紙人形をくれたおばあさんへ
いくつの頃だったろう。家の近くに「ぞうさん公園」という公園があって、そこで出会った知らないおばあさんが、ときどき、私たちに紙人形をくれるようになりました。私たちというのは、私と、私より三つ年上の姉です。おばあさんの名前は知りません。おばあさんも、私たちの名前を知りません。
紙人形は、千代紙で折られた日本人形です。楊枝を軸に千代紙を巻いていくので、楊枝人形ともいうそうです。楊枝の部分は首になり、そこにまるで着物を着せるように、和紙を折り加えていきます。千代紙の花や鞠の柄は、美しい着物の柄となるのです。
(↓ こんな感じです。フリー素材からお借りしました!)
私たちは、おばあさんからもらった紙人形をよく観察して、自分たちで作ったりもしました。そのため、家にはたくさんの千代紙が増えました。実際に人形として遊ぶのではなく、たいてい、しおりとして使っていました。おばあさんのように上手には作れませんが、私も少し大きめの紙人形をいくつか作ったのを覚えています。
姉は、知らないおばあさんがくれたんだと、紙人形のことを母に話しました。すると母は、
「それじゃあ今度、お礼にクッキーをあげましょう」
と言いました。母は「卵の会」という料理教室に通っていて、クッキーやマドレーヌを覚えてきては、よく私たちに作ってくれていたのです。ちなみに、母はもともとプレゼントが好きです。お歳暮には、ピアノの先生にはカボチャのパイ、アトリエの先生にはピザを贈った記憶があります。
さて、おばあさんにはクッキーです!クッキーの包みには、ピンクのリボンを丁寧に結びました。
私と姉は「ぞうさん公園」でおばあさんを待っていました。実はあの頃、私はおばあさんの顔をよく覚えていなかったのです。子どもが大人の顔をよく覚えていないというのはあるそうで、あるテレビの実験では、母親の髪型が変わると、子どもは自分の母親がわからなくなってしまうというのを見たことがあります。私も同じでした。
おばあさんがやって来ました。おばあさんは一人ではなく、おばあさんの友だち2人と一緒に歩いていました。姉は私に、
「あのおばあさんだよね」
と言いました。私はよくわからないまま、そうだと言いました。
2人でおばあさんに走り寄りました。姉が、お母さんからだとクッキーの包みを渡すと、
「あらあ~」
おばあさんと、おばあさんの友だちは、声をあげて一緒に驚きました。おばあさんはとても嬉しそうで、ちょっと恥ずかしそうでした。
おばあさん、あの頃は本当にありがとう。今の社会では、こういう交流も少なくなってきてしまったから、あの頃くれた紙人形はとても貴重な思い出なんです。
紙人形は、遊び過ぎてクタクタになり、もう手元にはないけれど、思い出は今もずっと私のなかに残っています。すごく温かいです。だから本当に、ありがとう。
(おしまい)
※ 紙人形は、折り紙人形、爪楊枝人形ともいいます。以下もどうぞご参考くださいね!
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