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サンタさんへ こいつはあずかった 6/7

*本作品の登場人物として挙げている俳優の皆様は執筆者の頭の中で演じていただいているだけで実際の俳優の皆様とは一切関係ございません。キャラクター名もそのまま俳優様のお名前を使用させていただいております。

■スーパーマーケット・店内(夕)

  スーパーの野菜売り場。ブロッコリーの陳列棚をよく見ると、マッシ・コテッシ・ダンディが潜んでいる。マッシが買ったヨイコハットはエルフサイズに合わせて縮んでいて、コテッシが背中にくくりつけて運んでいる。

コテッシ「マッシ、こんなことはいつまでも続きませんよ……もうあなたに"しおり"をつけられた以上、どこにいても我々の居場所は筒抜けなんですから……」
マッシ「わかってるがとにかく何も手を打たないまま捕まったらおしまいだ!とにかく人の多い場所を選んで逃げるしかない、人間が見ている場所ならやつらも大それたことはーーー」
ダンディ「危ない!」

 ダンディがどこからか盾を取り出す。カーン!という音とともに矢が盾の真ん中に突き刺さる。盾に刺さり煙をあげている矢をまじまじと見る3人。

マッシ「大それたこと、してくるな……」

 霞となって消える3人。厨房に入るドアがほんの少し開く。
 店内からは厨房の中が横長の窓を通して見える。黙々と働いていた従業員が調理器具が落ちる音に驚いて振り返る。続いて油が跳ね、「あちっ!」と飛び退く。だが何が何だかわからないという顔で厨房内を見渡している。

■スーパーマーケット・厨房(夕)

 揚げ物のお惣菜を作っている厨房。スーパーのオリジナルソングや販売員のマイク放送でかなり騒がしい。
 従業員に見えない位置で立ち止まるアジュ。床に落ちている竹串を拾い上げ、ヒュンヒュン動き回る緑の霞を目で追う。よく狙いを定めて天井に向かって投げると、ものすごい勢いで竹串が飛んでいき、戸棚の上の壁に突き刺さる。何かを捉えた様子。
 コテッシ、服の裾がアジュの放った竹串で壁に釘付けにされ動けなくなっている。引き抜こうと竹串に手をかけ足で壁を蹴っているダンディ。そばであたふたしているマッシ。3人とも油を被ってギトギトになっている。
 怖い目をしたアジュと、ニコニコした顔のハルカがのんびり歩きながら3人に近づいてくる。ハルカ、手には魔法の杖のようなものを持っており、先端には緑色のハート型をした鉱石がついている。

ハルカ「初めましてー!!やっと挨拶できたねっ。アジア第2支部おまわり班のハルカです!こっちはアジュちゃんです」
マッシ「やあ、どうも。私はーーー」
アジュ「マッシ・コテッシ・ダンディ、あなた方の名前は今や全エルフに知れ渡っています。前代未聞の大犯罪者として」
マッシ「……だろうな」
アジュ「あなた方3名は再教育対象者として認定されました。1225本部に直ちに連行します。理由については身に覚えがあるかと思いますので省略いたします。規定違反の行為があまりに多く、この場で列挙するのは少々手間ですし」

 3人を拘束するための縄を取り出すアジュ。

マッシ「規定違反は承知だ。まあ、そっちも仕事だろうが、こっちも引けない事情がある。すまないが大人しくついていくわけにはいかない」

 マッシ、ダンディに目配せする。ダンディ、一気に力を込めてコテッシを固定していた竹串を引き抜き、煙幕玉を投げようと振りかぶる。

ハルカ「あ!も〜面倒かけちゃダメじゃないですかっ。エルフル〜ミラクル〜マジカル!」

 ハルカが掛け声とともに杖を振ると同時にダンディが首をおさえて苦しみだす。少しずつ宙に浮くダンディ。

コテッシ「!!……直前のキュートなモーションとのギャップがエグい……」
マッシ「ただただ首を締め上げてる……」
アジュ「あなたたちの狙いはなんですか?エルフと人間の関係を破壊したいのですか?」
マッシ「そんなわけないだろう。クリスマスプレゼントを届けたいだけだ」

