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対等な議論で生まれるイノベーション。オーストラリアの研究所にて

「私を変えたあの時、あの場所」

~Vol.32 オーストラリア/オーストラリア国立大学 地球科学研究所

東京大学の先生方から海外経験談をお聞きし、紹介する本コーナー。

今回は、横山 祐典先生に、オーストラリアでの留学当時のご体験をお伺いしました。取り上げた場所については こちら から。

権威ある地球科学研究所へ

――1995年から5年ほどオーストラリアに留学をされています。留学の経緯からお教えください。

横山先生: 大学院に入学して博士号を習得するために渡豪しました。中学時代のアメリカでの経験から、いずれ海外でという思いでいました。渡航先は英語圏を考え、オーストラリア国立大学(ANU)の地球科学研究所(RSES)は世界的に見て地球科学のトップ5に数えられる研究機関だったこともあり挑戦しました。


教員も学生も対等に議論することで生まれるイノベーション

――留学のあいだで、印象的だった出来事はどんなことでしたか?

横山先生: 教員や学生といった立場の違いと関係なく対等に議論し、アイデアが良ければ積極的に評価・採用されることをとても新鮮に感じました。私は新たな真空装置を考案し、企画書を委員会に提出、最終的に教授会で認可後に予算を獲得することができました。その後、大学内にある工場のような"ワークショップ"で技術者と一緒に組み立てました。

当初は失敗もあったものの、最終的に重要な実験結果を生み出す装置となりました。大学院生の企画書も吸い上げ、スタート時の失敗にも継続してサポートする体制を持つことでイノベーションが生まれる現場を体験することができました。また、オンリーワンを生み出すために、意見の交換を行う場での機会均等の重要性についての意識を持つようになったのもこのような経験の積み重ねからです。


――立場の違いを超えて意見交換を行うことの重要性に気づかれた、ということですね。気づきを経て、何かご自身の変化などはありましたか?

横山先生: 新しいアイデアが浮かんだときに、周りの人たちと積極的に議論し改良を重ねていくことが、結果的に成功につながるのだという意識を持つようになりました。そのために、学内での立場の上下に関わりなく、フラットな意見交換ができるような環境を整え、既存の考え方と異なる方向性を生み出す素地を作ることが重要であると考えるようになりました。これらが生み出す正のフィードバック効果が、自分のプロジェクトの成功のみならず、チーム全体に好影響を与えるため、それを達成するべく行動するようになりました。

実験室にて撮影。


議論の中で見えてきた、自分自身の立ち位置

――意見交換や新たな考え方がいい影響をもたらすのですね。他にも、海外に出て「得られた」と思う発見や気づきがあれば教えてください。

横山先生: 多くの人たちと知り合い、話をする中で、個人やある限られた集合を超えて協働することで、想定を遥かに上回る成果を得られることがわかりました。1+1 が2ではなく、2人以上で議論することが、指数関数的なプラスの効果をもたらす現場を多く見ることができたため、ネットワークがもたらす重要性を考えるようになりました。

また、海外の人たちとの議論の中で、自分の立ち位置についても意識をすることが肝要だと感じました。例えば、時事問題や文化そして歴史などを議論する中で、自分の考えについてしっかりと語ることを求められる機会が多かったように感じます。その結果、日本についてより多くのことを知りたいと思うようになりました。国際交流や多文化交流は実は自らのことを知ることと密接につながっていると感じます。


南向きの日当たりの悪い部屋、さかさまのオリオン座…「南半球」を体感

――なるほど、多くの対話が大きな成果を生み、同時に、自分自身の考えを明瞭にすることにつながるのですね。ここまで研究シーンでのお話をお伺いしましたが、日常的な場面でのエピソードもありましたらお聞きしたいです。

横山先生: 私が最初に住んだ学生寮は南向きの部屋でした。これは良い部屋だと喜んで引っ越したのですが、1日過ごしてみると全く陽が当たらない部屋で南半球であることを実感したことを覚えています。その夜にオリオン座がひっくり返っているのを目の当たりにし、知識としてはわかっていても無意識のうちにそれと現実とを結びつけることにギャップが存在していることを認識しました。

また、最初に入国したときは、安い航空券でオーストラリアに入りました。そのため、シドニー空港からキャンベラには長距離バスで移動することにしました。飛行機が着陸し、入国手続きを終え、空港ターミナルでバス乗り場を探しました。しかし"バス"の文字が全く見当たりません。困った挙句、空港職員に尋ねたところ、空港ターミナルの端にある場所を教えてくれました。そこは"Coach"乗り場。野球やサッカーの"コーチ"ではなく、長距離バスはコーチと呼ぶことをそこで初めて知りました。


――南半球ならではのエピソード! バスではなく"Coach"なのも初めて知りました……。

横山先生: 友人たちとのキャンプでは、あまりに夜空が綺麗だったのでテントの外で寝袋にくるまって眺めていました。いつの間にか眠ってしまったのですが、背中から伝わるドンドンというリズミカルな振動で目が覚めました。すると10頭以上のカンガルーたちが周りを飛び跳ねていました。月明かりの中で飛び跳ねる姿は、あたかも彼らが月夜を祝っているような光景でした。

研究の合間にスポーツも。所属していたハンドボールチームのコーチと撮影。コーチは旧ユーゴスラビアから内戦のために移民してきた元プロ選手だったそう(許可を得ていないためモザイクをかけています)。


さまざまな考え方を帰国後も大切に

――カンガルーのお話、神秘的ですね。では話は変わりますが、海外体験が帰国後も活かされているなと思うことについてお聞かせください。

横山先生: 物事には一つだけではなく複数の捉え方があるという視点を持つことができたことです。考え方や感じ方には多様性があり、それぞれのバックグラウンドによってさまざまな結論が出てくることが、海外では肌感覚で感じることができました。また、自分自身がいわゆるマイノリティだった経験を振り返り、そのときにやってもらってうれしかったことはできるだけ自分でもやっていけるように心がけて過ごしています。


――海外に行って得られた「肌感覚」を帰国後も大切にされているのですね。最後に、これから留学や国際交流をしたいと思っている学生へ、メッセージをお願いします!

横山先生: 自らのコンフォートゾーンから少しだけ飛び出してみることで、見えることが大きく変わってきます。オーストラリアの後にはカリフォルニアに移動したのですが、場所を変え、国を変えることで色々と大変なこともあります。しかし、それら一つ一つが後々役に立つ経験になります。チャンスはたくさん周りに転がっているので、それを掴んで挑戦するかどうかは自分次第です。その一歩を踏み出そうとしている皆さん、頑張ってそして楽しんでください。

――ありがとうございました!


オーストラリア国立大学(ANU)は東京大学の協定校です(記事掲載時現在)。留学情報は こちら から。

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