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非英語圏出身のハンディをどう埋めるか? イギリス留学時から続く試行錯誤
「私を変えたあの時、あの場所」
~Vol.17 イギリス / ケンブリッジ大学 ~
本コーナーでは、東京大学にゆかりのある先生方から海外経験談をお聞きし、紹介していきます。
今回は、馬路 智仁先生に、イギリス留学されていた当時のご体験をお伺いしました。取り上げた場所については こちら から。
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研究のためにイギリスへ。英語でも活躍できる研究者への道を
―2011年から2016年までイギリスで留学をされています。はじめに、留学のきっかけを教えてください。
馬路先生: 私はイギリスの政治思想史を研究していましたので、留学先としてイギリスを選択するのは自然な流れでした。やはり、当事国の政治・文化・環境に身を置くことが、その国の思想史を勉強する上で肝要だろうと考えていましたので。
また、将来的には日本語のみでなく英語でも不自由なく論文・著書を書いていける研究者になろうと考えていましたので、そのためのトレーニングをきちんと積めるよう、Ph.D.(博士号)は英語圏で取得しようと決めていました。
ケンブリッジ大学を選んだのは、自分の専門分野に合った研究者がいて、その方をsupervisor(指導教員)としてトレーニングを積みたいと思ったからです。彼とは色々メールのやり取りをする中で、コミュニケーションが取りやすそうだと感じたのも要因です。
英語ネイティヴに肩を並べられるよう、努力と創意工夫の日々
―研究のために渡航されたのですね。海外滞在中、たいへんだったエピソードなどはありますか?
馬路先生: 2011年秋からPhD student(博士課程正規生)として留学した際には、カルチャーショックを受けたとまでの経験はなかったように思います。
これには主に二つ要因があり、一つは、私にとってイギリスは、既に多少なりとも慣れ親しんでいた国であったことです。イギリスは私が初めて長期で海外に出た際に訪れた国(16歳のときのロンドンでのホームステイ)ですし、学部学生のときには1年間イギリスのエセックス大学に留学しています。大学院生になってからも、研究資料の調査などでたびたびイギリスを訪れていました。
二つ目に、PhD studentとして留学し、目標は優れた博士論文を書くということにありましたので、lifeの面にあまり関心が向いていませんでした。カルチャーショックがあったとしても、それをショックとして捉えず、受け流して意識しないでおこうというマインドだったのかもしれません。
もっとも、そうした勉学面において大変だった経験は数多あります。先ほど述べましたように、私はイギリスの政治思想史を研究しておりますので、現地に行けば同分野で切磋琢磨し、あるいは競争していかなければならない相手の多くは、イギリス人をはじめ英語圏出身の英語ネイティヴです(日本史や日本思想史の研究者の多くが日本人であるという状況を想像してもらえれば、わかりやすいかと思います)。私は英語ネイティヴでも、外国語が得意というほどでもありません。そのような中で、英語で膨大な数の資料を読みこなし、英語で論文を書き、研究者として認められるという状態に持っていくにはどうすればよいのか、悩みました。
―生活面より勉学面での悩みを持たれていたのですね。「研究者として認められる」ために、悩みをどう乗り越えられたのか、ぜひお聞きしたいです。
馬路先生: 乗り越えられてはいませんね(笑)。今でも、英語で読み書きする上での圧倒的なスピードのなさを痛感しながら、日々過ごしています。とはいえ、そうした差をただ嘆いていても何も生まれませんので、自分で考え、あるいは友人・同僚にアドヴァイスをもらいながら、さまざまな取り組みを試していく他ありません。
日々のトレーニングはもちろんのこと、たとえばカンフェレンス(学会)でのパネル報告の際、質問者の質問内容を上手く聞き取れなかったり、ディスカッションの中で自分の見解を切り出すタイミングが上手く掴めないときは、同時文字起こしのアプリを使用するなどテクノロジーの力を借りるのもありかと考え、それを試してみるといった取り組みなど。「ハンディ」を埋めるための試行錯誤は、現在も続いています。
もっとも、留学中は楽しみもたくさんありました。月並みですが、カンフェレンスでの研究報告のために、ヨーロッパやアメリカのさまざまな場所へ行くことになりますので、訪れた先で小旅行したり、現地の珍しいものを食べたり、などですね。また、留学した1年目の春に、ケンブリッジから、マンチェスターや湖水地方を経由して、スコットランドのグラスゴーまでドライヴしたことがありましたが、それも楽しかったですね。マンチェスターのとある駐車場で、柱に車を少しぶつけたときは焦りましたが(笑)。
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▲2012年8月Cam川で、友人とパンティング中に撮影
「競争」ではなく、「独自性」を重視するように
―留学中、トラブルを乗り越えてご自身が成長したと思うことはありますか?
