次世代のまちを考えるために組織設計事務所がリサーチ機関を持つことの重要性——PLP Architecture 相浦みどりさんに聞く、〈リサーチ〉と〈まち〉
「街づくり」はとても複雑なものです。
そこに住む住民はもちろん、商いを営んでいる人、デベロッパー、行政……などさまざまな主体による活動の上に成り立っています。各々の活動はお互いに何らかの影響を与え、結果的にまちという姿で現れます。そう考えると、それらの主体が街づくりを意識することから、本当の街づくりが始まるのではないでしょうか。
NTTアーバンソリューションズも関わる2037年度以降に全体完成を目指す「内幸町一丁目街区開発プロジェクト(仮称)」。
現在、帝国ホテル等が建つ日比谷公園に隣接する敷地に超高層タワーなどを建設する、総延べ面積約110万m2にも及ぶ大規模なプロジェクトです。
この計画において大きな役割を担うのは、イギリス・ロンドンを拠点とする設計事務所であるPLP Architecture。
これまで日本のプロジェクトで海外の設計事務所が関わる場合は、外装デザインなどデザイン面での協業が一般的でしたが、このプロジェクトでPLP Architectureはマスタープランデザイン、2つのタワーデザインに加え、プレイスメイキング(場づくり)ストラテジーを担当し、街区の魅力向上とその戦略提案をしています。
PLP Architectureは世界中で建築からマスタープランを手掛ける組織設計事務所ですが、リサーチ・戦略立案を行う研究者のチーム「PLP Labs」を組織内に設けていることも大きな特徴です。
NTTアーバンソリューションズ総合研究所も、リサーチ部門とデザイン部門があり、相互連携と役割分担、協業関係を構築し街づくり提案を行っているものの、まだまだ十分に機能していないと感じていることもあり、PLP Architectureが今回のプロジェクトでどのような取り組みを行うかは非常に興味深いです。
そこで、今回はPLP Architectureがどのような組織なのか、どのような考えで建築やマスタープランを手掛けているのか、PLP Labsの設立者であり、東京オフィスでさまざまなプロジェクトを手掛けるPLP Architecture役員の相浦みどりさんにお話を伺いました。
(本記事の図版は特記なき場合、PLP Architecture提供)
リサーチ活動・ストラテジーの立案から建築・マスタープランを提案する
──まずはPLP Architectureの組織構造について教えてください。
PLP Architectureは2009年に、アメリカの設計事務所KPFの元社長であるリー・ポリサーノ達によって設立された設計事務所です。
現在の組織の規模としては、147名の従業員がいて、社内で話される言語も45か国語、女性、マイノリティーも非常に多くて多様性がある組織になっています。
スタディも含めて30か国、550と世界中でプロジェクトを手掛けています。
本社はロンドンですが、東京とシンガポール、最近はミラノとアムステルダムにも拠点ができました。
基本はヨーロッパが中心なのですが、最近は帝国ホテルを含めた東京・内幸町1丁目の計画に関わるようになりました。日本でもプロジェクトに関わることができるようになって非常に嬉しいです。
PLP Architectureの特徴的な部分が「PLP Labs」というラボがあるところです。
PLP Labsには未来の都市に対して何ができるかをテーマに「リサーチ」と「ストラテジー」という機能があります。
都市についてのリサーチ活動が多いのですが、マテリアルやモビリティなどさまざまな分野のリサーチ活動を外部の研究者や機関と協力して手掛けることもあります。
それらの「リサーチ」を活かしてコンサルティングを行い「ストラテジー」を提案します。「ストラテジー」の提案では、内幸町のようなプレイスメイキングやワークプレイスのコンサルティングを手掛けることが多いですね。
また「次世代に向けてどんな街にしたらいいのか」という相談を受けることも多く、それに対して、次世代リサーチを行い、そのプロジェクトの将来的に必要となるもの、発展性を探り、それを元にクライアントとのワークショップを通して、まちのビジョンを創り、それに向けた街づくりのストラテジー(戦略)を構築します。
それだけではなく、我々はまち・建築空間も同時に提案できるので、こうしたビジョンとストラテジーを3次元に落とし込んだまち像を提案することも多々あります。そうしたまちのブループリントを創ることでさらにビジョンの共有が多様なステークホルダーと広くできます。
