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最高の図書館

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第41回横溝正史ミステリ&ホラー大賞、一次選考落選作。 四〇〇字詰め原稿用紙換算枚数437枚。 忘れていなければ、一日ごとに投稿します。
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記事一覧

『最高の図書館』8

『最高の図書館』8



「少しは自力で本を選ぶべきじゃないか?」
開口一番、いつもと変わらぬ無表情で川上さんは言った。挨拶の過程が省略されるのはいつものことだ。
「真夜君は司書の仕事を尊重しているんですよ」
僕は莫迦みたいにうんうんと頷くが、こういう場面で川上さんが折れるのはあまり見たことがない。僕の手には今しがた受け取った読み掛けの『破戒』が握られている。
「もちろん、業務の一環としてのアドヴァイスです。利用者に

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『最高の図書館』7

『最高の図書館』7

第二章 笑い飛ばしてしまえばいい 一

本を読む。誰かと一緒にその時間を共有するリスクは確かに存在している。元来、書物とは孤独な性質のものであり、独りで読まれ、独りで書かれるものだろう。例外は少なからず存在するが、大多数はそうである。読み手は書物を独りで読み解いていく。言葉とは音であり信号である。文字とは視覚から情報を得る信号である。同時に文字は読むものでもある。文字の多くは発音が

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『最高の図書館』6

『最高の図書館』6



真凛は勉強机に向かい、ノートと教科書を開いていた。勉強を邪魔しないように、静かに二段ベッドの上に行く。部屋には勉強机が二脚あったのだけれど、片方はあまり活用されていない。試験期間中でもなければ、真面目に勉強などすることもない。
ベッドに凭れるように坐る。家ではいつもぼうっとしていることが多かった。僕にとっての家とは勉強をして、食事をして、寝るだけの場所だったのだ。自室にはテレビも置かれていな

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『最高の図書館』5

『最高の図書館』5

一九時四五分。閉館十五分前のアナウンスが館内のスピーカーから流れてくる。没頭していた意識が戻り、視野の焦点が分散していく。どれくらい読み進めたのだろうかと手を止めてみれば、ちょうど、一〇八頁に差し掛かるころだった。大きく息を吐く。
「閉館だ」
声のほうを振り返ると、川上さんが書架に本を並べている。顔は書架に向けたまま、口と手だけが淡々と動いていた。
「判ってますよ。帰ります」アナウンスの瞬間を狙っ

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『最高の図書館』4

『最高の図書館』4

「真夜君」
邪な目的も忘れて読書に没頭している最中に、話し掛ける声があった。物腰柔らかな声は、性急に過ぎる現代に於いて、逆に不適切の烙印を押されかねない。落ち着き払ったというよりは暢気な様子で姫野さんが立っていた。
「お疲れ様です」軽く会釈する。姫野さんに疲労の色は見えない。
真っ白な髪は短く切り揃えられていて、頬から顎に掛けての鋭角的な線は不健康な印象を強くする。顔の丸みが消えて痩せぎすに見える

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『最高の図書館』3

『最高の図書館』3



住宅が建ち並ぶ通りを抜けて、空の延長みたいな坂道を昇る。途切れた坂を横道に入ると、L字になった道の角に図書館は建っていた。
住宅に紛れて現れる図書館は、狭い敷地の中にある。高校から程近い場所にも図書館はあり、分館に区分される施設がここだった。
僕が住んでいる辺りには市区町村の付かない大字(おおあざ)の地名が残っている。大字とは要するに字(あざな)であり、口語としての呼び名の地名を引き継いだも

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『最高の図書館』2

『最高の図書館』2

第一章 我ら偏執的読書家はつつがなく



本を読む。たとえば意味もなく街を歩いたり、積み重なった食器を黙々と洗う。自分の好きなペースで走ったり休んだり、眠たければうたた寝をする。あまりにも自然で忘れそうになるが、それらは生活に必要なものであり、欠かせば少し落ち着かない。普遍的な読書とは斯くして続けられていく。
純文学も大衆小説も変わらない。読書というのは負荷が掛かる行為だと錯

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『最高の図書館』1

『最高の図書館』1

『断章 われら畏れを知らぬもの』河内飛鳥(川柳蒲柳)の詩

嘘は一つの符号に過ぎない。求めたのは言葉とも違うピリオドと書き切るまでの機械人形(オートマタ)だった。

しかし、人形は太陽に灼かれている。外側には人間の皮を被せている。
しかし、人形の瞼は落ちている。生身の目玉はすぐに乾いてしまう。
しかし、人形が手紙を書いている。指にはまだ不具に血の通う女が残っている。

人でなしの墓地に花を添える、

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