 一瞬たじろぐアジュとハルカ。

アジュ「一体誰に?」
マッシ「蒼井天嵩だ」
アジュ「戯言を。蒼井天嵩のランクは"Good"です、プレゼントの配布対象ではーーー」
マッシ「我々からの個人的なクリスマスプレゼントだよ。(コテッシが背負っている包みを顎で示す)蒼井天嵩への。君たちのせいで届けられそうにないが」
ハルカ「……それはちょっとズルくない?」

 強く拳を握りしめしばし逡巡するアジュ。ハルカ、先に諦めてダンディを解放する。ドサッと床に転がるダンディ。マッシ・コテッシ・ダンディ、少し2人の様子を伺っている。しばらくみんな黙っている。

アジュ「……執行猶予を与えます。クリスマスプレゼントを届けるまで」
マッシ「十分だ。恩に着る」
アジュ「監視付きですよ。当然」
マッシ「わかってる、わかってる」

 コテッシ、床に転がったダンディを抱き起こす。立ち去る3人。目で追いかけるアジュとハルカ。

■蒼井家・2F 天嵩の部屋(夕)

 学校から帰宅したあと、ベッドに寝転がって漫画を読んでいる天嵩。そばには空のハムスターゲージ。
 1Fで玄関のドアが開く音がし、慌ただしい足音が2Fへ上がってくる。

優「天嵩!」

 天嵩の部屋のドアが乱暴に開き、優が顔を覗かせる。飛び起きる天嵩。

天嵩「母ちゃん?今日遅番じゃなかった?ーーー」
優「天嵩……(息を整え、天嵩に目線を合わせしゃがむ)兄ちゃんがね、事故に遭ったんだって」
天嵩「え……?」
優「自転車で、そこの坂のとこでだって……、あの子今日塾なのになんで家帰ってこようとしたんだろう?忘れ物でもしたのかな……病院行くけど、あんた来る?」

 答えられない天嵩。

優「天嵩?……母ちゃん行かないと……、天嵩、一緒に来ないなら、今おばあちゃんが妃璃愛を保育園に迎えに行ってて、そのあと家に来てくれるから、3人で家で待っててね?」
天嵩「兄ちゃん死にそうなの?」
優「大丈夫、大丈夫だから。ね、おばあちゃん来るまで家出ないでよ。ちょっと保険証探さないと」

 優、ぎゅっと長めに天嵩を抱きしめる。天嵩、優の手が少し震えているのに気づいてしまう。足早に出ていく優。ぼうっとしている天嵩。

■蒼井家・表(夕)

 蒼井家の敷地内の茂みでガサガサ音がする。エルフたちの声が聞こえる。

マッシ・声「はぁ……やっと着いた。みんなちゃんといるか」
コテッシ・声「なんとか……ちょっとこの油を落とさないと、お母さんに叱られます」
ダンディ・声「これ使う?」

 ブオーッと大きな音がして茂みが風でまたガサガサと揺れる。

マッシ・声「ちょっ、ちょっと、もういい!もういい!」

 ぺっ、ペっ、と口に入った何かを出そうとするコテッシの声。

■蒼井家・2F 天嵩の部屋(夕)

 壁をよじ登って天嵩の部屋に入るエルフたち。みんな髪の毛が逆立ち、ところどころに白い泡がついている。

コテッシ「はあ……とんだ目に遭った……」
マッシ「だが時間の問題だ……蒼井天嵩!」

 部屋を見渡すが、誰もいない。ダンディ、壁を見透かせる望遠鏡で他の部屋も調べている。

ダンディ「誰もいない」
コテッシ「変ですね……もうとっくに家にいるはず……」
マッシ「困ったな。早くこいつを渡したかったのに」
コテッシ「とにかく心当たりを回りましょう……まずは小学校と……それから河原……」
ダンディ「ハルカ怖い……」
コテッシ「あのラブリーな杖なんですか?必要ないですよね絶対?」
ダンディ「ハルカ怖い……」