──PLP Labsについてもう少し詳しく教えてください。
PLP Labsは、「都市の未来をよくするために何ができるか」というところからスタートしています。それに向けて、3つの視点から取り組んでいます。
1つは人環境(PEOPLE)、1つは地球環境(PLANET)です。そしてもうひとつはテクノロジーですが、これは、人と自然環境の向上の目的に対して、あくまで「それを助けるテクノロジーは何か」といったスタンスで捉えています。
PLP Labsの存在意義について説明するためには、我々のプロジェクトへの姿勢をお伝えする必要があります。
我々は「LIFE CENTRIC」を掲げ、人だけではなくて環境も含めて活性化することを目指しています。つまり、将来的にやりたいのは「人中心」から人と自然双方をふくめた「生命中心」のまちづくりです。
そして「LIFE CENTRIC」を実現するために重要だと考えているのが、ワークライフバランス、ウェルビーイング、プレイスメイキング、ソーシャルインタラクション、スマートテクノロジー、サステナビリティの6つの要素です。
建物であれマスタープランであれ、これらの要素を網羅するようにプロジェクトに取り組んでいます。
さらにクライアントとこれらについて考えるときは、ESG*に合わせて系統立て、要素をさらに分解しています。
E(Environment)の部分ではDecarbonization、Circularity、Adaptaion to Climate Change、Biodiversityの4つは必ず網羅するようにしており、S(Social)の部分ではCommunity Health、Wellfare、Resilience、inclusivityの4要素を取り込んだ建物やマスタープランをつくっていきたいと思っています。
そして、それらの要素を満たすには、単なる空間デザインの提案ではなく広範な領域での提案が必要となり、そのためにリサーチが必要になってくるのです。
リサーチの対象は多岐に渡りPLP Architectureだけではできないこともあるので、色々な企業や研究者と協働しています。
例えば、ケンブリッジ大学などと300mの木造タワーをつくったり、ニューロサイエンスの研究者と都市の健康状態を可視化するツールをつくったりしています。
韓国のLGとはスマートシティの研究を行い、500×500mのスマートモビリティを前提にした都市を提案したりしています。また、カルチャーをどうやって開発に入れていけばいいのかのガイドをつくったり、COVIDによって都市にどういう変化が起こるのかを色々な研究者と考えたり、PLP Labsではさまざまな都市に関するリサーチを手掛けています。
テクノロジーに焦点を当てたプロジェクト
IUMO/V(SKYPOD)
自動運転車が普及すると都市はどう変わるのか?
OAKWOOD PROJECT──300mの木造ビル
そのように「リサーチ」を行い、その成果をコンサルティングなどの「ストラテジー」として提案し、さらに我々の強みである「空間デザイン」に繋げる。そうすることによって、プロジェクトがより面白くなって、良いシナジーが生まれていくことが段々増えてきていますね。
──色々なリサーチを手掛けているのですね。こうしたプロジェクトはどのように始まるのでしょうか?
最近は「この街をどうやっていったらいいですか」や「次の100年に向けて」というような「ビジョニングをしてください」という次世代への適応性、可能性を考えるところから始めるプロジェクトが多いです。それに対してアクションできるようなストラテジーをつくり、建築やまちの提案に落とし込んでいます。
リサーチ活動やストラテジー提案だけで終わることもあるのですが、プロジェクトの要件が決まる前の段階でビジョン・ストラテジーを建築や街にまで落とし込んで見せるとコンセンサスを得やすいのです。
なので、空間デザインまでを手掛けることで我々の強みを出せます。また、凝り固まってしまった与件の中で空間デザインを考えるわけではないので、既存の枠に捉われないまちの在り方を提案でき、今まで見えなかった新しいまちの可能性を見出すことができます。
その点がとてもやりがいがあり、クライアントからも評価いただいているところだと思います。
──ラボ機能を組織の中に持つことになった経緯はあるのでしょうか?
