森JOC会長発言と「新しさに訴える論証」と「幽霊論法」

私はこの記事に全面的に同意というわけではないのですが、なかなか中立的で良い記事だと思いましたので、取り上げたいと思います。

 あの発言は洒落にならないし、森会長は、自分から辞めるんじゃなしにきちんと更迭されてJOCから辞めさせられる形じゃないとマズいのではないか。とは私は思うのですが、しかし、この間の日本のフェミニズム運動を出発点に起こってる「森辞めろ」の動きを見ていて、ものすごく気味の悪いものを感じるのも事実なんですよね。

私は、この後半の部分には同意ですが、前半の部分には必ずしも同意しません。以前も書きましたが、森氏の発言は何ら実行力を伴うものではなく、単にしょうもない軽口を叩いただけです。「洒落にならない」というのは大げさだと思うんですよね。ましてや、失言=即辞任という論調も、一般論として私は肯定しない立場です。

そもそも、森氏の発言が辞任や更迭に値するほどの「洒落にならない」発言であるならば、フェミ界隈の「森辞めろ」運動は、肯定せざるを得ないはずです。ああした動きに対する気持ち悪さは、単に「気持ち悪い」で済ませるのではなく、きちんと言語化しておくべきではないでしょうか。

私の座右の銘は「過ぎたるは猶及ばざるが如し」です。何事も、やりすぎもいけないし、やらないのもいけない。薬だって多量に服用すれば毒になります。だからといって反ワクチン界隈みたいに「薬は毒なんだ!」と全否定するのもどうかしています。神羅万象、全てがそういうものなのではないでしょうか。「水清ければ魚棲まず」とも言います。別に濁ったままの世の中が良いとは全く思いませんが、昨今の似非リベラル界隈は、過度に綺麗すぎる世の中を追及しているように思えるのです。

 「価値観のアップデート」なる言葉が、最近しきりに、主にフェミニズム運動やそこについてる自称「リベラル」の人達から、一般大衆と言うか「庶民」に対して投げかけられていて、要は、「進歩的な我々の価値観が唯一正しいのだから、それをわきまえない愚かな庶民共は”価値観をアップデート”せよ」と言う感じの事で言われてる訳なんですよね。

これは「新しさに訴える論証」という、典型的な誤謬の説明です。つまり「新しい=正しい」は、必ずしも成立しない(絶対に正しいとも、絶対に間違っているとも言えない)にもかかわらず「新しい価値観は無条件で正しいのだ」という錯覚を起こさせる論法なのです。

かつて、共産主義という思想が新しい思想だと考えられていた時代がありました。「進歩派」という言葉は、共産主義という新しい思想を正しいと考える人たちが自称していた言葉です。それを、21世紀の今になっても自称しているのだから、とても滑稽です。ほぼ同様の意味で「革新派」という呼称もありましたが、これはさすがに使いすぎて悪いイメージが付いてしまったので、彼らは「リベラル」と言い換えることにしたのです。

 勿論、インチキではない学者も沢山いるんだと思いますし、そうでなかったら学問以前の事になりますけど、「インチキすぎる人々」がメディアやネットを通じて沢山発言したり・フェミニズム運動と支持者達を煽って色々気に入らない人とものを攻撃して潰させたり(「犬笛を吹く」というやつですね)長年してきてるものだから、それ以外のマトモな社会学者や社会学が、社会から見て全く見えなくなってるんですよね。しかも、「マトモな人達」が「インチキすぎる人達」を追い落とすことも・「いい加減辞めてくれ」ということも、政治力の格差からか非常に難しいようです。

ここも、「インチキではない社会学者もきっと沢山いるのだろう」という希望的観測から出発して「しかし、彼らは政治力が弱い」と、これまた根拠のない推論をおっしゃっています。これは「きっと幽霊はいるけど人間の目には見えないのだろう」という論法と同じです。「きっと幽霊はいる」という願望を事実として、ではなぜ存在するはずの幽霊の姿を見ることができないのかを根拠のない推論で説明しようとしているわけです。

もちろん、幽霊がいないということの証明はできません。それと同様に「まともな社会学者などいない」ということも証明はできません。いわゆる「悪魔の証明」ですね。

これは「ツイフェミ」論争にも言えると思います。つまり「Twitterで悪目立ちしている過激派フェミニストは本当はごく一部の少数派で、そうではないサイレントマジョリティーのまともなフェミニストがきっと大勢いるはずだ」という主張ですね。これも幽霊論法であり、サイレントマジョリティーのまともなフェミニストの存在が証明されたことは一度もないと思います。

Artanejpさんが、なぜ森氏発言は洒落にならない、更迭されるべきだと言ったり、まともな社会学者はきっと大勢いると言ったりするのかは理解できます。きっと、そう言わないと世間に受け入れてもらえないとお考えになられたからでしょう。ですが、それは同調圧力に負けてしまっているなあ、と私は思います。

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