雇用契約の終わり方

人を雇うと、雇用主と労働者との間に雇用契約というものが成立します。実際に契約書が作られるかどうかにかかわらず、これは一種の契約が存在することを意味します。

契約というものは、お互いが合意しないと成立することはありません。一方的に誰かとの契約を成立させることはできないのです。しかし、契約が終わる時は、一方的に終わらせることもあります。

雇用契約の終わり方は、簡単に整理すると3パターンあります。
① 労働者が「退職届」を出して終わる
② 労働者が「退職願」を出し雇用主がそれを承諾して終わる
③ 雇用主がクビにして終わる

雇用契約は合意により成立するので、合意により終わらせることもできます。②がそのパターンです。

これに対して①③は、一方的に雇用契約を終わらせるパターンです。①と③との違いは、労働者と雇用主とのどちらの判断で雇用契約を終わらせるかの違いです。①と③は、いずれも、独断での雇用契約の強制終了という点では共通です。
契約は合意(両者の意思の合致)により正当性を支えられているため、継続性のある契約については、いずれかの意思が欠ければそれ以降の存在基盤を失うことになります。ですので、どちらかがやめたいと思えば、そこで終了することになるはずと考えられます。

雇用契約は継続性のある契約ですので、上記の理屈があてはまりそうです。
①のパターンはまさにその理屈であり、労働者が「辞めたい」と思えば、原則として辞められることになっています(有期雇用は別です。)。つまり、労働者の一方的な意思により雇用契約を強制終了にすることができます。
もっとも、退職届をいつまでに出すべきかは、会社の就業規則で書かれています。法律的には2週間前で良いですが、もっと前の時期に設定されていることが多いです。

反対に、③のパターンの方はそうはなっていません。
原則的な考え方からすれば、雇用主も一方的に雇用契約を終了させられるはずですが、法律により大幅な修正がなされています。これは、原則どおりにしてしまうと、労働者を簡単にクビにすることができてしまうので、労働者の不利益が大きすぎるからです。その結果、法律では、原則として一方的な雇用契約の終了、つまり解雇はできないとされています。

例外的に、よっぽど正当な理由がある場合だけ解雇が可能です。つまり、正当な理由がないのに解雇をしても、その解雇は無効となります。無効なのでまだ雇用契約は続いているということです。雇用契約が続いている以上、就労の義務と賃金支払い義務がまだ発生しています。ただ現実には、解雇の通知は就労拒否のメッセージを意味するので、労働者は出社できません(テレワークでも働けません。)。その結果、会社側のせいで、働きたくても働けなかったということになります。この状態になると、法律の定めにより、働いていないのに賃金だけ発生し続けるという事態が生まれます。
実際に多くの労働訴訟では、解雇を告げられた労働者が解雇の無効を主張して、その後の給料を請求するという事案がたくさんあります。訴訟が何年もかかれば、その期間の給料がずっと発生し続けるということです。
会社にとって解雇処分はかなりのリスクがある手段ということになります。

このように、労働者の自主退職や合意退職は自由にできるけど、雇用主から解雇は基本的にはできず、リスクが大きいという大原則があります。そうすると、簡単にクビにできないことを知っている雇用主が、労働者を説得して退職届や退職願を出させることもあり得ます(退職勧奨)。
あくまでも表面的には解雇ではないので、労働者から提出された退職届などは一応有効となります。しかし、説得の仕方が強引すぎる場合は、問題があります。「退職届を出さなければ解雇する」と言われて退職届が出されたとしても、これは解雇がなされたのと同じと考えられますし、そこまでいかなくても、労働者の自由な判断を妨げる心理的圧迫が加えられた場合などは違法になることもあります。