 ため息をつき、また窓から出ていく3人。誰もいなくなった薄暗い部屋。

■病院・出口(夜)

 右足にギブスをつけ、松葉杖をついて出てくる祐徠と、寄り添って出てくる優と正人。

正人「まだタクシー来てないな……。いやー、大したことなくてよかった、本当に」
優「寿命縮んだよ……」
祐徠「ごめんごめん。俺が直接電話できたらこんな大騒ぎにならなかったのに」
正人「いや、気失ったらしょうがないだろ。頭がなんともなくてよかったな」
祐徠「うん。この優秀な頭に傷なんかついたらよろしくないよね」
正人「自分で言うか?」

 優のスマホに着信が入る。

優「もしもし、ママ?どうしたの?……え?(正人に)天嵩、家にいないんだって」
正人「え?」
優「ずっといないの?……わかった、もう戻るとこだから。あー、でもそんなに慌てなくていいよ……前もあったでしょ、暗くなっても帰ってこなくて、みんなであちこち探したら結局河原でボール蹴ってたって……帰りに河原に寄ってみるから」

 優、電話を切る。

優「家を出ないでって言ったのに」
正人「もう18時か……」

 タクシーに乗り込む蒼井家。

■ショッピングモール・広場(夜)

 イルミネーションで飾られたショッピングモールの広場。寒空の下、隅の方のベンチで肩を落とし1人で座っている天嵩。
 しばらくして、ふわっと風が吹き、エルフサイズのマッシ・コテッシ・ダンディが現れる。天嵩の右側にコテッシ、左側にマッシとダンディが並んでベンチに座る。茂みからアジュとハルカが現れるが、誰も気づいていない。

ダンディ「天嵩見っけ!」
マッシ「探したぞ、おい。こんなところで何やってる?」
コテッシ「門限はとっくに過ぎてますよ!」

 天嵩、声に驚くが、3人だとわかりまた目を伏せる。また右耳をぎゅうぎゅう常っている。

マッシ「どうした?何かあったのか?」
アジュ「要件は済みましたか」

 アジュたちに初めて気づき飛び上がるエルフたち。天嵩、アジュとハルカを見るが特に気に留めない。

マッシ「せっかちだな全く……ちょっと待ってなさいよ」
天嵩「ねえ、ヨイコハットは?」
マッシ「ああ、ここにあるぞ。メリークリスマス!で、一体誰を懲らしめるつもりなんだ?」

 マッシ、コテッシの背に結びつけていたプレゼントを手渡す。つまむようにして受け取る天嵩。天嵩の手に渡るとプレゼントが元のサイズまで大きくなる。天嵩、すぐに包装をビリビリに破いてヨイコハットを取り出し、じっと見つめる。
×  ×  ×
(フラッシュ 1)
男子児童A「(天嵩の肩を叩いて)もうちょっと人の気持ち考えろよな」
女子児童B「こーゆーときっていっつも天嵩」
女子児童たち「ねー。」
(フラッシュ 2)
祐徠「母さんたちの気持ち考えろよ。いちいち面倒くさいんだよ」
(フラッシュ 3)
妃璃愛「嫌だ!キューロランド行きたい!行きたい行きたい行きたい!!(食卓をバンバン叩く)」
(フラッシュ 4)
天嵩を抱きしめる優の震える手。
×  ×  ×
 ぎゅっと目を瞑り、ぐいっとヨイコハットを被る天嵩。ハッとして天嵩を見つめるマッシ、コテッシ、ダンディ。

マッシ「天嵩……君の言った"嫌なことばっか言うヤツ"って……君自身のことだったのか」
天嵩「……兄ちゃんが……」
マッシ「……?蒼井祐徠がどうした?」
天嵩「車に轢かれた……」
エルフたち「「え!?」」
天嵩「オレのせいなんだ……」

 アジュが目で指示し、それを受け、一度ビシッと敬礼してから風とともに消えるハルカ。
 マッシ、立ち上がって椅子から飛び降りる。着地する頃には人間サイズに大きくなっており、そのままゆっくり天嵩と並んでベンチに腰掛ける。