馬路先生: このご質問にも、正直、直接的な応答はありません。さまざまな取り組みの中で成長や変化はしていると思いますが、一方で「ハンディ」に関する大変さは今も継続していますので。
あえて付け加えるとすれば、4年間半の留学、帰国後の日本の大学での勤務を経て、また年齢を重ねていくに伴って、自分の専門分野で英語ネイティヴと「競争」しないと、というマインドは徐々に薄れていっています。PhD studentの頃は、自分自身が研究者としてやっていけるのか、生き残っていけるのかという観念が先行し、自分と他人の能力や業績を比べがちでしたが、現在は、世界全体の研究潮流を見渡して、その中で自分は何が貢献できるか、何に独自性を発揮できるかを考えるというマインドに変わってきています。良かれ悪しかれ、自身の立ち位置をより相対的に、より客観的に見るようになってきた、ということかと思います。そうした変化への過程に、留学中における多様なバックグランドや人生観、研究観を持った友人・同僚との出会いがありますので、その意味でも留学はやはり自分にとっての欠かせないピースかなと思います。
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▲2013年9月 Pan-European Conference on International Relations で、ワルシャワ(ポーランド)に行った際に撮影
世界中から集まった人たちとの、貴重なネットワークができた
―帰国後も海外経験が活きていると思うことがありましたら、お教えください。
馬路先生: これも月並みな回答かもしれませんが、留学で得た最も大切なものは、多彩な友人・同僚とのネットワークです。ケンブリッジ大学には、その後研究者としてあるいはアカデミアの外で活躍する人が世界中から集まってきていますが、そのような人たちとともに学び、食事をし、遊び、一定のネットワークを持つことができました。それは自分の人生にとっての大きな宝物であり、帰国後も頼りにできる財産です。
たとえば2019年5月に、イギリスの友人・同僚、およびケンブリッジ大学でのsupervisorを招いて日本で国際カンフェレンスを開催しましたが、それもそのようなネットワークがあって初めて、スムーズに行い得たものでした(もちろん開催や報告にご尽力くださった他の多くの方々のおかげでもあります)。
余談ですが、そのカンフェレンスの後、招いた友人やsupervisorと箱根へ小旅行に行き、研究上の真面目な内容から、他愛もない話題まで語らいました。彼、彼女らが楽しんでいるのを見ると、やはりうれしいですね。
留学はあなたの人生を豊かにする
―最後に、留学や国際交流に興味のある学生にメッセージをお願いします!
馬路先生: 学部学生・大学院生を問わず学生の時期は(特に若い学生の場合は)、自分がやってみたいと感じることに、脇目も振らずに集中できる時期です。(もちろん個人によって異なるでしょうが、相対的に)体力もありますし、社会的な「しがらみ」も多くありません。今は想像できないかもしれませんが、残念ながら年齢を重ねると徐々に体力や集中力が衰え、また他に優先しなければいけない事柄が多くなり、そうした時間の不足を経験で補うという機会が増えてきます。
したがって、「いつでもできる」というわけでは決してありません。留学も然りです。時間と体力があり、大学や周りのサポートが多く得られる今の時期に、機会があり、その希望があるのならば、迷うことなく留学するのが良いと思います。留学先で何を経験し、何を得るかは十人十色ですが、それがあなたの人生を豊かなものにすることは間違いありません。
―ありがとうございました!
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