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クロスオーバー〜ある魚のお話し〜



ある一定の期間にだけ
交わる関係というものがある。

わたしが彼女たちの
彼女たちがわたしの
人生の1ページになる。

それは人生の交差点のようで
一瞬の交わりなのだけれど
その一瞬が大変に親密なので
一瞬が永遠になってしまう。

ひどく懐かしい人たち。

あの日のあの私たちでなければ
一瞬が永遠になることはなかった
そう想える記憶たち。

中学二年生のときの英語の先生は
左目がいつも充血していた。

彼女は泳ぎの下手な魚みたいだった。
他の魚たちに尾鰭をぼろぼろに
されているようにみえた。

私のクラスの担当ではなかったから
彼女の授業を受けたことはない。
けれど私は彼女のことが好きだった。
好きだったから窮屈そうにしている
彼女の姿が耐えられなかった。

ある夏の日から
私たちはメールのやり取りをはじめた。
もちろん、そのことは誰にも言わなかった。
私たちはほぼ毎日メールを送り合った。

英語の発音がネイティブ並みなために
同僚の先生たちと距離があるとか
(なんてこと!今では信じられない)

教師は向いてないとおもっているとか
遠距離恋愛中の外国人の彼氏がいるとか

おおよそ14歳に話すような
内容ではないことが
メールには書かれていた。

私はただ彼女からのメッセージを
丁寧に読むことしか出来なかった。

そんなある日のこと。
彼女は学校を辞めた。

あの日の晴れやかな顔を
いまもはっきりと記憶している。

自分を取り戻したような
そんな顔だった。

「ありがとう、おかげで決心がついた。」
そう言ってハグしてくれた。

左目は白く澄んでいて
アイラインが目尻で
踊るように跳ねていた。

その後も何度かメールのやり取りを重ねていたがいつの間にか色々なものに埋もれてしまった。

彼女が外国の彼の元へ行ったのかどうかも
不思議なことに忘れてしまった。

確かに覚えているのは
充血の治った目と晴れやかな笑顔
悠々と泳ぐ美しい姿。




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