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「あなたよりも辛い人がいる」と言った人、言わなかった人

※辛い話、表現です。ご注意ください。

高校3年の冬から、入り浸っている場所があった。今はほとんど行けなくなってしまったけど。そこは、ある人が若者が少し羽を伸ばせるような居場所を作りたいと設立した、小さいカフェのような場所だった。しかし、事業をスタートしたら、なかなかに重い事情を抱えた子が頻繁に訪れるようになって驚かれたのだそう。そこは「居場所」というか、もはや「避難所」であった。

私も「避難者」であった。


「死にたい、でも生きねばならない」と踏ん張っていた私の思考は、たった1つのきっかけから、あっさりと「もう死のう」に変わった。死ぬ方法を考えた。妄想とかじゃなくて、できる限り現実的な方法を。死ぬことを考えている時間は、少しの幸せでもあった気がしている。

だが、生きてしまった。その時のことはよく覚えていないが、朦朧としながら家に帰ったらしい。きっと、生きたのは、たまたまだ。何か1つのきっかけで、私は家でなくあの世に向かっていたかもしれない。でもまあ、とにかく、私は死ねなかった。

その後に出会ったのがそのカフェだった。

同じような「避難者」に出会った。…と言いたいところだけど、全然違った。

そこで出会った人たちとは、割とすぐに打ち解けた。「お姉ちゃん」たちができた気分だった。しかし、そんな楽しい話ばかりでは無い。彼女たちの生きてきた履歴というべきだろうか、それはあまりにも過酷だった。酷い暴力に耐えかねて、自らも暴力的な生き方をすることを選び、その後非暴力の道に転換した人(本当に尊敬する)。逆に、自分を殺して、ひたすら息を潜めて耐えてきた人。助けなど来ない。ODもリスカも当たり前。皆、ボロボロで、傷ついて、それでも人を頼ろうとしていた。だけど、傷ついているから、人を信用できたことがないから、目の前の支援者に対しても、敵意を剥き出しにしてしまう。そんな姿を見た。

私は幸せなのだと思った。暴力はあったけど、頻度も、程度も、全然あの人たちとは違ったから。それゆえに、このカフェ、もとい避難所に私が存在する資格は無いのだと思った。ネットで見た「人の苦しみと自分の苦しみを比較する必要はないんだよ」だなんて言葉は信じられなかった。

私は、彼女たちになら「あなたより苦しい人はいる。甘えるな」と言われてもいいと思った。言われて当然だと思っていた。

だけど、現実は違った。彼女らが、「お姉ちゃん」たちが、私に発した言葉は、

「暁ちゃんは頑張ったね。偉かったね。」

そういう言葉だった。

「甘えるな」どころか、私を気遣う言葉、労う言葉をかけてくれる彼女たち。あまりにもありがたくて、泣きそうで、嬉しくて、言葉なんかもう役に立たないぐらい、ほっとした。




実際、私に「あなたより苦しい人はいる。甘えるな」と言ったのは、学校や塾の先生であった。彼らが逆境的な体験をした経験はどうやら少ないらしい(そう断言した人もいれば、示唆した人もいる、ぐらいの情報の不確かさはあるけど)。

残酷だなあと思った。

私より苦しいであろう人は「あなたより苦しい人がいる」とは言わなかった。殴られて蹴られて罵られて、逃げて、逃げた先でまた傷つけられた人が、なお目の前の私に優しい言葉をかけてくれていた。一方で、暴力に晒されたことの(あまり)ない人間が「あなたより苦しい人がいる」と言ったのだ。

これが、私の心の根底で煮えたぎっている怒りの正体だ。

そうだよ、先生? 私より苦しい人はいるんだよ、知ってるよ。目の前で見てたのだから。だけど、その人たちがどれだけ強く、優しくあろうとしてくれているのか、知らないでしょう? もしかしたら彼女たち、つまり「お姉ちゃん」たちも、私に対して怒りを覚えたかもしれない、それは解っている。だけど彼女らは、発する言葉や行動を、きちんと選んでくれた。

自分も苦しいだろうに、私を傷つけないでいてくれた。私を救ってくれた。それは、傷ついた人間のする役回りじゃないだろう…?

あまりにも、残酷すぎやしないか。



もしも神様がいるなら、お願いしたいことがある。

お姉ちゃんたちが…自分が傷つきながらも、傷ついた他者に優しく、正しくあろうとしてくれている彼女たちが、どうか安全な場所で過ごせますように。他者に渡した以上の優しさを受け取れますように。

どうか、どうか。お願いします。

私からできることは少ない。ほとんどない。だから、願う事しかできないけれど。



お姉ちゃんたちへ。

そして、いつかまた会えたら、一緒にご飯でも食べませんか。オムライス食べに行きたいねって話したの、覚えてくれていますか。

その時に、改めて、ありがとうと伝えさせてください。あなたたちの言葉のおかげで、私は、今、生きています。

またね。



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