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イラン テヘランへの留学。「想定外」も楽しめば新たな可能性につながる

私を変えたあの時、あの場所」

~Vol.18 イラン / テヘラン大学

本コーナーでは、東京大学にゆかりのある先生方から海外経験談をお聞きし、紹介していきます。

今回は、大塚 修先生に、イランに留学されていた当時のご体験をお伺いしました。取り上げた場所については こちら から。

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現地の環境や文化を知るために、留学を決意

——2008年にイランのテヘラン大学に留学されています。はじめに、留学のきっかけからお教えください。

大塚先生: 私は進振りで文学部の東洋史を選んで本郷に進学しましたが、そのときには、なんとなくイスラーム関係のことを勉強してみたいという気持ちくらいしかなく、具体的にこの国をやりたいなどの強い思いはありませんでした。結局、アラビア語とペルシア語を主に使って何ができるか考え、その中で最も興味を惹かれた、モンゴルに敗れた王朝ホラズムシャー朝という王朝に関する卒業論文を書いたのですが…。ただ、史料を読んで論文を書いているうちに、これでよいのかという思いが強くなってきまして。もちろん、言葉が完全に理解できていないということもあったわけですが、言葉がわかっても、現地の環境や文化的背景を知らないと理解できないことが多いわけです。それで、大学院に進学した後、これではいかんと、これから主に使うであろうペルシア語を公用語としているイランへの留学を決意しました。


「泊まるホテルがないから、道端でテント」も風物詩。イラン特有の正月休み

——研究のために留学先を決められたのですね。留学先で困難にぶつかってしまった体験などはありましたか?

大塚先生: イランではカルチャーショックの嵐でしたので、色々ありすぎて何をお話しすればよいのやら。うーん、では、今回はイランの正月休みの話をしましょう。

イランの公用暦は「ヒジュラ太陽暦」というとてもユニークな暦で、春分の日が元日になっています。それで、日本でいう正月休みがその頃にあるわけですが、それが曲者なのです。暦上では新年の行事が約2週間続く形になっていて、それだけでも長いのですが、その前後の週も何となく休みモードな感じなんです。例えば、大学の学事暦は暦通りになっているので、受入教員の授業は休講と言われていない以上は行かざるを得ないわけじゃないですか。ところが、行ってみると、他の学生は誰もおらず、先生には「お前、何しにきたんだ?」と聞かれる始末。何って、それは決まっているでしょ! この期間は、図書館なども閉まってしまうため、留学生の身としてはおよそ1カ月弱、手持ち無沙汰になってしまうわけです。


——予想外の事態! どう乗り越えたのか、お伺いしたいです。

大塚先生: こういうときは旅行に行くのが一番なのですが、この正月休みに多くのイラン人は帰省したり旅行したりするので、チケットも取れないしホテルも満杯になっていて、旅行するのも一苦労なんですね。ホテルがないので道端にテントを張って野営している家族が多いのも、この時期の風物詩です。ですので、国内はあきらめて、隣のトルコに行こうとテヘランからイスタンブル行きのバスに乗りました。ところが、みんな考えることは同じで、国境まで来ると出国待ちのバスで大渋滞、なんと「国境通過には2日かかる、バスを降りて待て」とのこと。「いやいや、どこで寝るんだよ」と周りを見渡してみたのですが、国境の建物は人であふれています。しかもみんな手慣れたもので、早速絨毯を広げて料理を始める家族もいたりと長期戦の構え。さすがにここで2日は厳しく、購入したバスのチケットを泣く泣く放棄し、そのまま歩いて国境を越えて、乗り合いタクシーに乗って近郊の町に移動する羽目になりました。

写真①

▲バーザルガーンの国境越え待ちのバスの車列


「想定外」を楽しめるマインドに変わっていった

——困難を通じて発見や成長につながったと思うことはありますか?

大塚先生: すみません、困難を乗り越えたというより、困難を乗り越えようとしてドツボにはまってしまったという話でした。ただ、こんな感じで万事が「想定外」の予定通りに進まない留学生活でしたので、当初はくたびれてしまうことも多かったのですが、徐々にあきらめの境地といいますか、逆に、その状況が楽しめるようになってきました。想定外の状況に直面した際に、その状況を利用して何ができるのかなどと考えるようになり、実際にそういったときの体験から得られたことも多かったです。また、ペルシア語の日常会話のスキルアップに役立ちました。想定外のことが起こるたびに強制的に新しい語彙を用いて対処しなければならなくなるわけですから。

写真②

▲真夏に訪れたビーシャープール(サーサーン朝のシャープール1世が建設した王宮都市の遺跡群)で暑さに耐えきれず、涼んでいるところ。「夏は本当に暑く、冬は本当に寒い」と大塚先生。


——海外での体験が、帰国後も活かされているということはありますか?

大塚先生: この留学で得たものがなければ、現在の私はないと思います。語学、収集した史資料、人脈、そして、何より日々の生活での体験、これらがなければ博士論文は書けませんでした。また、先ほどの「想定外」の話の続きになりますが、研究を進めていく中で、当初の想定通りに情報が出てこないということがしばしばあります。そんなとき、そこで断念してしまうのではなく、これを何か別の方法で料理できないか、などと考えながら、日々史料と向き合っています。実際に、目的の史料のついでに「たまたま」閲覧した史料が興味深かったので、その後分析を進めた結果、論文になったものもあります。ちなみに、この時の一番の目的だった史料の話はいまだに論文になっていません…。


留学は構えすぎず、「想定外」を楽しんで

——「たまたま」の出来事も、成果につながるかもしれないのですね。最後に、留学をしたいと考える学生にメッセージをお願いします!

大塚先生: 留学する目的は人それぞれだと思いますが、留学前からこれをやろうなどとあまり構えすぎなくてもよいかと思います。最初やろうと思っていたことが必ずしもうまくいくとは限りませんし、思ってもみなかった成果が得られることもあります。「想定外」を楽しみながら、留学生活を送ってみてもよいかもしれません。

留学は海外の文化を学ぶだけではなく、自分が生まれ育った国や自分を見つめ直すいい機会になります。日本でイランに興味を持っている人はあまりいないと思いますが、イランで日本に興味を持っている人は多く、イランの友人から日本に対する見解を聞かされたり、日本の文化について尋ねられるわけですが、こういう見方があるんだと色々気づかされました。

——ありがとうございました!


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