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愛犬の【怖がり】は克服すべき?効果的トレーニングと心がけたいこと

◎ドッグトレーナーの資格保有者執筆◎

どんなわんちゃんにも多かれ少なかれ「怖いと感じるもの」や「苦手なもの」はあります。それが度を越してしまうと、日常生活に支障をきたすようになることも少なくありません。

人と同じでわんちゃんにとって怖いものが少ないほど生きやすく日々のストレスも感じにくくなるものです

では、どうしてわんちゃんは「怖がり」になってしまうのでしょうか?原因を探りながら、わんちゃんの「恐怖心」を克服するために飼い主様ができることについて、具体的なトレーニング方法なども交えながら詳しく解説していきます。

怖がりなわんちゃんによく見られる行動

「人通りの多い場所でオドオド、ビクビクと挙動不審になってしまう」
「見知らぬ男性が近づいてくると激しく吠えてしまう」
「家族以外の人の手からおやつを食べることができない」
「他のわんちゃんが近寄ってくると、歯をむいて唸り攻撃的になる」
「花火や雷鳴の音でパニックを起こす」
「動物病院の診察室で震えながらおしっこを漏らしてしまう」

…あなたのわんちゃんに、このような行動は見られませんか?
これらはすべて、わんちゃんの恐怖心が原因で現れる行動の例です。この他にも、怖がりのわんちゃんによく見られる行動として、以下のようなものがあります。

●よだれや鼻水を垂らす
●パンティング(舌を出しハアハアと荒い息遣い)をする
●頭と体を低くして、耳を後ろにピタッと倒す
●目が泳ぎ、周りをきょろきょろと見まわして落ち着かない
●うずくまって石のように動かなくなる
●尻尾が股の間に入る
●失禁・脱糞する など…

わんちゃんが怖がりになる3つの原因

先天的(遺伝的)にとても慎重な性格で、新しいものに警戒心を抱きやすいわんちゃんもいます。しかし、ほとんどの怖がりなわんちゃんは、生まれ育った環境やそれまでの経験から特定の何かに対する恐怖心を募らせていくケースが多いです。

では、わんちゃんが怖がりになる原因を探っていきます。

【原因①】未知に対する恐怖

わんちゃんの怖がりの原因として最も多いのは「未知に対する恐怖」です。つまり、わんちゃんにとって「未知なもの」「得体のしれないもの」が「怖い」という気持ちを引き起こす原因となるのです。

わんちゃんが生まれてから生後3週齢~12週齢くらいの時期を「社会化期」と呼び、わんちゃんを新しい刺激や環境に慣れさせるのに最適な時期だと言われています。反対に言えば、この時期にさまざまな刺激に慣れる機会がなく未知なものが多いわんちゃんは、その後大人になってからも「怖い」と感じる対象が多く残る可能性が高い、ということです。

例えば、生後2か月のわんちゃんを家族に迎えたものの「ワクチンの接種がまだ済んでいないから」と、生後4か月近くまで家の外へ連れ出すことなく、また家族以外の人や犬と触れあうことなく過ごしてきたとしましょう。するとわんちゃんは、ワクチン接種の完了を待たずにさまざまな経験をしたわんちゃんよりも、怖がりになりやすいと言えます。

【原因②】トラウマからくる恐怖

パピーの社会化期にいろいろな経験をさせることが、愛犬を怖がりにさせないために重要であることがわかりました。しかし、パピーのうちから積極的に外へ連れ出し、いろいろな人や犬と触れ合う機会が多かったわんちゃんであっても、特定のものをひどく怖がる、または過剰に警戒することがあります。

例えば、社交性の高いわんちゃんに育てたくて、パピーのうちからドッグランに通い、不特定多数のわんちゃんと交流させていた飼い主様がいるとしましょう。ある日、いつものようにドッグランへ行くと、見慣れない黒いわんちゃんがいます。さっそくお友だちになろうと愛犬と一緒にランの中に入ったところ、相手のわんちゃんがものすごい勢いで愛犬を追いかけまわし、執拗にマウンティングしようとします。

あまりにしつこいので、愛犬が「降参!」と仰向けになったにもかかわらず、相手のわんちゃんはそこに覆いかぶさるようにして愛犬の動きを制したため、愛犬は逃げ場を失ってしまいました。それ以降、愛犬はドッグランへ行くことを拒否するようになり、お散歩中に黒いわんちゃんを見かけると、ひどく怯えた様子で吠えかかるようになってしまいました。

わんちゃんにいろいろな経験をさせることは、とても大切です。一方で、それらが「ポジティブな経験」としてインプットされなければ、未知なるものに対する恐怖の克服どころか、大きなトラウマを抱えてしまう結果になりかねません。そしてこの例のような強烈にネガティブな経験をしてしまうと、それを乗り越えるには多くの時間と適切なトレーニングが必要となります。

【原因③】飼い主様のネガティブな心理を反映した恐怖

飼い主様ご自身が人見知りだったり、神経質でピリピリしがちだったり、感情の起伏が大きく不安定だったりします。するとわんちゃんは、飼い主様のネガティブな心理の影響をダイレクトに受け、同じように神経質で緊張しやすく怖がりな性格になることがあります。

言葉は話せませんが、いつもそばにいるわんちゃんは、飼い主様の心の動きや発するエネルギーを敏感に感じ取ることができる動物です。飼い主様が苦手意識を感じるものに対して、わんちゃんがとりわけよく吠える、というようなことも起きるのです。

ところで、怖がりは直すべきなの?

