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サンタさんへ こいつはあずかった 5/7

*本作品の登場人物として挙げている俳優の皆様は執筆者の頭の中で演じていただいているだけで実際の俳優の皆様とは一切関係ございません。キャラクター名もそのまま俳優様のお名前を使用させていただいております。

■蒼井家・2階 天嵩の部屋(夜)

 机で勉強道具を広げている天嵩。だが勉強はしておらず、クルクルと丸まった長い紙を広げてまじまじと読んでいる。相変わらずハムスターゲージの中で遊んでいるダンディ。
 少しして、ドアからマッシとコテッシが疲れた顔で入ってくる。

マッシ「はぁ……」
天嵩「おかえり!」
コテッシ「は〜、働いた働いた……よぉく働いたなぁ(天嵩を恨めしげに見る)」
天嵩「お疲れ様でした。ところでこれ面白いね!」

 持っていた紙をマッシとコテッシに見せる天嵩。顔を上げ、紙を見て絶句し、開いた口が塞がらないマッシとコテッシ。少し遅れて紙に気づき、腰を抜かすダンディ。

マッシ「コテッシ、まさか落としたのか!?」
コテッシ「どこでそれを……?(自分の胸元を探る)」
天嵩「自転車のカゴの中に落ちてたんだ。ゴミかと思ってつまみ上げたら急にでっかくなった!」

 天嵩、巻紙をバッと広げて2人に見せる。相変わらず固まっているエルフたち。
 巻紙には細かい字で子どもの名前とランクがビッシリと書いてある。

天嵩「これプレゼントもらう子のリストでしょ?オレはGood、か。サンタさんも甘いよな」
マッシ「ダンディ!」
ダンディ「ヒャいッ」

 カラン、という音、ゲージの上に重石として乗せられていた辞書などの本の山がゆらり、と揺れ、次の瞬間天嵩の手元から風とともにパッと巻紙が消える。風でめくれた机の上のノートのページが落ち着く頃には、マッシとコテッシの隣へ巻紙を回収したダンディが立っている。巻紙はまたエルフが持ち運ぶのにピッタリなサイズに戻っている。

マッシ「今さら遅い!!」
コテッシ「何のための見張りですか!!」
ダンディ「申し訳ない、申し訳ない」
天嵩「見張り?」
コテッシ「あー、いや、今のは言葉の綾といいますか……」

 天嵩、立ち上がってハムスターゲージをチェックし、アクリル壁に丸く穴が空いているのとそこにピッタリ合うアクリル板が落ちているのを発見する。

天嵩「へえ。さすが何でもできるエルフ様、こんなとこいつでも出られたってわけね。なんか騙された気分だ!」
マッシ「騙してはいない。言っただろう、エルフは嘘をつかない。人を騙すことなどできない」
天嵩「じゃあ何だっていうんだよ!いつでも逃げられたのに、オレに捕まってるフリして、悪いこと手伝ったりなんかして、何するつもりなんだ!」

 どうする、と目で話し合うコテッシとダンディ。グゥっと黙って天嵩を真っ直ぐ見ているマッシ。マッシに詰め寄る天嵩。

天嵩「どうしたんだよ。エルフは嘘つかないんだろ」
マッシ「ああ、つかない。……話そう」
コテッシ「マッシ……」
マッシ「いずれにしろ、話すつもりだった。ただ今がその時か考えていた」

