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花が咲くまでは長い。自分を守って、芸術を守って、誠の花を咲かせよう。『風姿花伝』より

興行業の自粛が続き、改めて芸術の価値を問う機会が増えました。私ができることとして、まずは「芸術の価値」とはそもそも何がどう「価値」なの?というところを伝えたいと思います。

『風姿花伝』という室町時代にできた芸能の奥義書をご紹介します。芸能のみならず、多くに通じる奥義です。

『風姿花伝』に伝わる「時分の花」「誠の花」


芸能の価値を日本人らしく表現していて、深く感動したのが、世阿弥の『風姿花伝』です。世阿弥とは、室町時代の能役者です。そして『風姿花伝』とは、その世阿弥が書いた芸術評論書です。これを読むと、芸が定まり、花が咲くまでは本当に長い時間がかかるのだなと知ることができます。

『風姿花伝』には、「時分の花」「誠の花」という言葉が出てきます。

「時分の花」とは、いわゆる若いときの”華”です。ここで人気が出ても、これが「誠の花」(本当の花)だと思い込んだりせずに、得意なところを見せ場にして、型もきちんと守って、稽古しなさいねと伝えられています。

なぜなら、「時分の花」はいったん散るのです。ここは踏ん張りどころ。一度はへこたれるのだけれども、それでも芸能を捨てずに、稽古し、精進し続けていけば、だんだんと芸が定まっていくよと伝えています。

そして、次第に芸能が定まり「誠の花」が咲くときとは、こんな様子だったそうです。

世阿弥の父である観阿弥は、52歳で亡くなったそうですが、その年の4月のこと。神社で奉納する能を舞った姿は、とても華やかで、見物人たちみんなが褒めたそうです。世阿弥は、それが本当の花だったと言います。

「誠の花」を得れば、枝葉も少ない老木になってもなお、花は散らずに残っているんだ。ちょうど目の前の老骨に残った花、それが証拠だよ。世阿弥はそのように伝えています。

(参考文献:世阿弥著 / 野上豊一郎・西尾実校訂『風姿花伝』岩波文庫 2000年)

花が咲くまでは時間がかかる

誠の芸能・芸術とは、花が咲くまでに、それだけの歳月を必要とします。精進は一生涯です。でもそれは、気が遠くなるような苦しみというより、花を咲かせようとする人間にぴったり寄り添っていて、優しい愛に満ちた自然愛だと私は思っています。

私は、この感動で十分、芸能の価値が伝わると思いますし、芸術家に対して敬意を表さずにはいられませんが、時代も変わりました。多様性が生まれ、ネットの普及で、才能もボーダレスに表現できるようになった社会においては、芸能単体でただ「価値」を伝えても、押しつけにも感じられてしまいます。人間ですから、みんな自分のこと、自分の畑が大事。簡単には振り向いてもらえないというのが現実です。

以前、こんな記事も書きました。

私は、これからのアーティストには、どんどん社会を先見してもらいたいと思っています。なぜなら、アートのことはアーティストがプロだからです。政治家ではないのです。

だから、社会を知って、変革に参加して欲しい。そうして変革し、先見し、次なる社会を迎え入れるためには、何が必要か?どんな政策?何を導入?考え準備をして欲しい。その準備こそがセーフティとなり、結局は、芸術を廃れさせないこと(自分が生きる場所を守ること)に繋がるんです。

誠の花が咲くまでは、長いです。だから、細くてもいい、長く生き延びて欲しいです。そして最後には、あなたの花を私たちに見せてください。

素敵な時間をあなたと過ごせて嬉しいです。サポートどうぞよろしくお願いいたします♪