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異文化になじむ上で大切なこと。フランスに暮らして

「私を変えたあの時、あの場所」

~Vol.10 フランス / パリ第7大学(当時)等

本コーナーでは、東京大学にゆかりのある先生方から海外経験談をお聞きし、紹介していきます。

今回は、寺田 寅彦先生にフランスで暮らされていた当時のご体験をお伺いしました。取り上げた場所については こちら から。

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学生時代にフランス留学、その後フランスで勤務へ

―1988年から2009年にかけて、フランスで過ごされています。当時のことをお教えください。

寺田先生: 1988年に初めてフランスに行ったときはまだ学部生で、1年間の留学のためでした。

帰国後、一度日本で就職し、離職後大学院に入り直して、修士号を取得し、博士後期課程に入ってから1994年にまたフランスに留学をしました。翌年1995年からは博士論文を準備しながらフランスで教員としてパリや地方の大学で働いたり、通訳として仕事をしていました。

博士号を取得したあとも、外国人の教員として大学やインターナショナルハイスクールで働いていました。


先入観を捨てることと、自分の考えを持つこと

―日本に戻られていた時期があったものの、長い時間をフランスで過ごされていたのですね。大変だった経験などはありましたか?

寺田先生: 外国での日常生活には慣れないことも多くあります。わたくしは初めての留学でホームステイをしたので洗濯までステイ先でしてもらえたのですが、「下着は2日か3日ごとに取り換えましょう」と言われて毎日ではないことに驚きました。それでも実践してみると乾燥した風土なのでまったく気にならず、それぞれの国で理にかなった日常生活があることを実感しました。

一方で滞在許可証の書換のように、毎年、何回も零下の戸外で何時間も待たされて、中に入っても毎回必要な書類が担当の人によって変わるという、フランス人も驚くような不合理なこともありました。


―寒い屋外で長時間待たされるとは、大変ですね…。海外生活でトラブルに遭ったとき、どのように乗り越えられましたか?

寺田先生: 矛盾するようですが、自分が持つ先入観を捨てることと、自分自身の考えを大事にすることの2つで困難は乗り越えられると思います。

フランスではスーパーのレジのおばさんにも「こんにちは」と言うのが常識ですが、日本ではそうではないからという固定観念でフランスでも挨拶もしないままだと、ただの偏屈な人と思われてしまいます。

一方で「自分はこう思う」という考えを持つことも大切です。他の人と話をして、自分の考えを成長させることで、自分の考えもより充実したものになり、困難に対応する知恵も湧いてくると思います。これが自分の考えを大事にするということです。


苦手だと思う人とも「話を」

―2つのことが大切なのですね。他にも大切にしていることや、トラブルを通じて学んだことがあれば教えてください。

寺田先生: 違う国や違う文化に接すると自分の考えとの違いのためにどうしてもトラブルが起こりがちです。ただ、そんなときでも、他の人と対話をして、自分が何を思っているのかを伝え、自分の正すべきところは正して、相手に理解してもらうべきところは理解してもらう努力が必要だということを学びました。そのために、自分が苦手だと思う人とも積極的に話をするようになりました。

また、外国人はどうしても弱い立場に立ってしまいがちですから、職場や社会で弱者になってしまいがちな人のことを十分に考えていきたいと強く思うようにもなりました。

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▲「盲導犬を数カ月育てるボランティア活動をしていました。写真は2枚とも、フランスで研究滞在をしていたときに撮影してもらったものです。この犬は今、立派な盲導犬として活躍しています」と寺田先生。1枚目:犬がまだ子犬だったとき。2枚目:犬が成長したとき。


日本の生活へ慣れるまでに一苦労

―その後、日本に戻られて、いかがでしたか?

寺田先生: 平成の日本をほとんど知らずに日本に戻ったため、帰国した当時は何をしても失敗ばかりでした。コンビニのおにぎりの包装の開け方からスマホの使い方まで何一つわからず、海外での体験が帰国後に生かされているとは言えませんでした。わたくしの周囲の人たちは忍耐を強いられてお気の毒だったと思います。

帰国当初は下着を取り換える頻度がフランス式だったので自分自身が気持ち悪い思いをしたこともありますし、フランスにいたときのようにスーパーでレジの人に「こんにちは!」と声をかけるので、近所のスーパーで有名人になってしまいました。

―フランスでの生活に慣れると、日本式に慣れるのは苦労するものなのですね。

寺田先生: ちなみに、食べ方が分からなかったコンビニのおにぎりは、包装を全部解体して、海苔を引き出しておにぎりを組み立て直して食べるということ2年近くしていたのですが、ある日、子どもが簡単に包みを取っているのを見て、ようやく楽に食べられるようになりました。外国では自分のことで手いっぱいになりがちですが、周囲を観察することも大切です。


他の人と「話し合う」ことを大切に

―おにぎり、楽に食べられるようになってよかったです! では最後に、留学したい!と思っている学生たちに、メッセージをいただけると幸いです。

寺田先生: 留学には楽しいことも、たいへんなこともあります。たいへんなときにただ悲しく思うだけではなく、自分が悲しく思っていることを他の人と話し合うことが大切です。必ずしも自分が考えているように理解してもらえないかもしれませんが、自分が変わったり周囲が理解したりするきっかけになります。勇気を出して心を開きましょう。

―ありがとうございました!


パリ大学(旧パリ第7・ディドロ大学)は、大学院総合文化研究科・教養学部後期課程、大学院人文社会系研究科・文学部または数理科学研究科に在籍する学生の派遣先として、留学プログラムへの参加者が募集されています(2023年度現在)。
募集の情報は こちら のサイトの「News」欄に掲載されます。
※2023年度は4月7日に募集を締め切っています。

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