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恋に恋して

燃えるような恋がしたい。
思いを募らせ、胸を焦がして、四六時中頭から離れない。
そんな恋がしたいのだ。

ついに私にもそんなふうに思う日が来たらしい。
恋にかまける人が増え、世の中が回らなくなったと中学の時に歴史の教科書で読んだ。
対策として恋ができる人数に制限をかけるようになったらしい。

実際、恋がどんなものかは知らない。
「思いを募らせる」とか「胸を焦がす」とか、あたかも経験したような口振りで言ってみたが、聞きかじった言葉を真似てみただけだ。
昨日までの私にとって、恋は歴史上の出来事と同じようなものだった。

具体的には、洗濯板から洗濯機に変わったような、テレビがカラーになったような、その感動を想像できるようでイマイチ分からない、そんな感じだった。
誰に聞いても当時のことを嬉々として話してくれるので、きっと相当良いものなのだろうと思うしかなかった。

それでも知らないものは知らないし、分からないものは分からなかった。
恋する人たちは楽しそうで羨ましかったし、恋した時のことを話す人は年齢に関係なく大人に見えた。

では、恋をすれば大人になれるのだろうか。いざ恋ができる資格を得るとふと不安になった。
そもそも資格を得ただけで、誰かに恋はできるのだろうか。そこも心配になった。
きっと、明日、外に出たら世界の見え方が変わっているのだろう。

そんな期待を胸に目を閉じた。

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