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短編もしも小説 「鳥の顔をした石像の正体」 - 6 遂に登場した鳥人間トト

5 恐竜がもし進化していたら からの続き。

「先ほど君たちが言っていたNetflixのドキュメンタリー。彼女に教えてもらって、今日までの間に私も見てみたよ。なかなか面白かったね。
ただ私の説は少し違うんだよ。
学会にも何度か論文を提出してはいるんだが、反応がないところを見る限り、まだそこまで真剣に受け止めてもらえていないんだけどね。」

オッケーオッケー、これは聞いて欲しいんだな。
もちろん聞きますよ。
場合によってはまだ世に出ていない古代のイメージ図を今度の文化祭で世に披露できるかもしれない。むしろなるべくぶっ飛んだ論説であって欲しい。
文化祭での上映を皮切りに、それが話題になって、そしたらNetflixから声がかかって、クレジットのエグゼクティブディレクターのところに俺の名前が...。

ハンコックの熱とはだいぶ違うところでワクワクしてきたシュン。
そういう意味ではナオミの方がむしろ真面目にハンコックの話に聞き入っていると言える。

「よかったら教えていただいてもよろしいですか?」

録画しているカメラに少しわざとらしく気を配り、今からあなたをかっこよく映しますよ〜というメッセージを込めて、シュンは目線をカメラに向けて焦点を調整する。ハンコックは一見冷静を装っているが、これから展開される持論を披露するのに明らかに高揚しているのがわかる。

「ダーウィンの進化論が真実なのかどうか。それは私の専門外でもあるからそこには言及しないとしましょう。」

お、敬語になった。ハンコックもついに外向けのモードに入った。

「ただし生命は進化する。このことに限っては間違いのないことでしょう。
恐竜は大量絶滅を経ても尚、鳥と言う形で現代にも生きている。
ヒトとサルがこのように同時に存在しているように、恐竜から鳥に変化をする過程で、ディノサウロイドのように人型に進化した恐竜もいれば、現代の鳥に近しい容姿をベースに、人型に進化した分岐があったとしたらどうだろうか。正にこの壁画のように。

ローブを纏い、羽根が露出し、頭が鳥の人型生物の姿が、ディスプレイに映し出された。

古代エジプト文明では知恵の神トート 、あるいはトトと呼ばれる。

「かわいい。トトちゃん」

一瞬ハンコックがナオミに視線を移す。
おそらくだが、神聖な上を登場させたつもりが、子犬の名前を呼んだかのような女子の奔放さ、そしてこの空気感との乖離に驚いたのだろう。
しかし何事もなかったかのように続ける。

「人間に知恵を授けたとされるトトは、」

いろんな名前がある中で、この文脈から、トトをその呼称に選んだハンコック。

「、本当にこの壁画の通りだったとしたら、人間にものを教えていた存在だったと言える。我々人類が授かった知識はこのトトから教わったもの。知恵の神から、ね。
それは例えば、今必死に人類がAIに機械学習をさせているのと同じようなものなのかもしれません。」

「なるほど。」

シュンには納得できた。

「そのAIを搭載したロボットを火星に送って探査させていますもんね。」

その瞬間、ハンコックはシュンに向かって身を乗り出し、指をさした。

「そう、その通り。トトの身になって考えると分かってくるわけです。人間は火星の環境でも動くことができるロボットを、自分たちが星に行くよりも前にいかせていますよね?それを地球のNASAがヒューストンで観察しているわけです。
それと同じように、トトが今でも私たちを観察、もしくは監視しているということはあり得ないでしょうか?
彼らにとってのヒューストンで。」

(続く)

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