マッシ「何故自分のせいだと思う?天嵩が車を運転してたわけじゃないんだろ?」
天嵩「オレ、今朝、兄ちゃんの財布隠したんだ。ちょっと困らせようと思って……兄ちゃん、多分財布探しに帰ってきたんだ。財布持ってれば、いつも通り学校からそのまま塾に行った、事故なんか遭わなかった……」
マッシ「それは……」
天嵩「世界中の子ども全員にプレゼントをあげたいって言ってたけどさ、マッシ、……それダメだと思う。だってオレがサンタだったら、オレにプレゼントあげないもん」

 天嵩をじっと見つめるマッシ。

マッシ「天嵩が小さい時、……今よりもっと小さい時ということだが、兄ちゃんにずっとくっついて回ってたの覚えてるか」
天嵩「……そうだっけ」
マッシ「ひよこみたいに蒼井祐徠の後をテクテクついていって、選ぶお菓子も一緒、見るテレビも一緒。一瞬でも姿が見えないと兄ちゃん、兄ちゃんって大声で呼んでたな。
 だが、ある晩……あれは蒼井祐徠が中学受験の勉強を始めた頃か。君は熱心に机に向かう兄ちゃんの隣にちょこんと座って、振り向きもしない兄ちゃんの横顔を、目をこんっなに大きく開けて、長い間じーっと見つめていた。そしてその日から、ぱったり兄ちゃんを追いかけるのをやめた。あの時、きっと君は感じたんだろう。兄ちゃんは勉強が好きなんだなって。邪魔しちゃいけないなって。私は、天嵩、君はなんて優しいんだろうと思ったよ」
天嵩「なんで?」
マッシ「君の性格は君のサッカーによく出ていると思う。ディフェンダーみたいだな。言葉を使って思いを伝えるのが下手で、人からよく誤解されるが、私が思うに、君は人それぞれの世界を守りたいだけなんだ。みんなが自分の好きなことを思う存分やればいいし、やりたくないことを周りに合わせてやる必要もない。小川翔真にピアニカが苦手なら頑張らなくていいと言ったのも、ご両親にキューロランドに行きたくないと言ったのも、きっとそういうことなんだろ?」
天嵩「……うん」
マッシ「思いやるつもりが、うまくいかなくて、傷つけて。辛かったな。その度に、天嵩も傷ついてたもんな」

 黙っている天嵩。

ハルカ「おーい!」

 ハルカの声に顔をあげる天嵩とエルフたち。ぎょっとするアジュ。人間サイズのハルカが祐徠をおんぶしてこちらに近づいてきており、優、正人、妃璃愛が足早にその後をついてくる。

アジュ「人間を、おんぶ……!?」
ハルカ「お兄ちゃん大丈夫だったよ〜!!」
天嵩「兄ちゃん……!死んでない……!」
ダンディ「生きてた!祐徠!(飛び跳ねて手をブンブン振る)」
コテッシ「なるほど、安否確認に行ってくれたんですね、あなたの指示ですか?いやぁ、さすが気が回りますねぇ!」

 アジュの手をとり嬉しそうに握手するコテッシ。妃璃愛、コテッシ・ダンディ・アジュの方を見てあれはなんだろうと目を細めている。アジュ、しばらく絶句した後、妃璃愛の視線に気づき、コテッシとダンディの首根っこを掴んで茂みの中に飛び込む。

アジュ「人間に手を振るエルフがありますか!!」
コテッシ「え?ああ、つい……」

 天嵩を見つけて走ってくる優。立ち上がる天嵩とマッシ。

優「天嵩!」

 ぎゅっと天嵩を抱きしめる。正人、妃璃愛、祐徠、ハルカも天嵩のところへやってくる。妃璃愛、茂みの方がちょっと気になっている。祐徠を下ろすハルカ。

優「家にいてって言ったでしょ!心配したんだよ!……どうもすいません、ありがとうございました」

 マッシに頭を下げる優。マッシ、軽く会釈を返す。また右耳をつねっている天嵩。マッシ、天嵩をしばらく見てから、蒼井家に向き直る。

マッシ「蒼井家の皆さん、初めまして。私はサンタクロースのもとで働く、エルフのマッシと申します」

 突然何を言い出すんだという顔でマッシに注目している一同。エルフたちも突然存在を暴露され呆然としている。

アジュ「何をーーー?」
優「あー……エルフの、マッシさん?どうも……」
正人「(優に小声で)なんかのイベントか?」
優「(小声、ちょっとニヤニヤしている)わかんない……」
マッシ「ちょっと失礼」

