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【読書】『降霊会の夜』~静かな日に読む~

 著者、浅田次郎の『降霊会の夜』です。

 初老の男性主人公が、雷雨の日、庭に迷い込んだ女性に一夜の宿を貸したことからはじまりました。

 女性の名前は、梓といいます。女性の名前には珍しい、何か理由はあるのかとほのめかす主人公に、祖父が口寄せをしていたと答えます。女性は、梓巫女として家を継ぐよう育てられていたそうです。

 女性は、一夜の宿を借りた恩返しに、知り合いのミセス・ジョーンズを紹介すると提案しました。降霊会を行う主人です。

 ひとは、生きていれば、何かしら心残りや罪悪感をもつようになります。もう、忘れ切った出来事でさえ、ただ忘れているだけ。深い記憶の底で救いを求めているかもしれません。

 主人公にも、生きる上で抱えた痛みや苦しみがありますが、そのなかでも、特に強く残る苦しみを降霊会で明らかにしていきます。

 主人公の視点からみた、当時の状況。呼び出された霊からみた当時の状況が語られていきます。霊はなにも亡くなった方ばかりとは限りません。まだ、生きていても生霊としてやってくる場合があります。

 多くの場合は、ゲストが心に思い描いた人物を呼び出すようですが、ときに、招いてはいなくても、関係の深い霊が呼び出されることもあります。

 そして、必ず、願った人物を呼び出せるわけではありません。

 ミセス・ジョーンズの降霊会は、過去を振り返りながら、霊と交流し、互いに癒し合う場のようです。

 最初は、主人公が子どものころに親しかった友人が登場します。戦争が終わり、急いで復興しようと日本が働いていたときです。戦後の混乱がおさまり始め、そろそろ秩序ができるかという時代。うまく、時流に乗れた者と乗れなかった者。戦後の混乱期に取り残されてしまった家族のお話が出てきます。

 次は、主人公が学生であったころ。学生運動が盛んで、大学で勉強をすることもなく仲間と一緒に過ごしていたころ。主人公の恋愛事情がでてきます。学生時代に付き合っていたある女性。その女性は今も生きているのか。ミセス・ジョーンズに尋ねます。

 ラストは、不思議な雰囲気で終わるがゆえに、すべては夢だったと言いたくなるような終わり方でした。静かに物思いにふけたくなるような物語です。

 今日は雨は降らないものの、今にも降りそうなお天気でした。気温も低く肌寒い1日です。どんよりとした曇り空の下、静かに読み進めていきました。

 


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