🌾 ヒンメリが生まれ、育まれる場所 vol.5 麦藁マスター セイヤ・カルシカス

ヒンメリを作っている人、ヒンメリに魅了されている人の声を紹介することで、ヒンメリの文化的な側面を考える「ヒンメリが生まれ、育まれる場所プロジェクト」。

第5回は、2018年12月に PÄIVÄN LEHTI が公開した記事をご紹介します。

Himmeleitä voidaan rakentaa jopa juomatölkeistä – ”Perinteinen joulukruunu syntyy suomalaisesta rukiinoljesta” – Päivän Lehti

寄り道しながら
ヒンメリを楽しむ

空き缶のプルトップからでもヒンメリは作ることができる
ー　伝統的なクリスマスのヒンメリ飾りはフィンランドの麦わらから誕生する

2018年12月24日公開　Anne Anttila

■ 新しい素材のヒンメリは季節を問わずインテリアの要素に取り入れられるようになった

ヒンメリはフィンランドの伝統的な手工芸を代表する一つで、その制作はときに世代を越えて引き継がれます。ラーへ出身の麦わらマスター、セイヤ・カルシカスさん（取材当時84歳）がはじめてヒンメリを作ったのは、彼女がまだ小さな女の子だったときでした。

セイヤさんは笑顔で話します。

「当然のことながら当時の記憶はごくわずかですが、ヒンメリ制作そのものが神聖な出来事だった、ということは心に残っています。わらを注意深く処理しなくてはいけなかったし、機械を使った作業でも同様に、ミリ単位の正確さが必要でした。でもそれが心地よかったんです。リビングのテーブルの近くでお姉さんたちが作業している輪に参加することを許可されたとき、6歳の私にもそれが特別なことだとわかりました。」

ところが、「次に」セイヤさんがヒンメリを作ったのは大人になってからでした。麦わらのヒンメリ飾りを制作することへの熱意は冷めていませんでしたが、時間が足りなかったのです。一家には4人の子供がいて、セイヤさんは家計を支えるために酪農場で働いていました。自由な時間はほとんどありませんでした。

「たった一つのヒンメリを作るときでさえ、子供たちと一緒でした。育児をしながら制作し、育児をしながらライ麦わらに関することや正確なハンドスキルを学びました。それがもうとにかく大変でした。でも、結局のところ、そうしたことは一晩で身につくものでもありませんでした。わらは何日も机の上をゆらゆらと回転していますが、その麦わらストローというのは一気に組み立てられ、ヒンメリになったのです。」

しかしながら、1970年代に制作された伝統的なわらのヒンメリは、移動中にヒンメリがドアの間に引っかかってバラバラになるなどして悲しい末路を辿りました。

「手工芸って簡単じゃないんです。だから落ち込みました。手工芸は創造力と時間と情熱から生まれます。そうやって完成した作品には、常に、作り手の手形が宿ります。」

■ 無理にひねらない

ヒンメリマスターとして知られるセイヤ・カルシカスさんは、何十年にもわたり、数十個のヒンメリを制作しました。大きなもの、小さなもの、簡単なもの、難しいものなど様々です。それらの飾りは伝統的なスタイルでわらから作られているように見えますが、海草やガラス管から作られたものあります。

「引退してからの私は、（これまで）趣味（として取り組んでいたヒンメリ制作）を全く新しいレベルまで引き上げることができました。何度も時計をチラチラ見たり、生活リズムを組み立てたりすることが必要なくなりました。ヒンメリづくりには、時間のほかに、創造の翼が欠かせないんです。」

セイヤさんは自身のことを、とにもかくにも、独学のヒンメリ作家だと話します。

「親からは伝統的な技法を教わりました。でも私はモダンな模型を作ることも学びました。その過程では感興をもよおしたり、間違いを重ねたりしました。モダンな模型のいくつかに関しては、制作方法だけではなく出来栄えに関してもまだ会得できていません。」

しかしながら、伝統的で人目を引きつけるわらのシャンデリアはどのようにして生まれたのでしょうか？

「無理やりにひねったりせず、忍耐強くやさしく扱うのです。とはいえ、ヒンメリ制作で最も大切なのはわらの品質です。品質が均一で、厚さも比例しなければなりません。当然のことながらライ麦のわらが最上級です。」

セイヤさんによれば、ヒンメリづくりはわらを処理することから始まります。

「時間を伴う作業ですが、注意して処理しなければなりません。まずわらをお湯に完全に浸してきれいにして、継ぎ目を切り落とします。このあとでわらをミリ単位で正確な長さに切り、そのときわらの端を真っ直ぐに整えます。」

■ 接着剤がピンチを救う！

ヒンメリの上部を形づくる土台の制作から組み立てを始めます。それには12本の同じ大きさのわらが必要です。まず取りかかるのが、三角形になるように並べた3本の藁を糸に通します。このあとでさらに2本のわらを糸に通して、先に作った3角形の先端に結びつけます。