ここまで読んで、怖がりになる原因にはどういうものがあるのかがわかりました。先ほどもお話したように、人と一緒に暮らすわんちゃんにとって、人間社会の中で怖いと感じるものが少なければ少ないほど楽に生きることができます。したがって、わんちゃんが心身ともに健やかに暮らしていくためには、愛犬が怖いと感じるものをできるだけなくしていくことも飼い主様の責任と言えるでしょう。

あなたのわんちゃんがまだ生後2か月前後のパピーであれば、社会化期のメリットを最大限に利用して、この先の犬生で遭遇する可能性の高い人、犬や猫などの動物、もの、状況にできるだけ多く接する機会をつくり、ポジティブな経験をさせましょう。

すでに成犬になったわんちゃんであっても、諦めることはありません!パピーと比べて時間と根気は必要になるものの、わんちゃんは何歳になっても怖がりを克服することはできます。焦らずスモールステップで、怖いことを「楽しい」「嬉しい」「美味しい」といったポジティブな感情で、少しずつ上書きしていきましょう。

個性を尊重する気持ちを忘れずに

「怖がりを克服させよう!」とトレーニングに熱心に取り組む飼い主様に、ひとつ覚えておいてほしいことがあります。それは「個性と問題を適切に区別して個性以上の結果を求めないこと」です。

怖がりを「その子の個性」ととらえるのか、それとも「克服すべき問題」ととらえるのかによって、直すべきかどうかも変わってきます。個性と問題の分かれ目となるのは、怖がりの「度合」です。

例えば、パピーの頃から、新しいおやつやおもちゃには飛びつくどころか少し距離を置いて観察し、他のわんちゃんが食べたり遊んだりする様子を確認してから、恐る恐る近づいてくる…というタイプのわんちゃんがいたとします。あなたなら、この行動を「怖がり」と表現しますか?このような性格は直すべきだと思いますか?筆者の意見としては、新しいものや環境に対して怖い気持ちはありつつも、周囲を観察して安全だと判断すると自ら少しずつ近づいてくることができているこのわんちゃんは、「怖がり」と言うより「慎重」な性格だと言い換えることができます。つまりこれはこのわんちゃんの「個性」なので、トレーニングによって慎重さの度合いを緩和することができたとしても、もともと持っている個性までは変えることができない、と考えます。

この点を、飼い主様は見誤りせずにわんちゃんを導いてあげなければなりません。つまり、もともと慎重派で控えめなわんちゃんが、努力次第で誰にでもしっぽを振って近寄っていけるような性格に100%なれるわけではない、ということです。

フレンドリーな性格のお友だちわんちゃんを見て「あんなふうになってほしい!」と願ってもそれは無理な話であることを、きちんと理解するべきです。もし、理解できていないままトレーニングを開始したとしても、結果うまくいかずに飼い主様もわんちゃんも心が折れてしまうことも…。

愛犬の生まれ持った個性をよく考慮したうえでトレーニングの着地点を的確に決めることがもっとも大切なのです。

怖がりを克服するための4つのトレーニング方法

ここまで、わんちゃんが怖がりになる原因と、怖がりの度合いやわんちゃん本来の個性を見極める大切さについてお伝えしました。

ここからは、日常生活のなかでわんちゃんが感じる恐怖心を克服するためには、どのようなトレーニングが有効なのかを、具体的にご説明していきます。

【方法①】お気に入りのおやつを用意する

「怖い」というネガティブな感情を緩和し乗り越えるためには、わんちゃんにとってポジティブな要素が必要となります。食いつきのよい、いつもよりちょっと嗜好性の高いおやつを準備して、すぐ手の届くところに置いておきましょう。お気に入りのおもちゃがあれば、それでもいいですね。

【方法②】弱い刺激から少しずつ上書きする

「早く直してあげたいから…」と、最初からパニックを起こすような強い刺激を与えるのは逆効果です。そうしたショック療法的なやり方は、よほど上手にやらないと恐怖心を強めてしまうだけになりますので、必ずマイルドな刺激から始めましょう。

