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インプロとは?あなたの知らない即興演劇の世界

僕の好きなテレビ番組のひとつに「マツコの知らない世界」がある。毎週さまざまな世界のマニアがやってきて、その世界の魅力をマツコさんにプレゼンする番組だ。

この番組を好きなのは、スタッフを含めた全員がマツコさんを喜ばせようとしている姿勢が見えるからである。そしてなにより、それぞれの世界を愛している人たちが真っ直ぐで気持ちいいからである。

さて、僕はインプロと呼ばれる即興演劇の世界で生きている。インプロのパフォーマンス経験は100回を超えるし、ワークショップ経験に関しては300回を超えるだろう。

しかしそれでもインプロはまだまだマイナージャンルで、一般に知られているとは言いがたい。そこでこの記事では「マツコの知らない世界」のように、インプロの世界の魅力を一般の人に伝えてみようと思う。それは多くの人が考える「即興」のイメージとはだいぶ違うはずだ。

インプロとは?

インプロとは即興演劇のことである。台本の無い中で即興で演じたりストーリーを語ったりするものだ。

通常、演劇を行う時には台本があって、稽古をして、それをお客さんに見せるという手順を踏む。しかしインプロの場合はまず台本がない。また、「寸劇」や「即興劇」と呼ばれる、大まかな構成が決まっていて中身がアドリブ、というものでもない。本当に何も決まっていないところから始めるのがインプロだ。

だからショーとしてインプロをするときには、お客さんからアイデアをもらって、それをもとに始めることもある。例えば「春休みに行きたいところは?」と聞いて「花見」と答えが返ってきたら、花見のシーンを始める、といった具合だ。(そしたら「酔っ払って絡んだ相手がヤクザだった」という話になるかもしれない。)


インプロの魅力とは?

「インプロと呼ばれる即興演劇をやっています」と言うと、多くの人に「なんで即興でやってるの?(台本を使わないの?)」と聞かれる。もっともな疑問である。

そしてもちろん、インプロにはインプロの魅力がある。そこでここではインプロの魅力をいくつか挙げてみたい。

1. がんばらなくていい

人前で即興をするというと「何かうまいことを言う」というイメージを持っている人が多い。実際、説明の入り口ではそのように誤解されることもある。

しかしインプロはそのようなものではない。むしろ自然な状態で人前に立つことを目指していく。そこには自然な状態から出てくるものが結局は一番面白いし、演劇として真実を含んでいる、という考え方がある。

インプロでは「何か面白いものをお客さんに見せてやるぞ」と思ってやるとあまりうまくいかない。それよりも「何が起こるか分からないけど楽しんでいこう」と思ってやるほうがうまくいきやすい。(もちろん本当にそう思えるようになるのは大変なことで、そのためにインプロを学んでいると言ってもいい。)

ちなみに、インプロに似ているものに演劇の「エチュード」がある。これもインプロと同じく即興で演じるものだが、日本で「エチュード」と呼ばれているものの多くは「がんばって面白いことをやる」という考え方で行われている。だからエチュードが苦手だった人がインプロのワークショップに来ると「インプロは自由で楽しい」と言うことがよくある。

インプロは巷の「即興で面白いことをやります」というものと形は似ているけれど、考え方は全然遠いものかもしれない。むしろ個人的には合気道のほうが近いとすら感じている。

がんばらなくていい。そのほうが自然と面白くなる。その考え方がインプロの魅力のひとつである。

2. 失敗していい

こうやってインプロの話をしていると、「即興なのに失敗しないんですか?」と聞かれることがある。

失敗はします。普通にします。

むしろ失敗しないようにやっているインプロはあまり面白くならない。「できる範囲でこなしてるなぁ」という感じになってしまう。それよりも大胆にチャレンジして「奇跡を起こすか失敗するか」の心意気でやっているインプロのほうがやっていても見ていてずっと気持ちのいいものになる。

そしてそもそもインプロでは失敗を悪いことだと考えていない。失敗はチャレンジした結果だから、そのことを責める必要はないと考えているのだ。

また、これはコメディーの基本でもあるが、失敗したことをオープンにするとお客さんは笑ってくれる。反対に、失敗を隠そうとするとお客さんを敵にしてしまう。(ここらへんは出川哲朗さんを思い浮かべると分かりやすいと思う。彼は失敗をオープンにする天才だ。)

本当にチャレンジしていいし、本当に失敗していい。そういうことを「いい話」としてではなく、身をもって学べるのもインプロの魅力だと思う。

3. 誰でもできる(そして楽しい!)