 マッシ、天嵩の机の上にズンズンと歩いて行き、そのまた上に乗っている人形用の机にズシンと着席する。
 マッシの気迫に押され、椅子に大人しく座る天嵩。

マッシ「ダンディ、それ見せろ」

 ダンディ、急いでマッシのところへ行き巻紙を手渡す。マッシ、巻紙を両手で広げ天嵩の方へ見せる。

マッシ「蒼井天嵩、君はこれを見て『サンタさんも甘いよな』と言ったな。なぜだ」
天嵩「え?だって……オレ、昨日も言ったけど、みんなを嫌な気持ちにしてばっかなのに、プレゼントもらえるんだなぁと思って……」
マッシ「そうか。大変言いにくいことだが、蒼井天嵩、君はプレゼントの配布対象外だ」
天嵩「……え?」
マッシ「プレゼントはもらえないということだ」
天嵩「……え、でも"Good"って、良い子ってことでしょ……」
マッシ「サンタを信じるすべての子どもは、前の年のクリスマスからその年のクリスマスイヴまでの1年間をどう過ごしたかでランク分けされる。子どもたちがどのランクに分けられるかを判定するのがエルフの仕事だ。ランクは上から
"Outstanding", "Excellent", "Average", "Good"の4段階に分けられる。"Outstanding"にはたくさんの人のためになるような特別に良いことをした子が属する。"Excellent"は特別とまで言わないが褒められるべき子、"Average"はプレゼントをあげないほど悪い子ではない平均的な子、そして……プレゼントをあげてまで褒めるべき点がない子、つまりプレゼントがもらえない子は"Good"と判定される。理解し難いだろうが、これは文化のようなものだ。悪い子にはっきり"Bad"なんて言うのはかわいそうだから"Good"。余計な配慮だ」

 黙っている天嵩。

マッシ「エルフとして働き始めた当初、私は与えられたエルフとしての任務に没頭した。担当の子どもの行動について細かく記録をつけて、この子はプレゼントをあげるに値する子か、それとも値しないのか。何年も何年も、何万人も……いくつものクリスマスの朝。プレゼントを貰えず不貞腐れる子、泣き叫ぶ子、暴れて手当たり次第にものを投げつける子。我が子をなだめる家族の困った顔。
 そんなのをずっと見ているうち、私は自分のしていることにだんだん自信がなくなってきた。これからもエルフはこうして、楽しいはずのクリスマスを台無しにしていくんだろうか。幼い子どもたちの行動に細かいケチをつけて……。どうしたものかと考えた結果、ランク判定の基準について再検討することを思いついた」
天嵩「再検討?」
マッシ「つまりランクの判定を甘くして、プレゼントをもらえる子を増やそうと考えたわけだ。そこで他のエルフに私の考えを話し、"Good"の判定をもらう子を減らしてはどうか、と説いて回った。私と同じ班だったコテッシとダンディははじめから私に共感してくれていた。同じものを見てきたからな。
 ところが他のエルフは良い顔をしなかった。それどころか全く違う伝わり方をしてしまった。彼らは私が"嘘の報告"をあげるよう唆しているのだと受け取った。知っての通りエルフにとって嘘は禁忌だ。私たち3人の行動は本部に通報され、本部は我々を"再教育"の必要があるエルフとして逮捕しようとしたのだ」
天嵩「逮捕……じゃあ、みんなは、エルフたちから犯罪者扱いされているってこと?」
マッシ「そうだ。もちろん犯罪者ではない。意見が正しく伝わらなかっただけだ。だが大人しく捕まって行動を制限されては声を上げる機会を失う。だから我々は逃亡した。
 逃亡し指名手配されている今となっては我々の言うことに耳を傾ける者はいないし、今までのようにエルフを説得しようと試みるのではまた同じことの繰り返しだ。そこで我々は中間を省いて直接トップに話をつけることにした」
天嵩「トップって……まさか」
マッシ「そう。サンタクロースだ」
コテッシ「私は反対しましたよ」
ダンディ「僕は賛成!」
天嵩「それで?サンタと話せたの?」
マッシ「サンタクロースというのはクリスマスを運営する巨大な組織の頂点に君臨する存在だ。我々のような下っ端のエルフになど、直接会う機会は滅多に与えられない。偶然すれ違うくらいが良いところ、話をするなんてもってのほかだ。やり方は考えなければいけなかった。君が我々を捕まえた日、我々は計画の第1歩目を踏み出そうとしていたところだったんだ」

 天嵩、その日のことを思い出し、引き出しからカラフルな手紙を取り出す。子どもの字で「サンタさんへ」と大きく書いてある。

天嵩「これか」
マッシ「サンタクロース宛の手紙は通常、宛先の住所がどこになっていても、宛先が書かれていなくても、郵便回収班のエルフがポストから残らず探し出してこっそり回収しサンタクロースへ届ける。我々は米粒サイズに変身して手紙の中に入り込み、サンタクロースに手紙が配達されたら、ご本人の前にバーン!と登場し、直談判するつもりだったのだ」
天嵩「ふぅん……でも、3人とも米粒サイズになっちゃったら、誰が手紙にのりを貼ったり、ポストに手紙を入れたりするの?」
ダンディ「ふふ、鋭いね!」

