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【書評】サッカー戦術本「戦術脳を鍛える最先端トレーニングの教科書」の解説と所感 Vol.1

溢れ返った情報に目が眩み、どれを選択すれば良いのか分からなくなる

選択したとしても、それが緻密に、詳細に記してなかったとすれば、また暗闇に手を伸ばさないといけない

昨今、書店のサッカー本コーナーでも、現場でも溢れ返ってる言葉がある

「戦術的ピリオダイゼーション」

しかし、上記のトレーニング理論を完璧且つ具体的に説明できる人はどれくらいいるのだろうか?

本書では「戦術的ピリオダイゼーション」を具体的に、分かりやすく落とし込んでいる

他の書籍では見れない、具体的なトレーニング方法や、チーム原則まで細かく記されているのだ

さあ、戦術的ピリオダイゼーションの真髄を解説していこう

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戦術的ピリオダイゼーションの正体

本書では一言で言えばと前置きした上で以下のように記している

「サッカーチームを複雑系として捉え、システムを全体として包括的にマネジメントするためのトレーニングメソッド」

この理論はポルト大学のビトール・フラーデ教授が40年ほど前に考案したものであり、近年注目されているのは、現ローマ監督のジョゼ・モウリーニョが自身の用いるトレーニング理論として紹介したことをきっかけに世界から注目を集めることになった

「戦術的」と「ピリオダイゼーション」は二つの言葉を合体させてできた言葉であり、それぞれ分解して理解する必要がある

ピリオダイゼーション→期分けの意味で時期によって内容を区別することで効率良くトレーニングを行う為の方法論である
戦術的→「サッカー的な」という意味であり、「相手と戦う術」という本来の意味での"戦術"とは区別する

従来のピリオダイゼーションは、フィジカル面の管理のみを目的としている為、戦術的と付けるのはそれへのアンチテーゼ的な意味合いが強いように感じる

戦術的ピリオダイゼーションは大別すると3つの要素に分けられる

①システム思考や複雑系科学に基づいてサッカーを捉える(考え方)

②ゲームモデルやプレー原則といった意思決定基準の設定(ゲームモデル)

③トレーニングの原則を用いて規定された方法論(トレーニングメソッド)

先ずは①システム思考や複雑系科学に基づいてサッカーを捉える(考え方)を解説していこう

サッカーはサッカーでしかうまくならない

戦術的ピリオダイゼーションでは、どのようなトレーニングであっても実際のサッカーと同じように攻守の切り替えがあり、ゴールといった要素を含んでいることが望ましい

サッカーではどんな場面であっても必ず「意思決定」が伴っている

どのプレーを選択するか?パスかドリブルか?どこにパスを出すか?

味方のポジショニングはどうか?相手はどこを守っているか?

時間帯、スコア、ピッチ状態によって自分のプレーはどのような影響を受けるか?

など、選手が行う意思決定には必ず自分の周囲、環境との相互作用が規約条件として関わってくるのだ

例えば、パスだけ、シュートだけというような切り離したトレーニングは好ましくない

なぜなら、環境との相互作用が存在しないトレーニングを行うと、実際の試合のリアリティが欠けた状態になってしまうからだ

その為、戦術的ピリオダイゼーションでは、サッカーを構成する要素が包括的に含まれていることが推奨されている

続いて②ゲームモデルやプレー原則といった意思決定基準の設定(ゲームモデル)を解説していこう

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ゲームモデル・プレー原則とは

言葉を分解して考えると、理解に繋がると思う

ゲーム:試合

モデル:模型

ゲームモデルは、試合模型と文字通り表すことができる

ではその試合模型を分かりやすく考えると以下のようになる

「自分たちが実際に行うサッカーのやり方を示す意思決定基準」

そしてこの意思決定は基準となる原則の羅列で表され、それぞれの原則は次のような形で定められている

攻撃攻→守の切り替え守備守→攻の切り替え、などの局面ごと原則を定める

それぞれの局面の原則について、主原則→準原則→準々原則のように階層化される

主原則は局面ごとのプレーの仕方を示すチームの目的・目標であり、準原則は主原則を実現するための具体的な意思決定のルールである

ゲームモデルが持つ意味

ではなぜゲームモデルが必要なのか?