適度な刺激の目安としては、大好きなおやつを食べれる余裕がある状態かどうか。まったく余裕がなくおやつに見向きもしないのであれば、それはわんちゃんにとって刺激が強すぎると判断できます。怖くて少しオドオドしてしまうけど、おやつを見せるとそちらに意識を向けることができる程度の刺激から始め、徐々にレベルアップしていくようにしましょう。

また、雷や花火などの音に怖がるわんちゃんの場合は、そのような音源をBGM代わりに、普段から小さい音量で流しておくのも効果的です。少しボリュームを上げてもわんちゃんが反応せずに普段通りでいるようなら、褒めながらおやつをあげることを忘れないようにしましょう。

【方法③】周囲の協力を得る

怖いものに慣らしていくトレーニングでは、周囲の協力を得ることもとても重要です。例えば人が怖いわんちゃんの場合、穏やかでわんちゃんに干渉しすぎない友人の手を借りてみましょう。人ではなく、他のわんちゃんを怖がる場合は、社会性が高く穏やかで安定した犬友達に協力を仰ぎましょう。

あなたのわんちゃんが警戒してビクビクしてしまったとしても、動じずいつも通り穏やかに振る舞ってくれる協力者がいると、トレーニングが順調に進みます。

【方法④】基本のトレーニングを強化する

怖がり克服のトレーニングと並行して、基本的なトレーニング(おすわり、まて、ふせ、おいで、など)を日常的に取り入れ、わんちゃんとの関係性を深めましょう。家の中で、お散歩中に、公園で…など、異なる環境でも安定して飼い主様の指示に従うことができるよう、毎日短時間で良いので繰り返し練習しましょう。

飼い主様の指示に従うといいこと(おやつをもらえる、褒められる)が起きるという学習をしていれば、恐怖心が生まれそうな場面に遭遇したときでも、飼い主様の「おいで」「おすわり」の指示で怖いものから意識を逸らすことができます。さらに、指示に従ったことを褒められる経験がわんちゃんの自信にもつながります。

怖がり克服トレーニングの注意点

トレーニングをはじめる前に、確認してほしい注意点をまとめました。楽しく且つ効果的に行うために、ぜひ参考にしてくださいね。

【注意点①】ポジティブな刺激を与えるタイミングが重要

例えば、人が怖いわんちゃんが、向かってくる通行人に吠えてしまうとします。もワンワン吠えている最中におやつを食べさせてしまうと、わんちゃんは「吠える=おやつがもらえる」と勘違いしてしまい、さらに吠えるようになる場合があります。そのため、おやつなどのポジティブな刺激は、わんちゃんが怖い!と感じて反応してしまう前の段階で与えるようにしましょう。

上の例で言うと、前から歩いてくる通行人にわんちゃんが気づく前に、飼い主様が気づいてあげることが大切です。そして、気づいた段階でわんちゃんの名前を呼び、わんちゃんが飼い主様に意識を向けたらおやつをあげて褒める、を繰り返します。はじめは怖い対象から十分な距離をとり、わんちゃんの気持ちに余裕がある状態をキープできるようにするといいでしょう。

【注意点②】同情・同調しない

オドオド・ビクビクしている、パニック状態でじっとしていられないわんちゃんに対して「可哀そうに…」「怖いのね」などと声をかけたり、身体に触れたりするのは逆効果です!ネガティブな心理状態のわんちゃんに飼い主が同情・同調すると、ますますネガティブを助長してしまい、いつまで経っても怖いものを克服することができません。

わんちゃんが怖がりであればあるほど、飼い主様は堂々と胸を張って、自信に満ちた心理状態を保ち「私がそばにいるから何の心配もいらないよ」という意識でわんちゃんに接することが大切です。常にどっしりと構えてどんな状況でも安定した心理でいる飼い主様ほど、わんちゃんにとって頼りがいのある存在はありません。「この人と一緒なら怖くない、大丈夫」という絶対的な安心感をわんちゃんに与えることができる家族を目指しましょう!

よりストレスのない生活を送るために心がけてほしいこと

怖いものが多く、いつもビクビクしながら生活するのは、わんちゃんにとって大きなストレスとなります。飼い主様にとっても、怖がりのわんちゃんの合わせて日常生活に制約が増えていくのは、あまり健全とは言えないでしょう。

わんちゃんにとって、人間社会には怖いと感じるものが多いかもしれません。しかしそこで「怖いと思っていたけど大丈夫だった」という経験を積み重ね、「未知なものをひとつでも多く減らしていくことができれば、わんちゃんと飼い主様のQOLは確実に上がるはずです。

「怖がりだから」「もういい歳だから」と諦めずに、まずは一歩踏み出してみましょう。難しいと感じたときには、専門家にアドバイスを求めることも大切です。あなたとあなたのわんちゃんが心穏やかに暮らすために、ぜひ今回の記事を参考にしてみてくださいね。

●ライター:キュウタ
ドッグトレーナーの資格を保有
●編集:うしすけチーム

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