 マッシ、茂みの中に手を突っ込み、エルフサイズのコテッシとダンディを引きずり出して手の上に乗せる。ちょっと目を回しているコテッシとダンディ。2人が蒼井家に見えるよう手を差し出すマッシ。驚いてまじまじと見ている優と正人。触ろうとする妃璃愛。

妃璃愛「やっぱりいた!この子たちさっき見たの!」
マッシ「こっちがコテッシ、こっちがダンディ」
コテッシ「……あー、ごきげんよう」
ダンディ「どうも!」
正人「しゃべった……え、本物?」
優「……本物だ……」

 マッシ、ベンチの上に2人を下ろす。妃璃愛、興味深げに近づいていきエルフの隣に座る。

マッシ「今年の彼の行動をずっと観察しておりましたが、家族のイベントには毎度毎度『サッカーしたいから行かない』なんて駄々をこねるわ、運動会のダンス発表の練習中に『やる気がないなら帰れ』と言われて本当に帰るわ……」
コテッシ「同じクラスの鈴木風夏ちゃんの机の中にセミの抜け殻を入れて泣かせたこともありましたね」
ダンディ「妃璃愛のプリンセスのドレスに醤油のシミつけたのも天嵩だよ!」
優「そうなの?」
正人「なんで知ってるんですか?」
マッシ「言ったでしょう、観察していたと。我々の仕事なので当然です。私もこの仕事を長くやっていますが、いやあ、こんな子はなかなかいませんよ。常に人の和を乱す!ご両親も手を焼いてらっしゃるでしょう」
優「……はい?」
マッシ「極めつけは今朝だ。蒼井祐徠くんの財布をいたずらで隠したっていうじゃありませんか。財布を探しに帰ってきた蒼井祐徠くんはこの通りひどい事故に遭った……天嵩くんがいたずらなんてしなければ、こんな悲劇は起こらなかった」
正人「おい、黙って聞いてれば何なんだーーー」
マッシ「そこで我々はエルフの名において今夜、蒼井天嵩くんにお知らせします。今年のクリスマスに、サンタクロースから蒼井天嵩くんへプレゼントが届く予定はありません。残念ながら」

 天嵩を見る優。マッシを睨みつけている正人。

マッシ「また来年頑張ってください。まあ、彼のような子に大きな変化は期待していませんが」

 天嵩に駆け寄りガシッと肩をつかむ優と正人。

正人「天嵩、こんなやつ気にしなくていいからな」
優「母ちゃんたちそんなこと思ってないからね」
正人「もしかしてこいつに他にもなんか言われたか?それでそんな元気ない顔してんのか?」

 矢継ぎ早に声を掛けたり頭を撫でたりする2人。戸惑う天嵩。優、マッシを振り返って睨みつける。

優「何か他にも余計なこと言ったんですか?」
正人「忘れろよ全部、天嵩、な、こいつ言ったこと嘘だからな」
マッシ「エルフはーーー」
天嵩「エルフは嘘をつかないんだよ、父ちゃん」
正人「……え?」
天嵩「父ちゃんも母ちゃんも、嘘つかなくていいよ。わかってる。オレの周りの人は、いっつも悲しい顔とか、怒った顔してるんだ。オレが兄ちゃんみたいな子だったら、母ちゃんも父ちゃんも、嬉しかったよね……」
優「……天嵩……」

