見出し画像

『太鼓に踊る』 アルトゥーロ・ウスラル=ピエトリ (本の感想と見せかけた、ベネズエラの郷土芸能のはなし)

アルトゥーロ・ウスラル=ピエトリの短篇小説『太鼓に踊る』を読んだので、今日はそれについて。

まだまだ邦訳が少ないベネズエラの作家。ちょっと作品発表年すら判然としてないので、情報求む。
(1928年説と1949年説が…笑)

そういえば、実はベネズエラの正式な国名は《ベネズエラ・ボリバル共和国》。でも長くてめんどくさいから、ここでは「ベネズエラ」で通させて下さい。
〈シモン・ボリバル〉を無条件に英雄視してしまう歴史観も、あんまり良くなかったりする、みたいなことを言ってる人もいるし…(という言い訳)。

ではでは、作品のことを。


舞台は、ベネズエラ中北部のミランダ州アセベド市にある《カウカグワ》というところ。
もともとその辺りの地域には、アフリカ系のベネズエラ人が多く住んでいるらしく、そのために独自のアフロ的文化が根付いているのだとか。

この物語の主人公であるイラリオも黒人。
脱走兵なのだが、太鼓のリズムに逆らうことが出来ない彼は、逃走生活のさなかであるにも関わらず、太鼓が鳴り出した時に、女と一緒に踊ってしまう。その場を兵営の署長に発見され、捕らえられた。

このあと待ち受けているであろう鞭打ちに対する恐怖と、彼を踊りへと誘う陽気な太鼓のリズムが押し合いへし合いしている狂気。なんとも言えない気持ちになる。
あきらかに悲惨ではあるけれど、どこか「ノッている」というか。

そう言えば、有名なブラジルの映画『シティ・オブ・ゴッド』では、青少年ギャングたちによる救いようのないストーリー(そしてグロい)が展開されていくが、そのバックグラウンドでは、ずっと軽快なサンバのリズムが流れている。

絶望・恐怖・陰鬱さと同時に、なぜか明るげで疾走感のある、軽快な音楽的描写が提示される…というアンバランスさが、この『太鼓に踊る』にもみられるような…。



ちなみに僕は打楽器奏者なのだが、恥ずかしながらこの小説を読むまで、ベネズエラ北部の伝統的な打楽器である《ミーナ》という太鼓についても《クルベータ》という太鼓についてもまったく知らなかった。
…いやしかし「恥ずかしながら」とは言ったものの、日本人は打楽器奏者だったとしても、この太鼓のことを知っている人は、まずいないのでは?
日本語検索では全く引っかからないし。この楽器を演奏しています、という人も聞いたことがない。

一応英語版のウィキを調べてみたところ、ヒットはした。《ミーナ》と《クルベータ》はワンセットで演奏される楽器らしい。
どちらも形は似ていて、くり抜かれたグアバの木に、牛や鹿の皮で作られたヘッドを張っただけの片面太鼓。

※ウルグアイに「カンドンベ」という伝統的な打楽器アンサンブルがあるが、そこでは《チコ》《レピーケ》《ピアノ》という三種類の大きさの太鼓が同時に演奏される。イメージとしてはそんな感じかも。


***

《ミーナ》と《クルベータ》も、YouTubeで演奏動画を調べてみたところ、奏者は両手に撥を持って演奏していた。(途中で、片手は素手で、もう片手には撥を持ちながら叩く太鼓もあったけれど、あれはまた違う太鼓なのか…??)
台に乗せられた大きい(というか長い)の太鼓が《ミーナ》で、1人が打面を、その他何人かが太鼓の胴を叩く。

地面にそのまま立られて、叩かれている、どちらかというと小さい方の太鼓が、おそらく《クルベータ》だろう。(いやもしかすると、途中の片手素手のやつが《クルベータ》かな?わからん)

https://youtu.be/e0Li9PvYS7g


これがその動画。
動画途中で思わず、「いや、2人で担ぐんかい!!」とツッコんでしまう。


**

《ミーナ》と《クルベータ》によって奏でられるリズムアンサンブルは、(例えばブラジルで言うサンバと同じように)ベネズエラの中北部での祭りや宗教的な儀式の際には欠かせないものなのだとか。

そりゃあ、イラリオも踊っちゃうわな(笑)

**

ちなみに、ベネズエラは「ホローポ」という三拍子系のリズムの音楽が非常に有名で、そこで演奏されるマラカスが本当に超絶技巧。

僕はこんな凄まじい演奏はできませんが、日本の打楽器奏者で、とても素晴らしいベネズエラマラカスの演奏をされる、織本卓さんという方がいます。気になる方は是非検索を!

**

…最終的に『太鼓に踊る』からは、かなり脱線してのお届けになってしまった。

この作品よりもぶっちゃけ音楽の方が魅力的かも…(小声)

この記事が参加している募集

読書感想文

海外文学のススメ

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?