PLP Architectureには、もともとリサーチを専門としている人がいました。
その人はモビリティやジオメトリの研究をしていたのですが、彼が率先して色々な研究者を連れてきて、我々もそれに乗っかって色々なリサーチ活動を行っていました。
このリサーチ活動が、そのうちケンブリッジ大学との共同研究などに繋がりました。『EDGE』というプロジェクトでは、さまざまなスマートテクノロジーを取り入れることになり、そこでIoT関連のさまざまなスタートアップと繋がり大きく成功することができました。
研究者や外部の組織と繋がりリサーチを取り入れることで大きなシナジーを出せることが分かってきたので、リサーチなどの活動を系統立てて取り組んでみようとなって2016年にPLP Labsが設立されました。
また、建築設計の仕事の在り方が変化してきたのも上手く重なっていると思います。
10年前は「何㎡の中にこの機能とこの機能を入れてください」という依頼が普通でしたが、最近では「この建物、まちにはどんな機能が必要ですか?」と聞かれることが多くなってきました。
特に大きなデベロッパーは既存の建物や都市のつくり方の常識に疑問符を出してくれるようになりました。既存の考え方では未来に必要な街づくりが追いつかなくなるので、必然的に次世代の都市のあり方に対してリサーチが必要になってきたのです。
今では色々なプロジェクトが「これからの商業はなにか」「これからの公共スペースはなにか」「これからのモビリティは何か」「これからの郊外とは何か」と色々な考えを広げる機会になって、興味深く楽しいです。
サステナビリティのトレンドが建築・都市への意識を変えている
近年ビジョニングを希望するクライアントが増えてきた要因を理解するためにはサステナビリティトレンドについて理解することもとても重要です。
例えばロンドンでは、都市計画についての指針「ロンドン・プラン」で気候変動等に対する方針が定められ、低炭素化などが目指されています。
ロンドンで建物を建てる場合にはエネルギー利用についてのアセスメントはもちろんのこと、建物の材料から建設、解体によって生まれる炭素排出量について記したWhole Life Carbon Assesmentという書類等も提出しなければなりません。
建物を建てる・建てないに対して明確な理由が求められるので、その影響によるクライアントの意識の違いはありそうです。
また、行政だけではなくて投資家たちはESG投資に非常に敏感になっています。なので、ESGに対してデベロッパーも対応しなければならないという状況になってきています。
例えば、GROVESNOR GROUPという不動産投資会社は2030年までにすべてのエネルギー使用量の33%削減、建設時の炭素排出を50%削減するという目標を立てています。
これはすごく難しい目標ではあると思うのですが、その目標があることによって設計事務所とサプライヤーとデベロッパーが同じ立場に立って、議論できるようになっているのです。
─なるほど。達成困難な目標がこれまで合っていなかった目線を合わせる効果を出しているんですね。
そうですね。そうした状況に対して、PLP Architectureではサステナブルについて提案する専門のチームを設けていて、ストラテジー提案の段階から環境についてのアプローチをカバーできるようにしています。
建物に係る炭素排出量の解析も自分たちで行っているので、クライアントに色々なオプションを分かりやすく説明することができるのです。
「新築するのだったらこのくらい炭素が出ますよ」「そこで木を使ったらこのくらい炭素排出量を減らせますよ」「ハイブリッドだったらこのくらいの炭素排出量」を提示して、どこまでの炭素排出量を目指すかを一緒に考えながらプロジェクトを進めています。
また、我々が手掛けた今までのプロジェクトと比較して「あなたのプロジェクトのサステナビリティはこのあたりなので、こっちまでいきませんか」ということを分かりやすく説明することもあります。
最近では、より分かりやすく説明するためにBIMとゲームエンジンを使って炭素排出量と建物を建設するときに排出する炭素(エンボディドカーボン)の80%を占める構造・外装を連動してビジュアライゼーションするツールも開発しています。
構造や外装を変えた時の炭素排出量の変化をインタラクティブに可視化するアプリケーションですね。
ゲームエンジンで制作しているのでVR機器で見ることもでき、クライアントは実際にどんな空間またファサードであるのかを理解でき、その炭素排出量の情報も同時に理解できるのです。
サステナビリティに焦点を当てたプロジェクト
EDGE
Parco Romama──イタリア・ミラノ地区の鉄道跡地におけるサステナブルなマスタープラン
研究と設計を協業させる
──PLP Architectureでは、設計者と研究者の協業が成立している環境が面白いと感じています。一方で、日本ではそうした組織はあまり見かけたことはありません。これは国による違いなのでしょうか、それともPLP Architectureが特殊なのでしょうか?
