけられていた。私は予約してあるのかが気にかかって、係の人に尋ねる。「団体様で予約されてるので大丈夫ですよ」といわれて安心する。皆は毛筆で紙に名前を書いて席取りをしている。中でもひときわ下手くそな字で、人の名前も書いてやっているのが、友人のMだった。
私はそこで目を覚ます。友人のMは左利きで夢に見たとおり字が下手だったなと思い出す。Mは小学校の時の友人だ。中学も一緒だったはずだが、その頃はほとんど記憶にない。Mには同じ地区の友人Nがいて、私はそのNとスポーツクラブが同じだった。Nを通じてMとも仲良くなった。Mは勉強が出来るわけでも、運動が出来るわけでもなく、容姿に優れたわけでもない。どちらかといえばすべてにおいて優れていなかった。しかし、Mが貸してくれるゲームソフトは革命的に面白かった。私のゲームの嗜好は今でもMが作り上げたものである。また、Mは本も貸してくれた。これも非常に面白く、風邪をひいて熱を出しながらも読んだ。ある日、Mに連れられて書店に行ったことがある。「この棚から好きなのを選ぶといい」、と言って、Mは中でも一番面白そうな本を持って行った。私は悩んだ。Mは満足するまで雑誌を立ち読みして戻ってきたが、私はまだ悩んでいた。「何やってんださっさと決めないと帰るぞ」と言われて、渋々一冊選び購入した。自分で買った本を読んでみると、面白いのかどうかよく分からなかった。「この前買った本貸してくれ」と言われて、私はMと一緒に買いに行った本をMに貸した。面白いか分からないけど、と自信なさげに貸した。「面白かった」とMが返すときに言ったので、そうか面白いのか、と私はそのとき初めて自分で買ったその本に満足した。同じシリーズを買い集めたくらいだった。
今やMとは10年以上会っていないし、金輪際会わないかもしれないとさえ思う。どこの高校に行ったかすら知らないし、今頃どうしているとか、噂の一片も全く聴かないほど縁遠い。それでも未だに、私の夢には顔を出すのだった。
最後まで読んで下さって、ありがとうございます。 サポートは必要ございません。 また、記事を読んで貰えたら嬉しいです!