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ゼロカーボンを目指す地域と技術をつなぐ情報基盤の構築

mdxを利用した研究の紹介1
ゼロカーボンを目指す地域と技術をつなぐ情報基盤の構築

東京大学総括プロジェクト機構「プラチナ社会」総括寄付講座 特任講師 兼松祐一郎

自治体の悩み

 気候変動への対応が急がれる中、日本でも総人口の9割近くにあたる自治体が「2050年までに二酸化炭素排出実質ゼロ」を表明しています。しかし、実現のための具体的な施策や計画を策定している自治体は多くありません。その大きな理由として、新しい技術や仕組みの導入が必要なことはわかっていても、技術へのアクセスや評価が難しいことがあげられます。そこで私たちは、技術導入を支援する情報基盤を構築しようと考えました。まだ、開発は始まったばかりですが、その構想と研究の現状をご紹介しましょう。

必要なツールとデータを1ヵ所に

 この情報基盤「RE-CODE」は、自治体にとっては地域の実情に合った技術を発見・評価できる場、企業にとっては技術を普及させる場となることを目指しています。そのために、①需給分析、②オプション生成、③シミュレーション、④評価のそれぞれを行うツールを搭載するとともに、必要なデータを集積する計画です(図)。
 ①は、地域資源の需給状況の把握と将来予測をする段階です。ここではオープンデータを活用できますが、各省庁や地域に分散していて探すのも集めるのもたいへんです。そこで、データを統合・可視化して一目で把握できるツールをつくりました。すでに一部のデータは公開しており、データの拡充も進めています。
 この需給分析で、例えば、「この地域はバイオマス資源に強みがある」とわかったとしましょう。すると次は、バイオマスをエネルギーや製品に変換するための技術オプションを探す②の段階になります。これを支援するのが技術マッチングツールです。
 ③のシミュレーションでは、②で見つかった各技術を導入したときの物質とエネルギーのフローを推算します。それを計算するためのツールとして、さまざまなシミュレータを開発しています。
 最後の④は、ライフサイクル評価や社会経済性評価です。③で得たフローの推算結果と既存の評価用データベースを組み合わせることで、各技術が環境と経済に与える影響を評価します。

地域と技術を繋ぎ実装を加速する情報基盤(RE-CODE)の構想

mdxの特徴が生きる研究課題

 まずは、RE-CODEの一部をmdxに移植し、その後、ツールやデータを拡充していきます。mdxは、RE-CODEのコンセプトと相性のよいプラットフォームだと思います。例えば、②の技術マッチングと③のシミュレーションには地域や企業から提供いただく情報も使いますが、そのとき、mdxでデータを秘匿化しながら間接的に参照する仕組みとすることで、安心してデータ提供に協力していただけると思います。また、シミュレーションには大量の計算が必要なので、mdxの豊富な計算資源にも期待しています。
 このような情報基盤を実現したいという思いは数年前から抱いていましたが、2022年度から東京大学で始まった「ビヨンド・“ゼロカーボン”を目指す“Co-JUNKAN”プラットフォーム研究拠点」というプロジェクト内の研究開発課題の1つとなったことで、本格的に研究できるようになり、張り切っているところです。プロジェクト内の他のチームが行っている技術の実証実験や、人材育成などの課題とも協働することで、RE-CODEを地域と技術をつなぐ場として発展させていきたいと思っています。

(取材・構成 青山聖子)

兼松祐一郎/専門はプロセスシステム工学、ライフサイクル工学。東京大学大学院工学系研究科修士課程修了。博士(工学)。株式会社菱化システムに勤務後、東京大学総括プロジェクト機構「プラチナ社会」総括寄付講座 学術支援専門職員、特任助教を経て、2022年より現職。

深く学ぶには
「ビヨンド・“ゼロカーボン”を目指す“Co-JUNKAN”プラットフォーム研究拠点」は、JST共創の場形成支援プログラムの一拠点(JPMJPF2003)。技・知・人を産学公で循環させるプラットフォームを実装し、地域がゼロカーボンの先を見据えて持続的発展を目指せる社会の実現につなげる。
https://coinext.ifi.u-tokyo.ac.jp/index.html

Contents
巻頭言
特集 データ活用社会創成プラットフォームmdx 始動
  ゼロカーボンを目指す地域と技術をつなぐ情報基盤の構築
  オープンデータから日本全国の人流をつくりだす
  医学分野の論文から日本語言語モデルを構築する
連載 nodesの光明
  情報システム利用者の「困った!」を解決
   ──教育のオンライン化に貢献する学生サポーターたち
連載 飛翔するnodes
  大型データから解き明かす土星衛星の大気環境
nodesのひろがり
  
プロジェクト md“X”
  スパコン導入の舞台裏
  0と1で超巨大システムを操る
  モノとその繋がりの科学

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