 お腹を抱えて笑っているダンディ。痛いところを突かれたような、照れくさいような顔をして黙っているマッシとコテッシ。

コテッシ「えー、まあ、何というか、そこがこの企ての唯一の弱点というか……」
マッシ「そこは何とかするしかないと思っていた。まずは1歩目を踏み出すということが大事だったんだ」
天嵩「何にも考えてなかったわけね」

 頭をぽりぽりかいているコテッシ。

マッシ「とにかく、ここでようやく君の質問の答えられる。我々は偶然の出会いをチャンスととらえ、蒼井天嵩、君にそれを任せたいと考えたのだ。サンタクロースに手紙を書いて、我々を封筒に忍び込ませ、封をして、ポストへ投函する役目を。だからずっと離れずにいた」
天嵩「そういうことか……大事な役目みたいだけど、でも、オレ、プレゼント貰えないんだろ」
マッシ「ランクがどうあれ、手紙を出すのは自由さ。別にプレゼントの要望じゃなくても、子どもでも大人でも、サンタクロースに手紙を出すことはできる」
コテッシ「そうそう、ファンは相当多いですからね」
天嵩「まあ、別に良いけど……サンタに会って何て言うの?」
マッシ「決まっているだろう。サンタを信じる全ての子どもにプレゼントを配ってくれと頼む」
天嵩「全員……」

 何か続けようとして、また黙る天嵩。

マッシ「良い子・悪い子、家族と楽しいクリスマスを過ごす子、家族のない子、……どんな子にだって、あげたらいい。プレゼントをもらって良いことが起きることはあっても、悪いことは起きないだろう」
天嵩「……んー……そうかもね」

 天嵩、マッシと目が合わないよう椅子の向きをくるりと変え、勉強に戻るフリをする。難しい話が終わって和気藹々と話し始めるエルフたち。

コテッシ「まあ、一番困るとすれば我々エルフかもしれませんね!ランク調査の任務がなくなると大部分が暇になってしまうかもしれませんよ」
マッシ「他にもいろいろ仕事はあるさ。おもちゃ工場もあるし、郵便回収だってあるし、1225本部勤務はまあもう少しキャリアを積まなければいけないだろうが……」
ダンディ「僕本部は嫌だなぁ。寒そう!」
コテッシ「田舎でのんびりトナカイのブリーダーなんてのもいいですねぇ」
天嵩「じゃ、まあ、サンタに手紙書いとけばいいんだよね。内容はなんでも良いんでしょ?」
マッシ「引き受けてくれるか。恩に着る。なあ、ヨイコハットは私たちからアルバイト代でプレゼントするから、自分が欲しいものをもう1個、ちゃんと書いておけよ。蒼井天嵩がサンタクロースからもプレゼントをもらえるように、頑張ってくるからな」

 振り向きもせず、唸るように返事をする天嵩。

■蒼井家・1F リビング(朝)

 ベーコンと卵焼きの焼ける匂いがする朝。朝食そっちのけでお人形ごっこをしている妃璃愛。ランドセルを持って2階から下りてきて食卓につく天嵩。眠い目をこすっている。

天嵩「母ちゃん、ご飯」

 エプロンをつけ台所で奥を向いていた祐徠がこちらに振り向く。

祐徠「自分で取りに来い」

 げ、という顔をして天嵩が台所を振り返る。

天嵩「今日は火曜日か」

 ため息をつき、面倒くさそうにキッチンへ向かう。ネクタイを締めながら慌ただしく部屋から出てくる正人。

正人「悪いな、祐徠。片付け頼むな。妃璃愛、保育園行くよ!」
妃璃愛「イヤ」
正人「いいから行きますよ。祐徠、夜ご飯代もらったよな?」
祐徠「うん」
正人「よし。じゃ、行ってきます!」
祐徠「いってらっしゃい」

 正人、妃璃愛の手を引き、朝食を頬張る天嵩の頭をわしっと撫でて出ていく。
 天嵩、朝食を食べ終わり、自分の皿を下げる。まだ下げられていなかった妃璃愛の皿を見て、迷うが、忙しそうな兄を見て、手伝うことに決め皿を片付け始める。が、コップの中に残っていた牛乳に気づかずひっくり返してこぼしてしまう。