私はアメリカでも働いていたので、アメリカとヨーロッパでの設計を経験しているのですが、アメリカはかたち主義という印象でした(時代柄ということもあるでしょうが)。
一方でヨーロッパは人中心の考え方が古くからあり、「どういう暮らしがあるべきなのか」「どういう働き方があるべきなのか」が根底にある文化で、本来建築・都市があるべき姿というのが重要視されていると感じています。
社会福祉も進んでいますし、サステナビリティに対する考え方も進んでいます。日本と比べると、その土壌の違いが影響している面もあるのではないかなと思います。
また日本では、建築はエンジニア系に位置する一方で、アメリカ、イギリスでは建築はアート系などと混ざっている印象があります。
おそらく建築に携わっている人は人間の行動や社会学的な部分など他の分野に興味がある人が多いと思うのですが、日本は「建築とその他の学問・文化」という区切りがすごくきちんとできてしまっている印象があります。
アメリカで学んでいた時は、ジャーナリストやアーティストなど色々な分野のバックグラウンドの人がごちゃ混ぜが普通でした。
建築系が芸術学部に所属していたので、アート系の先生とかも近くにいて、すごく刺激が多かったんですよね。もちろん日本にも藝大などがありますが、それでも建築というひとつの分野に閉じている印象が強いです。
環境(サステナビリティ)に関してもそうです。
私は、環境系の修士も日本で学んだので、環境と建築を分けて考えませんでした。
現在イギリスでは、6年の建築デザインのコースで環境に対するシュミレーションなどを学ぶことが必修になっている学校が多くあります。
PLPの中でも環境と建築両方を学んできた人たちが多くいます。ですから、サステナビリティとデザインを同時に考えるのが普通であり、皆が環境への貢献を真剣に考えています。
──PLP Labsで研究が進められているからこそ、多様な分野の人がいて色々なプロジェクトで横断的に提案できるという面もありそうです。
PLP Labsと設計のチームは境界線が曖昧で、色々な人がプロジェクトに応じて参加するので、参加した人のリサーチ能力も育っていきます。
PLP Labsに頼っているというよりも境界線が曖昧だからこそ色々な人を巻き込みやすくなっており、良いシナジーを生んで、それぞれのプロジェクトがさらに深くまた面白くなっているんだと思います。
──PLP Architectureには色々な経歴の方がいるように思えるのですが、プロジェクトごとに必要な分野の人を採用したりしているのでしょうか?
インハウスは必要最小限に留めて、あとは人のネットワークでその分野の専門の研究者と繋がって、プロジェクトに関わってもらうことが多いですね。経営的にも人をどんどん増やすほどお金がないので(笑)
ただ、それによって研究者とのネットワークが増えるというメリットはあると思います。PLP Architectureのリサーチ活動はインドでソーシャルハウジングの研究をしたり、極端な例をつくるというプロジェクトが多いので、そうしたプロジェクトで繋がるのは面白い研究者が多いですね。
そのように色々な国でプロジェクトを行うことで人脈が広がるというか、それぞれの文化的な素養も蓄積するので、それもリサーチ活動によって色々な研究者と協業することの良い面かなと思っています。
──そういうナレッジやネットワークの蓄積があることで、それがまた協業を生むということですね。
一回繋がったらまたそこから他の人とも繋がれますしね。
リサーチを「プロジェクトとして実現させる」ことが重要
──外部の研究者の繋がりがプロジェクトを経るごとに増えているということなのですが、外部の研究者がPLP Architectureのプロジェクトに関わるメリットはどこにあるのでしょうか?
