#詩
胡散臭い所帯 【超短編】
おれの持論は、恋愛は一夜の芝居だってことだ。最高のいい男といい女を演じきって最高の舞台にするんだ。それなのに、なぜかアイツとは楽屋でいっしょに暮らそうなんて気分になっちまったんだよな。だからせめて胡散臭い所帯に見えるように気取ってるんだ。長い芝居になったもんだぜ。
魔法使いの不満 【超短編】
入手の困難が満足感を高める。だから人類は不満が大切で大切でしようがない。不満を抱きしめて暮らすことが希望の綱だ。そして不可能な理想にこそラブコールだ。不満が好きな人類のためにこの世はお誂え向きにできている。われわれ魔法使いがめったに呼ばれなくなったのも道理だ。
都合の良い口実 【超短編】
「人間は破壊の陶酔にとても弱いのです。どこかで破壊に走る口実を望んでいます。誰かによそ者、敵というレッテルを貼れれば遠慮なく走り出せます」
老人は運命を覚悟した表情で続けた。
「あなたはとても都合の良い口実を見つけたのです。相手がどんな人か、品定めの必要すらない口実を」
空色の心臓 【超短編】
今のぼくの心臓は露草の空色をしているんだと真顔で言う少年は白いシャツの襟をはだけて襟より一層白く見える胸に右手の細長い華奢な指を挿し入れてふうと一つため息をつくと二重瞼の眼を瞑った。私は教壇にあった自分のハンドバッグから口紅を取り出して彼の唇に化粧を施し始めた。