 妃璃愛、マッシに体当たりする。

マッシ「?」
妃璃愛「妃璃愛、サンタさんのプレゼントいらない!てん兄ちゃんにひどいこと言う人からのプレゼントなんかいらない!あっち行って!」

 ポカポカマッシを殴る妃璃愛。祐徠、足を引きずって妃璃愛を止める。

祐徠「妃璃愛、やめろ。もういいよ。……あの、1個聞いてもいいですか?僕はプレゼントをもらえるんでしょうか?」
マッシ「ああ。君は配布対象だ。プレゼントをもらえる」
祐徠「そうですか……。じゃあ、サンタに伝えておいてもらえますか?弟は確かに、いたずらもするし、頑固で、オレとも友達ともよく喧嘩してます。だけど、そんなことがある度に1日中難しい顔して考え込んでいるんです。きっと天嵩なりにいつも反省しているんだと思います。観察しているとかいいながら、成長しようと悩んでいる弟を"悪い子"呼ばわりする無能なエルフなんか寄越さないでくださいって。あ、あと、僕もプレゼントはいりません」

 祐徠、ベンチの上にいたダンディを引っ掴み、遠くへぶん投げる。ダンディの叫び声が河原の方まで飛んでいく。

祐徠「僕も別にいい子じゃないので」

 ニコッと笑う祐徠。ベーッと舌を出す妃璃愛。
 マッシ、蒼井家の顔を見て笑う。しゃがみ込み、天嵩と目線を合わせる。

マッシ「天嵩。我々が君のハムスターゲージから逃げ出さなかった理由だが」
ハルカ「ハムスターゲージに捕まってたの?プププ」
コテッシ「ちょっと静かに!」
天嵩「サンタに会うためでしょ?」
ハルカ「サッ!?……マジ?」
コテッシ「シーッ」
マッシ「もちろん計画のことも頭にあったが、それだけじゃないんだ。君が、小さなその身体で、不器用に悩む姿を見たらな……君のような子にこそ、人と温かく通じ合うクリスマスが訪れるようにと……、我々の計画はそこに向かうべきなんだと、思うようになったんだよ。ま、簡単に言えば……そばにいたかったんだ」

 なんとなく聞き入っている一同。

祐徠「別に心配してもらわなくて大丈夫なんですけど。僕たち家族は心の底で通じ合ってますから」

 天嵩の肩を抱く祐徠。ちょっと怪訝な顔で兄を見上げる天嵩。

天嵩「……なんか兄ちゃん、気持ち悪いな」
祐徠「なんでだよっ」
優「いや、うん、でもなんかちょっと……」
正人「優しすぎっていうか……素直すぎっていうか」
祐徠「普通だろ!」
優「天嵩に対してはもうちょっとトゲあるよ、いつも」
マッシ「エルフに触れたからだ」
祐徠「え?エルフって?」

 ハルカを指さすマッシ。ニコッと笑うハルカ。

天嵩「あの人もそうなの?」
正人「いやに力持ちだなとは思ったけど……」
マッシ「エルフとは、クリスマスに寄り添いあい、互いを思いあう人間の心が生んだエネルギー体だ。人間がエルフに触れれば、当然、少し心に影響が出る」

 天嵩の背中をポン、と叩くマッシ。天嵩、触れられた背中がじんわりと温かくなる。何か言いたそうにしている。

天嵩「母ちゃん……オレ……」
優「うん」
天嵩「助けてほしい……いつも、わからないの。オレ、間違ったこと言ってないと思うのに、みんなを嫌な気持ちにしちゃう。どうしたらいいかわかんない……」
優「そっか。そうなんだね。話してくれてありがとう。みんなで一緒に考えよう」
正人「へー、すごい……ほんとに素直になった……」

 正人、恐る恐るベンチにいるコテッシに人差し指を差し出してみる。コテッシ、ピタッと両手で握り返す。正人、途端に涙が止まらなくなる。

正人「うわあぁ……なんだこれ……うわあぁ……」
コテッシ「重ねた年月の分、影響が大きいんですよ。あなたは大人ですから」

 胸元からハンカチを取り出して手渡すコテッシ。正人が受け取るとハンカチが人間サイズに大きくなる。

正人「!?……すごい……」

 目元を拭う正人。遠くからクリスマスキャロルが聞こえてくる。

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