PLP Architectureの特徴は、リサーチ活動の成果を常にプロジェクトに落とし込もうとしているところが重要だと思っています。
リサーチ活動の成果が建築や街の形に落とし込まれたり、何らかの形でビジュアル化することで、自分たちにも分かりやすいし、お客さんたちにも分かりやすいのかなと思っています。
ただ、建築や街の提案に落とし込むのが難しいタイプのリサーチ活動もあるのですが、そういうものはロードマップや評価ツールとしてアウトプットすることでプロジェクト化しています。
例えば、ESGのE(Environment)は定量化ができるので分かりやすいのですが、S(Social Value)は定量化が難しく分かりにくいんですよね。その時に、Sをどのように評価するかが重要になるので、そのロードマップを研究者とつくったりしましたね。
ロードマップや評価ツールをつくるプロジェクト
Measuring health and wellbeing
Empowering citizens to create healthy cities
──そういう点ではいわゆる研究機関とは違いますね。
そうですね。研究が目的ではなく「その研究を活かして都市をどう変えるか」が重要だと考えています。研究者だけだと研究成果で終わってしまう可能性は高いですが、PLP Architectureが関わることで、それをプロジェクトとして実行できるのです。
その方が楽しいし、やりがいがあるんですよね。
都市に対して何かやるなら未来に対して良いインパクトを出したいねという思いが常にあるので、それに対して共感していただいて一緒にやってくれる方が増えてきているのは非常に良い状況だと思っています。
また、毎月PLP Labs Salonという全体の集まりがあって、そこから自由なアイデアを取り上げることをしており、そこからプロジェクトの次世代リサーチが独立してさらに発展することもあります。
日本ではゼネコンさんその他企業のR&Dがすごく進んでいるのは素晴らしいと思っています。 なので、研究者と設計者が分かれ過ぎなければ、実行に向けてより良いシナジーが生まれるのではないかなと思います。
日本のプロジェクトでゼネコンさんと協働することになって「こんなこともできるんですか!」と感動しているので、研究者をどんどん巻き込んでいくのが、やはり良いなと思っています。
どうやって設計と研究の協業を可能にするのか?──プロジェクトへのオーナーシップを高める
──リサーチと設計では部門が違うと協業しにくかったりすると思うのですが、PLP Architectureでは特別なチーム組成のようなものがあったりするのでしょうか。
チーム編成はあいまいなので、かえってknowledge transferが起こり、それが良い展開や結果を生んでいます。人数が少ない組織の良いところかもしれません(笑)
予算を大きく組めるわけでもないので、個人に依るところも大いにあります。
──設計者と研究者が上手く協力するためには何かポイントがあるのでしょうか。
設計者と研究者との信頼関係が必要だと思います。ちょっとした会話が交わせる、小さな信頼関係ですね。日本の組織は分業することが多いので、組織が大きいと逆にやりづらい面もあると思います。
我々のところに日本の設計事務所からインターンに来てくれた人がいたのですが、設計事務所は「効率化」といって30代で3件のプロジェクトを担当することになるが、それは実は効率化になってないと言っていました。
PLP Architectureでは、その年代の人は1つのプロジェクトに集中してもらって「これはあなたのプロジェクトだから頑張ってね」と任せます。すると、すごく集中して取り組んでくれるんです。
つまり、プロジェクトのオーナーシップがとても重要で、プロジェクトに対して「やりたい!」と思ってもらえるとクリエイティブまたプロダクティブといった面でも上手くいくんです。
インターンに来てくれたその方も集中してプロジェクトに参加してもらった結果「楽しかったです」と言っていたので、そういう仕事への取り組み方の意識の違いもあるかと思いました。
また、日本だと部署替えがあるのも海外から見ると特殊だと見えます。利点と欠点があると思います。
PLP Architectureでは、10年以上掛かるプロジェクトでも、最後まで付き合ってもらうつもりで関わってもらうようにします。
──オーナーシップは非常に重要ですね。以前の公共とデザインさんのインタビューでは日本の行政がどこか事務的に感じるのは、行政の人がまちに対してオーナーシップを持てていないからじゃないか、という話がありました。
何をやるにしてもオーナーシップは基本的に重要ですよね。
