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知られざるイノベーター達と社会システムの物語 『50 いまの経済をつくったモノ』

社会や経済がどう形成されたかが語られてる歴史モノが好きなんですよね。なぜなら視点を与えてくれるから。たとえば『銃・病原菌・鉄』。

なので、この本を見つけた時は「こういうの久々に読みたかった!」と小躍りしました。読み終わった後の感想も変わらず「超オススメ」です!

どんな本?

現代に大きな影響を与えた50の様々な発明を取り上げて、それぞれいろんなエピソードを語ってくれるという本です。

著者のTim Harford氏はFinancial Timesの著名コラムニスト。世界銀行に勤めたり、英国王立経済学会評議員を務められたこともあるそうです。

ガチガチの学者さんではないですし、『銃・病原菌・鉄』や話題の『ホモ・デウス』なんかと比べると、カジュアルな語り口で読みやすい本です。

単なる発明ランキングや短編集ではない

この本の目的は、経済に重要な影響を与えた大発明ベスト五◯を選ぶことではない。(中略)印刷機、ジェニー紡績機、蒸気機関、飛行機、コンピュータといった定番が、この本には入っていない。

そうなんです。「え?」ってなるユニークなものが結構取り上げられています。パスポート、マーケットリサーチ、コールドチェーン、経営コンサルティング… 最初に取り上げられるのはなんと農具の鋤(プラウ)です。

もちろん紙、発電機、iPhoneといった定番寄りのものもありますが、中身の物語は意外なアングルだったりして示唆に富んでいます。著者の言う通り「知られざる物語」が楽しめます(だいたい知ってたものもありますけど💦)。

「事象のつながり」がテーマ

この五◯の発明が現代経済を形づくったのは、より多くのものを、より安く生産できるようにしたからだけではない。その一つひとつが、経済のなかで蜘蛛の巣のように複雑に絡み合っている。そのつながりは、ときに混乱をもたらし、ときに古い制約を突き抜け、ときにまったく新しい模様を紡ぎ出す。

著者のこの言葉通り、本書ではいろいろな発明が現代経済を形成するに至ったつながりを主題として取り上げています。

様々な発明に端を発した社会の変化の過程には驚かされるものがあります。また、変化を阻む要因からの教訓もありました。

・蓄音機や有刺鉄線が社会に及ぼした影響
・冷凍食品、粉ミルク、ピルが普及するに至った社会的要請や技術進歩
・電気モーターが使えるようになっても蒸気機関の代替に30年要した理由

また、ひとつの発明やアイデア、社会システムにおける変化が思ってもみなかったところに影響を及ぼしたケースも多々挙げられています。

・映画産業が発展したのは●●のおかげで、人口動態にまで影響している
・経営コンサルが一大産業になった契機は●●
・殺人光線を作ろうとして●●が生まれた

社会の変化は決して直線的なものではなく、多数の因子が影響し合ったシステムの構造変化によって起こる、ということを強く意識させられる内容でした(仕事柄、そういう話が好きというのもありますが)。

ちなみに、ひとつひとつの発明の物語はサクっと読めるので、つまみ食いもアリな本です。

ただ、テーマごとにまとまっていたり、他の発明にも影響している発明もあるので、「事象のつながり」を俯瞰するために、通しで読むとより楽しめると思います。

システムをとらえることの重要性

ビジネスは多かれ少なかれ将来に対する読みを持って行いますよね。ある程度の方向感は見えていたとしても、一番予想が難しく、かつ事業の成否にインパクトの大きいものって、やっぱりタイミングだと思うんです。

ビジネスがうまく行くか、特にスタートアップや新規事業で「新たなパラダイムを作り出すんだ」というケースでは、「どういう要素が揃っていればその変化が起こるのか」が見えているかどうかで全然話が変わってきます。

数年経ってみたら仮説は違ってなかったことが分かったんだけど、当時は必要なツールやインフラ、社会的なシステムが十分じゃなくて軌道に乗らなかった、といったことは多々ありますよね。

他者より早すぎず遅すぎず絶妙なタイミングで事業を当てるのを"再現性持って"やられている方は、ここの感覚が優れているんだと思います。

また、ひとつの発明による(その発明とは直接関係なさそうな領域での)思いもよらない影響を一歩二歩早く察知・予想して、スピーディーに動ける人は成功確率が高まるはずです。

もちろん『コンテナ物語』などの伝記を引くまでもなく、スタートアップにおいて(予想や計画と比べての)実行の重要性はどれだけ強調してもしすぎることはありません。

ただ、上記のような世の中のシステムをとらえるマクロな視点や「連想力」を持っていることで、目の前の事象の捉え方や打ち手の幅・精度も変わってくると確信しています。

また、とかくポジティブに語られがちなスタートアップですが、この本で語られたような「発明による負の影響」の可能性も決して忘れてはいけないですし。

何よりこの本の多くのエピソードが社会を変えたイノベーター達の苦難や成功の物語でもあるわけです。創業者の自伝みたいなのとは違いますが、やっぱり読んでて胸踊ります。

というわけで、スタートアップの方々にオススメ!と思わずTweetしてしまいました。少しでも参考になれば何よりです。

それにしても、ふらっと入った書店でこういう発見があるからちょい寄りは止められないですね。

良い本との出会いに感謝。


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