本書では、その問いに対し、以下のような3つの理由があると定めている

1.自己組織化を促し、創発現象の恩恵を得る

2.システムのレジリエンスの向上

3.システム全体の目的・目標の共有による全体最適化

難しい言葉の羅列だが、1.自己組織化を促し、創発現象の恩恵を得るから順番に見ていこう

イワシの大群

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イワシは自分より強い敵から自分を守る為に、巨大な塊となって周囲の敵を威嚇する

しかし、一匹一匹がその目的をほとんど知らずに自己組織化しているのだ

サッカーにおいても、グループやユニットの自己組織化によって個々の選手だけでは成し得ない創造性のあるプレーが可能になる

例えば守備の局面で、1人が一定の範囲を担当することよりも、複数でチャレンジ&カバーを行った方がボールは奪えるだろう

これが自己組織化によって発揮される創造性である

続いて「2.システムのレジリエンスの向上」の解説に移ろう

堅牢さと柔軟性

システムのレジリエンスの向上の解説をしていくにあたり、先ずはレジリエンスの意味を知っておく必要があるだろう

本書の言葉をそのまま使うと下記のように説明される

レジリエンス:突発的なダイナミクスの変化に対応すること、またそれに求められること

そして、良いレジリエンスの条件とし本書では下記2つを挙げている

1. 極端な状況にも対応できる堅牢さ

2. 予想外の変化や突然の変化に対応する為の柔軟性

プレー原則はあくまで意思決定基準なので、試合の中で実際に判断するのは選手であり、システムの柔軟性や自由度は担保されている

その為、適切なプレー原則によるコントロールはしなやかなレジリエンス能力を持つことが出来る

パターンでの練習をしても、実際の試合では相手は様々な方向に動く為、想定していたことが出来なくなる

それでは意味がない為、原則を用意し共有することで、相手がいる状況でも想定した中でのプレーが可能になる

最後に「3.システム全体の目的・目標の共有による全体最適化」を解説しよう

全体をシステムとして最適化する

本書では例を挙げている

チームのビルドアップの主原則を以下のように変更したとしよう

【変更前】「バランスを保ちながら前進する」

【変更後】「少しでも隙があればスピーディーに前進する」

これらの主原則をもとに「縦パスを積極的にさす」という同じ準原則を設定したところで、その結果としての自己組織化は大きく異なったものになるのは明らかである

つまり、準原則は同じでも主原則を変更すると、考え方やプレーが少し変わるということだ

前者の原則ではバランスが保たれている状態で縦パスを通すという意識だが、後者の原則では相手の隙があれば自分たちのバランスを崩すリスクを冒してでも縦パスを試みるだろう

則ち、準原則「縦パスを積極的にさす」は変わっていないが、ビルドアップによる目的意識が安定志向から積極志向へ変化したため、自己組織化は異なるものになった

自己組織化はシステムの目的・機能を果たすための結果として生まれる現象であるため、システムのダイナミクスに与える影響力は目的・機能の方が大きい

■チーム全体の目的→主原則

具体的な意思決定基準→準原則

続いて戦術的ピリオダイゼーションを大別した際の、③トレーニングの原則を用いて規定された方法論(トレーニングメソッド)を解説していく

トレーニングとは?

本書では、戦術的ピリオダイゼーションにおけるトレーニングメソッドの大きなポイントは以下の3つに分けている

1. 複雑な運動学習過程を基にしたトレーニングの原則

2. ピリオダイゼーション

3. トレーニングメニューのデザイン

シンプル且つ簡単な言葉で解説すると、以下のように考える

1. 意思決定に基づいたトレーニングの考え方

2. フィジカルパフォーマンス維持・向上のためのサイクル

3. 試合をイメージした再現性のあるメニュー

これらを踏まえた上でトレーニングをどのように構築し、実際の現場で行うかを考える

そしてそれは、シーズン・曜日によってもたらされるものである

次回Vol.2ではトレーニングメニューの構築の仕方や、考え方にフォーカスを当てて解説していく





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