「自分のやりたいこと」と「自分の得意なこと」がマッチしていて、さらにそれが社会貢献にも繋がって、暮らしていけるくらいのお金が入ってくる、その4つがあると生きがいに繋がると聞きました。
取り組んでいるプロジェクトに意義を見出すことも重要だと思いますし、そのサイクルが上手く回るとバランスがとれて、良いプロジェクトの発展に繋がり、自分も成長するのではないかなと思います。
──街づくりには、サステナビリティを含む都市機能も建物もランドスケープも建築家(組織でも)が全体に責任を持ち、コミットしてデザインしていくことが重要だと考えています。それを考えると設計者が組織の内外で自分のオーナシップに社会的貢献の意義を見出せ、自主的に推進したいと思える仕組みを構築していくことが大事なのでしょうね。
これからの日本の街づくりに期待すること
──PLP Architectureは内幸町のプロジェクトで日本のプロジェクトに関わっています。海外の設計事務所が日本のプロジェクトに関わる場合は、深くコミットができるのか難しい、という面はありそうですね。
これまでは日本のプロジェクトで海外の事務所が関わる場合は外装だけというパターンが多かったです。そうした形のデザインだけでなく今回の内幸町のプロジェクトでは、まちのあり方に海外からの視点が求められていて、我々が海外で培った視点を提案させていただいていて、とてもやりがいがあります。
既存のやり方に対して、ロンドンやヨーロッパでの街づくり、ワークプレイスやサステナビリティの方向性を提示して、プロジェクトに合わせて取り入れていけるようにしています。もちろん可能なことと可能でないものもあります。
サステナビリティに関しては、欧州では、急激にレベルの高い取り組みが受け入れられてくるようになっています。そうでないと、国連が2022年10月に「現在の各国が発表している取り組みでの炭素排出量削減の約束では破滅的な気候崩壊を招く」と発表したように、このままだと地球環境の破綻は免れないからです。
こちらでの環境的な取り組みを紹介し、理解を得てもらい、できる限りのことに取り組んでいきたいと思っております。
──今回、大きく変わりゆく東京の代表的な街・渋谷のMIYASHITA PARKからキャットストリート、表参道、NTTアーバンソリューションズグループが取り組みつつある奥原宿までを散策しました。
散策してみていかがだったでしょうか?
どの国にも特異な土地性があり、そこでまちは継続して発展してきました。
いかにその土地性を活かして、人と自然環境を向上できるかがまちとしての魅力またレジリエンスも高めることだと思ってます。
東京は低地と台地のまちでそれを繋ぐ斜面、坂のまちです。そうしたベースから発展してきた、まちの魅力があります。また用途地域、容積率からくる高い建物に囲まれた低層の建物があるということも、海外から見ると特異なまち性です。
だから奥原宿を一緒に散歩させていただいた時に、WITH HARAJUKUからの開けた東京の空のサプライズや、高低差を活かした繋がりや抜け道、一戸あたり数十億はするだろうマンションの裏に大衆居酒屋がある面白さといった「この土地性ならではの魅力」ができているんだな、それが根付いているんだなと思いました。
──なるほど。確かにまったく異なるものが近いところにあるのは改めて考えてみると面白いですね。
今後は「生命中心に東京を変える5つの提案」なんてことができたらいいなと思ってます。
土地性の最大化を通して、マクロまたマイクロレベルから、環境(Enviroment)社会価値(Social Value)に貢献する方策を具体的な都市的提案として出せたら面白いですよね。
(収録日:2022年12月16日、2023年1月28日)
今回は、ひとつの建築を考える以前に、将来の人やまち、生命(人と自然環境)を考え仕事をされているPLP Architectureのとても興味深いお話を聞きディスカッションできました。
内幸町のプロジェクトで、再開発街区と日比谷公園を一体的に見立てて、100年後の日比谷・内幸町を考えているPLP Architecture。
そうしたロングスパンで次世代のまちを考えるためにはさまざまなことに目を向ける必要があり、そこでリサーチなどの研究活動が重要になるのだと感じました。PLP Architectureの実践からはまだまだ学ぶことがありそうです。
地域想合研究室.noteでは来年度、相浦さんと日本の街づくりについて考える何か連載記事のようなものを展開できればよいなと思わせられたインタビューとなりました。
聞き手:福田晃司、小野寺諒朔、春口滉平、今中啓太・齊藤達郎(NTTアーバンソリューションズ総合研究所)
構成・編集:福田晃司
編集補助:小野寺諒朔、春口滉平
デザイン:綱島卓也