即興が「がんばって、何かうまいものを見せるもの」と考えると、できる人はごく一部に限られてしまう。しかし、インプロはがんばらなくていいものだし、失敗してもいいものだから、誰でもできるものである。

そしてなにより「楽しい!」のがインプロの最大の魅力だと思う。逆に言えば、もしインプロをやっていて楽しくなかったらそれはうまくいっていないと言える。

世界的に有名な演出家であるピーター・ブルックの言葉に

Play is play.(劇は遊び。)

というものがあるが、インプロはまさにそれを体現している。そもそも僕がインプロにハマったきっかけは「こんなに面白いものがあるのか!」というシンプルな驚きだった。

ここまで色々と書いてきたけれど、実際にはインプロを楽しんでいる中で自然と「がんばらない」ことだったり「失敗していい」ということを身につけていくのがインプロの理想的な学び方だと思う。そしてそうやって身につけた考え方は、普段の生活にも自然と活かされていく。


インプロは実際どうやって学んでいくのか

インプロは誰でもできるものだか、実際どうやって学んでいくかというと、「インプロゲーム」と呼ばれるゲームで学んでいくのが一般的である。

僕がやっているインプロは「インプロの父」と呼ばれるキース・ジョンストンが始めたものである。キース・ジョンストンは86歳になった今でもインプロを教えていて、そしていまだに「私はインプロの教え方が分からない」と言っている素敵なおじいちゃんである。

そのキース・ジョンストンは即興をする中での様々な問題(がんばってしまうとか、失敗を恐れてしまうとか)を解決するために、100以上のインプロゲームを開発した。

例えば「ワンワード」というゲームがある。これはひとりひとこと(1文節)ずつ話して物語を作っていくゲームである。ふたりでやると次のようになる。

昔々、/お城に/魔女が/住んでいた。/魔女は/王子様に/恋を/していた。/しかし、/魔女は/人々から/怖がられていたから、/姿を/隠していた。/ところがある日、/城に/盗賊が/入ってきた。/そして、/王子様は/盗賊に/囲まれて/しまった。/そこで/魔女は/……

といった具合である。ポイントは「ちゃんとやろう」とか「うまくやろう」としないことである。そうするとインプロをするのが苦しくなってしまう。もともと思い通りにいくわけないのだから「そんな中でも楽しもう」とするほうがいい物語を作るよりも大事なことだ。(そして逆説的だが、楽しんでやっているほうがいい物語が作れるのがインプロの面白いところである。)

人生は即興だから思い通りにいかないこともある。その時に怒ったり怖がったりするのではなく、それも楽しんで前に進んでいけるか。大きく言えばそんなことを学べるゲームである。そしてそれは俳優だろうと、教師だろうと、サラリーマンだろうと、主婦だろうと、誰にとっても重要なことだと思うのだ。


インプロの今とこれから

インプロはまだまだマイナージャンルだが、それでもここ最近明らかに流行の兆しを見せている。僕の実感として、ここ3年でインプロ人口は2倍くらいになっているのではないかと思う。このまま音楽におけるジャズのようにひとつのジャンルを築いていくのか、それとも一時的な盛り上がりで終わってしまうのか、インプロは今岐路に立たされているように思う。

人生は即興だから未来のことは分からないけれど、それでも僕はわりと楽観的な態度でいる。なぜならやっぱりインプロはいいものだからだ。

僕はインプロをやっているけれど、「インプロ最高!」と叫ぶような人間ではない。むしろ僕はもともと演劇はそれほど好きではなかったし(音楽のほうが好きだった)、即興することも好きではなかった(計画することが好きだった)。しかしそんな僕でも「インプロはいいものだなぁ」と思ってしまうくらい、インプロには魅力があるのだ。

それは僕のワークショップを受けた人の感想からも分かる。僕のワークショップを受けて、熱っぽく「こんな経験は初めてだ!」と言ってくれた人たちがたくさんいる。だから「メディアに取り上げられてドカンと一発」かどうかは分からないけれど、長期的に見ればインプロは確実に広がっていくだろうと思っている。そしていつか本当に「マツコの知らない世界」にインプロが登場するかもしれない(その時は僕を呼んでほしい)。

ここまで長々と書いてきたけれど、これでもインプロの魅力の1割も伝えられていないと思う。だから興味を持った人は僕のワークショップに来てみてほしい。また、全国各地へ出張ワークショップもしているので気軽に相談してほしい。いいものを一緒に広げていきましょう。どうぞよろしくお願いします。

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