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『こゝろ』(夏目漱石)

*2021年7月朗読教室テキスト② アドバンスコース
*著者 夏目漱石

 アドバンスコースでは、先月に引き続き夏目漱石を取り上げます。
『こゝろ』は、1914年4月から朝日新聞に連載された全110話の小説です(最終話は百十一となっていますが、自筆原稿では百三が抜けています)。昭和31年以降現在に至るまで国語の教科書に掲載されていますので、多くの人が”一部分を読んだことのある”物語だと思います。

 個人的には2015年から1年と2ヶ月に渡り、毎月末の土曜に都内某所で朗読会を開催し、8話づつ読み進めていきました。「先生と私」「両親と私」「先生の遺書」のそれぞれを声でなぞり、練習や構成も兼ねて何度も何度も読み返しました。
ご来場くださる方もほとんど「昔読んだことがあって、懐かしくて」とおっしゃいましたが、「でも、当時とは、着目する登場人物が変化した」という方が多くいらっしゃいました。「両親と私」の章で、「昔読んだときは語り手である"私"に共感してならなかったのが、今読むと"両親"の目線になってストーリーを追っている」ことに気づくのだそうです。同じことは実は私も感じていて、先生から語られる悩ましいことの曖昧さ、複雑さを、私が理解しきれていないことに共感して嫌な気持ちになっていたのが、「曖昧さを曖昧なまま、複雑さを複雑なまま」人に伝える先生の言葉に現在の私は非常にしっくりくるのです。

思えば夏目漱石という作家に対しても、昔はやっぱり曖昧で、複雑で、そうして地味な小説家だなぁと思っていたのが、今は言葉のひとつひとつに自分の曖昧さをあてがって、我が意を得たりとばかりに頷いています。それどころか、曖昧さ、わからなさ、そして孤独の深さを語る言葉に居心地の良さを感じたりもします。

アドバンスコース7月のテキストは夏目漱石の『こゝろ』です。漱石が言葉で解こうとした(あるいは、そもそも解こうとはしていないのかも?)心の明瞭でない部分を一緒になぞることができたらと思います。

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*底本 『夏目漱石全集8』株式会社筑摩書房
 1988年3月11日 第1刷発行/2012年4月20日 第10刷発行
*文中の太字は本文より抜粋

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