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【ダイヤルアップ探偵団】第3回 バーチャルYouTuberに思い出すこと

90年代末から今世紀初頭にかけて、ブロードバンドインターネットが普及する前夜の「ネット文化」に注目する連載。第3回のテーマは、最新の流行である「バーチャルYouTuber」と、全然最新じゃない「バーチャルネットアイドル」について。

●本稿は、2018年4月に刊行された「懐かしパーフェクトガイド Vol.3」(ダイアプレス) https://www.amazon.co.jp/dp/B07NRZ4HMY/ 掲載するため製作したものです。noteへの掲載にあたり、改稿・再編集を行っています。

 ブロードバンド時代の覇者である動画サイト、YouTubeの名を知らないインターネットユーザーはいない。YouTubeに顔出しで登場する動画投稿者は「ユーチューバー」と呼ばれており、スマホ世代の子どもたちの間では、「ヒカキン」のような売れっ子の知名度はテレビタレントを上回るという。

 言ってしまえば彼らはただの〝素人〟なのだが、それが独特の親近感を醸し出しており、子どもにウケる大きな理由となっている。思い返せば80〜90年代にも、高橋名人やミニ4ファイター、トランセル種市といった〝素人〟出身の人物が子どもたちの人気者になっていたわけだから、30年前から変わらない営みなのかもしれない。

 ところでこのユーチューバーの世界に、昨年末から大きな動きが加わった。3Dポリゴンの美少女として登場する「バーチャルユーチューバー」、略して「Vチューバー」の登場である。

 Vチューバーの代表格は、キズナ・アイ、ミライアカリ、輝夜月、「バーチャルのじゃロリ狐娘」など。たとえばキズナ・アイは「人工知能」を自称して動画に登場するが、実際には女優の演技を3Dモデルでトレースしているだけで、厳密な意味での人工知能ではない。「のじゃロリ狐娘」に至っては、中年男性が高い声で演じている。

 これが深夜アニメのファン層を中心にヒットし、にわかに活況を呈している。ゲーム実況や視聴者の質問に答えるなど、やっていることは普通のユーチューバーと大差ないのだが、「人工知能」などの設定を守りながら会話する〝作り物〟感が支持を受けているようだ。

元祖にして最大のVNI、ちゆ12歳

 さて、本稿のテーマであるナローバンドの時代にも「バーチャル少女」の流行があったことを、読者諸賢は覚えておいでだろうか。「ちゆ12歳」に始まる「バーチャルネットアイドル(VNI)」ブームである。それぞれが「バーチャル少女」であることを標榜していたが、実態としては、男性を中心とする投稿者が、美少女イラストを使って好き勝手に日記を書いているだけのものだった。

 「ちゆ12歳」は、2001年2月に登場した、大きな瞳がチャーミングな元祖VNI。12歳の少女とはまるで思えないようなサブカル知識と毒舌の文体で一世を風靡し、その後数年間にわたり「ちゆ」を模倣するサイトが続出した。また、今年2月には「Vチューバーデビュー」を宣言し、ナローバンド当時からのネットユーザーたちを騒然とさせた。

 ブームが終焉し、他のVNIが次々と「404」になっていくなか、「ちゆ」は頻度を落としつつも、ボリュームのある記事の配信を続けている。宗教やマンガに関する、舌を巻くほどの詳しい記事の数々についてちゆ嬢本人にメールで尋ねてみたところ、「1回の更新に要する期間は、3日から半年程度」とのことで、やはり内容によって幅があるようだ。

 ちなみに、「〝ちゆ本〟の出版に際して印税はどんな名義で受け取ったか」とか、「女の子のガワを使うことで、文章を書いていてどのような変化があるか」といったような質問には、回答がいただけなかった。ここでも「ちゆ12歳」は、バーチャルな少女として健在である。

〝萌え〟と政治の奇妙なバランス

 一躍人気サイトになった「ちゆ」だが、その大きな理由は、前述した通り〝毒舌〟にあった。この姿勢は時事評論でも一貫しており、萌え絵の少女が政治家や大新聞を刺すさまは、当時の読者にとって新鮮だった。後発のVNIもこの芸風を模倣し、主に左派層に舌鋒鋭い攻撃を浴びせていたが、一連の流れを「冷笑系」と呼ぶ評論家もいる。

 ここで生まれた「萌えキャラを看板にしつつ世の中に物申す」という流行は、時を経て、「冷笑」ともまた違う、極端な変化を遂げた。

 たとえば2011年創刊の青林堂『ジャパニズム』は、排外主義的な見出しの並ぶ右派の評論誌でありながら、毎号、美少女イラストを表紙に掲載している。ここに至っては、「ちゆ」をはじめとするVNIのあずかり知るところでもないだろうが。

 翻って現代のVチューバーの場合、「ファックユー」程度の憎まれ口を叩くことはあっても、政治や社会への言及はさほど多くない。VNIが個人ベースで運営されていたのに対し、Vチューバーのバックには企業がいるため慎重なのではないか、といった想像もできるが、今後どうなるかは未知数だ。

あの頃のネットには、バーチャル少女しかいなかった

 ところで、VNIが大きなブームを巻き起こした当時、平均的な男性ネットユーザーの観測範囲において「ネットで活動する女性」というのは圧倒的に少なかった。

 当時はまだ「ブログ」が発達しておらず、Webページの開設には知識が必要だったのも理由のひとつだろう。「ネットアイドル」という言葉こそあったものの、盛んに活動していたのは極めて少数。VNIが盛り上がったのは、そんな華のない環境とも無関係ではなかったはずだ。

 対して「ニコ生」の流行以降は、実在する10代の女の子たちが盛んに〝顔出し配信〟を行うようになった。そんな時代にあっても、作り物感を全面に出したVチューバーが人気を博すというのは、よくよく考えてみれば不思議なものである。

 バーチャル少女たちの動画が面白く可愛くできているのはもちろんだが、「コンテンツとして楽しむ」のなら、生身の少女でないほうが都合がいいこともあるのだろう。

 末筆ながら、小欄はVチューバー・ちゆを応援しています。

第3回プロフィール

著者■ジャンヤー宇都
ミライマックラでキズナ・ナイな、インターネット中毒の独身男性。現実も世知辛いけど、ネットはもっと世知辛いのじゃ〜。画像は任天堂のアプリ「miitomo」で作成。

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