「11本のわらを使いきるまで、わらの鎖を作り続けます。最後（12本目）のわらを糸に通すときに、糸の始まりと終わりを繋げます。最後に、わらの鎖の両端を短い糸で一緒に結びます。」

経験豊富なヒンメリ作家のセイヤさんは、例えば、小さな失敗を繕うことができる裏技も編み出しました。

「接着剤は最高の救命道具です。ヒンメリは他の方法では修理するのが難しいのですが、少なくとも、割れてしまったたヒンメリのわらは端っこを接着剤で繕うことができます。」

組み立てに必要な糸に関しても正確でなければならないとアドバイスします。

「織り機に使用されるような柔らかい縦糸はよい選択ですが、ボビン糸のようにかたい糸では、わらを切ってしまう可能性があります。」

今日、状態の良いライ麦のわらは多くの理由で探し求められています。ヒンメリ作家たちは、（ライ麦に代わる）他の素材にも可能性の幅を広げています。セイヤさんも近年は海草やガラスからヒンメリを作っています。

「かなり極論ではありますが、ヒンメリは真ん中に空洞がある、あらゆる管状の物質から作ることができます。」

しかしながら、ラーへの手工芸の職人たちは可能な限り伝統的なやり方でヒンメリを制作したいと考えており、セイヤさんは彼らの意に背くことを望みません。

「海草は制作過程と成果物の点で特に優れた選択であることを証明しています。伝統的なわらよりも扱いが簡単で、素材としても耐久性があります。」

■ 集中して　正確に

その代わり、セイヤさんは海草を手に入れるポイントは天候とカレンダーをチェックすることだとアドバイスします。

「手に入れるのに最も適した時期は早春です。その時期、海草は品質が良く、余分なものもほとんどゴミになりません。でも私は両腕で抱えられるだけの干し草を選ぶことをお薦めします。海草の場合も常に十分な予備がなければならないからです。」

ヒンメリ制作の最も新鮮な素材に含まれるガラス管にも、セイヤさんは肯定的です。

「これらの現代的な作品には（通常のわらで作るヒンメリとは）かなり異なる手技が必要とされます。例えば、針は非常に細いものでなければなりません。そしてガラスのストロー に問題があっても、手荒な扱いには耐えられません。ガラスのストローには糸を誤って切ってしまう可能性もあります。そのため、ストロー の両側を常に確認して、必要に応じて接着剤で平らにすると良いです。」

ヒンメリはプラスチックストロー からも作ることができますが、セイヤさんはこの素材については（議論の）片隅に置いておくと話します。

「プラスチックストローで作られた作品は、どういうわけか、どこか冷たくて不自然な印象です。でもプラスチックストローは練習にとても良く適しています。」

経験豊富な職人のセイヤさんは、いくつかの素材を組み合わせてヒンメリを作ったりもしています。

「藁や海草、ガラスのような素材はそれぞれ組み合わせることができます。非常に刺激的な作品が完成するでしょう。」

ヒンメリ制作は、手工技術を要求する手技だけでなく、頭の運動にもなります。組み立てには興味に加えて、正確さや知覚、それから鉄のように強靭な集中力が必要です。

「経験上、（作業中の）しくじりから成功は生まれないと言えます。小さな綻びが、有名なスタイルのエッジを奪ってしまうこともあり得るのです。」

セイヤさんは、自身は より頻繁に “ 寄り道” をする戦術で ヒンメリを作る職人に属していると語ります。

「時々、完成までに何日も必要とすることがあります。” ヒンメリの目”　にも休息を与えるためです。その間は、仕事の経過を確認したり、素材を見たりするのが良いです。疲れた状態では、わらのパーツに質の悪いものが残るかもしれませんし、そして残念なことに制作中の作品に反映されてしまいますから。」

2018年12月24日公開 PÄIVÄN LEHTIを翻訳

どうにもならないときも諦めない
「今」じゃないだけ

セイヤさんとヒンメリとの出会いは幼少期まで遡ります。取材当時84歳だったということは、フィンランドではいわゆる団塊の世代。戦争賠償金を支払うために国家が一丸とならざるを得なかった困難な時代に、はじめて麦わらでヒンメリを作ったんですね。

幼少期の情熱をずっと心の中で暖めながら、家計を助けるために働きに出て、ようやく機会が訪れたときには子育ての真っ只中。苦労しながらも独学でヒンメリとライ麦わらをマスターしました。

「自分ができること。自然とそうなること。努力すれば巡ってくる場合もあること。欲張らずに楽に考える。」

何で読んだのか忘れてしまったけど、なんだかうまくいかないなぁーというときにこの言葉を取り出して自分を励ますことがあります。

セイヤさんの記事を翻訳しながら、彼女にきちんと機会が巡ってきたことがとても嬉しかったです。

翻訳テキストの「海草」、元々のフィンランド語は「meriheinä」です。googleで画像検索すると、「なるほど、こんな感じね」とイメージが掴みやすいと思います。

この記事の最後には、エイヤ・コスキさんのご著書が引用されています。次回はその内容を翻訳してご紹介したいと思います。