天嵩「あ」
祐徠「おい……忙しい時間に仕事を増やすなよな」
天嵩「わざとじゃないだろ!」
祐徠「はいはい。わざとじゃないんですよね。いつも」

 ぶつぶつ言いながら布巾で汚れたものを拭きにくる祐徠。

祐徠「お前もういいから学校行けよ」

 天嵩、床を拭く兄の背中を見ながら、自分の右耳をぐいぐいつねる。
 ふと祐徠の鞄に目をやると、外ポケットに財布が入っているのが見える。天嵩、兄を睨んだ後、その財布をスッと引き抜き、リビングの引き出しの裏に隠してしまう。そのままランドセルを掴んで足早に家を出ていく。

■ショッピングモール・出入り口〜市街地

 人間サイズでショッピングモールの自動ドアから出てくるマッシ・コテッシ・ダンディ。マッシの手にはラッピングされたプレゼントが握られている。

マッシ「首尾よし、首尾よし」
ダンディ「ヨイコハット、ゲッツ!!」
コテッシ「思ったより安価でしたね!お金が余りました」

 コテッシ、物珍しげに千円札を7枚ほど手で広げ、小銭を数える。

コテッシ「7,563円……何が買えますか?……あ!小枝は買えますか?」
ダンディ「ポテチ!ポテチ!」

 マッシ、口を真一文字に結び、盛り上がる2人の手からお金を引ったくる。周りを見渡すと、紺色のセーラー服を着た女子学生たちが一列に並んで募金を呼びかけている。マッシ、学生たちのところへズンズン歩いていき、紙幣を全て募金箱の中にぐいっと突っ込む。残念そうな顔でそれを見ているコテッシとダンディ。

学生たち「「ありがとうございます!」」

 気前のいい募金に沸き立つ女子学生たち。軽く頭を下げ、学生たちの列を通り過ぎるマッシ。列の最後の2人だけが"深緑色の"セーラー服を着ているのに気付き、ふと気になって顔を見る。アジュとハルカがマッシににっこりと笑いかける。
 マッシ、緊張した顔で胸元を見る。胸ポケットに赤い実のついた柊の小枝が入れられている。何も気づかないふりをして通り過ぎるが、早足になる。急いで追いかけてくるコテッシとダンディ。

コテッシ「マッシ、一言相談してくれてもいいじゃないですか!私のアルバイト代でもあったんですからーーー」
マッシ「逃げるぞ」
コテッシ「え?なんですか?」
ダンディ「(マッシの胸元を指差して)"しおり"がついてる!」
マッシ「おまわり班だ。見つかった」

 ニコニコしながら異様な早足で3人を追うアジュとハルカ。角を曲がると、3人の姿が見えない。だが見上げると、エルフサイズに戻った3人が急いでビルの屋上に向かって壁を駆け上がるのが見える。

アジュ「もう"しおり"はつけた。逃げても無駄なのに……」
ハルカ「(ストレッチしながら)追いかけっこ大好き〜。よーい……ドン!」

 緑色の霞となって消えていくエルフたち。

■中学校・教室(夕)

 祐徠のクラス(2年C組)の教室。HRが終わり、生徒が帰っていく。祐徠と同じ塾に通うクラスメイト・守永 伊吹が祐徠に話しかけにくる。祐徠は鞄の中を漁って何かを探している。

伊吹「おう、塾行こーぜー」
祐徠「ちょっと待って……、俺財布忘れたかも」
伊吹「え?もっとよく探せよ」
祐徠「……やっぱないわ。俺授業の前に1回帰んないと」
伊吹「えー金なら貸してやるよー」
祐徠「ほんと?」

 自分の鞄を開けて財布を探す伊吹。しまった、という顔でパンを3つ取り出す。

伊吹「あー、ダメだ。俺今日現物支給なんだった。ごめん」
祐徠「いや、いいよ。どっちしろ家にちゃんと財布あるか確認しないと」
伊吹「んー。じゃ先自習室行ってるわ。あとでな」
祐徠「じゃね」

■中学校〜蒼井家・帰路(夕)

 自転車を漕ぐ祐徠。坂道を駆け下りて左折する際、一時停止を無視して突っ込んでくる車に気づかず、事故に遭う。鳴り響くクラクション。

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