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"楽しい"からはじまる小さなまちの気候アクション DAY 1

2050年カーボンニュートラル実現に向け、人口3700人の北海道上川町をフィールドに、気候変動を学び、アクションを共創する第2回ゼロカーボン・アカデミのイベントレポート第一弾。

自分ごと化しにくい地方の気候変動緩和策

2020年10月、日本政府は2050年までに温室効果ガスの排出を全体としてゼロにする、カーボンニュートラルを目指すことを宣言しました。それに伴い、多くの地方自治体がゼロカーボンシティ宣言を表明しています。

しかし、人口減少や少子高齢化、地域衰退などの深刻な問題を抱える地方自治体にとって、世界規模の気候変動緩和策は、優先順位が低くなりがちです。存続が危ぶまれているような町の住民からすれば、世界の未来のことを気にしている場合じゃない!という本音もあるのかも?住民がゼロになり、ゼロカーボン達成というのは正直、笑えない…。

全世界が取り組まなければ、達成できない目標なのは言うまでもないですが、日本のCO2排出量は世界全体のわずか3%。さらに、人口4千人足らずの上川町のインパクトは数字だけでみると微々たるもの。「上流の水質汚染で自分たちが飲む飲料水が汚れる」というような環境問題は、誰でもイメージしやすいですが、時間軸が数十年に及び、世界規模の影響がある気候変動は自分ごと化しにくい性質を持っています。道庁主催ゼロカーボンアカデミーでは、そんな課題を克服できるのか!?

森からはじまるゼロカーボンアカデミー

11月初旬、雪がちらつく中、かみかわ版ゼロカーボン・アカデミー第2期生の高校生、大学生、留学生、社会人など18名が道北各地から集まりました。

寒い中、焚き火を囲むとはじめましてでも会話が弾む。

最初のフィールドは、上川町中心部からほど近い「エサウシ・フィールドミュージアム」。森林を育み、まだ見ぬあたらしい森と共生するくらし方をみんなでつくる場所として、上川町役場の平松悠揮さんが中心となって、次々と学びや観光のプロジェクトが生まれています。

上川町役場で森を生かしたプロジェクトを次々と仕掛ける平松悠揮さん。

アカデミー生同士もリアルで会うのは初めて。自己紹介は森にあるもので自分を表現する「森の名刺」ワーク。近くても、普段はなかなか行くことがない森で遊びながら、少しずつ森に馴染んでいきます。

自分や今の気持ちを森の中のもので表現。

次は、目を瞑ってペアで森の中を歩く、ブラインドウォーク。目が見えないというのは初めは怖いですが、普段は感じない森や風の音や、木々のほのかな香りを感じるなど、徐々に五感が研ぎ澄まされていきます。

五感を研ぎ澄ませていく「森のブラインドウォーク」

転びそうになったり、ペースを合わせたり、みんな自然と笑顔になり、距離もグッと縮まります。一見すると寒くて何もない11月の森ですが、いっしょにいる人や視点を変えれば、こんなに楽しくなるのが不思議です。

現代は、住まいや食においてもますます便利になる反面、気が付かないうちに、自然と暮らしの距離が離れてしまっているように思えます。人は自分に関係ないと思っているものは大切にできないもの。アカデミーでは、森や自然の中で遊び、好きになってもらうことをきっかけとして、地域や世界の環境について身近に感じることも大事にしています。

目を瞑ると新しい森が見えてくる。

森で腹落ちするカーボン・フットプリント

事前オンライン研修では、それぞれのカーボンフットプリント(二酸化炭素排出量)を計算してみました。フットプリントの計算サイトはいくつかありますが、日本語対応しているものだと、Code for Japanさんの「じぶんごとプラネット」がおすすめです。

日本人一人当たりのカーボンフットプリントは、7.6トン(tCO2e)です…と、重さで言われても、ピンと来ないですよね。そもそもCO2って重さがある(あるんです)?7.6トンって、どのくらいなのか、直感でイメージしにくいですよね。

この木に含まれるカーボンってどのくらい?

せっかく森にいるので、木1本に換算してみることに…。

樹齢35年で、高さ18m、幹が体の幅より狭い直径20cm、の幹・枝葉・根に固定されている炭素の量は、約68kg

(独)森林総合研究所

日本人一人の年間平均CO2e排出量、7,600 kgは、炭素量にすると2072 kg(二酸化炭素量に12/44を掛けると、炭素量となります)。2072 ÷ 68 の単純計算で木に置き換えると、1人で樹齢35年の木30本分が蓄えている量の炭素を毎年排出している計算になります。腹落ちまではいかずとも、身近なものでどのくらいのCO2を排出しているかの解像度が少し上がってきました。

他国との比較で見てみると、アカデミー生イブリンさんの故郷ガーナでは一人当たりのCO2e排出量が0.7トンと日本の約1/10。CO2e排出量が少ないにも関わらず、貧困などの課題を抱える途上国で気候変動の大きな影響が出ていることも、「Climate Justice(気候正義)」として問題になっています。

森からエネルギーへ、再エネは難しい…。

上川町の絶品ラーメンで体を温めたあとは、森を離れて、町内の協同組合が運営するウッドチップ工場へ。ここでは、地域で生産されるトドマツやカラマツなどの針葉樹の中で、材木として使えない木質をチップと大鋸屑に加工しています。チップは、町内の温浴施設やキャンプ場、近隣市町村の発電施設でバイオマスボイラーの燃料として利用されています。エネルギー以外にも、おがくずは家畜の敷料としても利用されています。化石燃料が高騰する中、温浴施設では年間約300万円の節約にもなっており環境面に加え、経済的なメリットも見えてきました。

チップを加工し、乾燥させることで含水率20%以下のウッドチップを生産

バイオマスエネルギーは、環境にやさしそうというイメージがある一方で、最近ではEUが「森林バイオマスはカーボンニュートラルではない」と認める報告書を公開するなど、議論が続いています。エネルギー利用の増加によって、成長を上回る量の森林伐採が起きていたり、生物多様性を損なっていたりすることが問題になっています。

森林が約94%を占める上川町でも、町内からの材の調達は約5割にとどまっており、不足分は愛別や当麻から調達されています。

気候変動についての、モヤモヤを共有する

チップ工場から、宿泊先の層雲峡オートキャンプ場に移動し、まずは、気候変動についての疑問や気になることを付箋に書き出してみます。

一人ひとりモヤモヤを書き出して、グループでシェア。
  • 子どもの頃より雪が減ってる気がするけど、本当?

  • 一番影響を受ける国はどこ?

  • 北海道も夏は暑くなった気がする。虫も多くなった?

  • 異常気象が起こるメカニズムを知りたい・

  • CO2の排出量を一人ひとり自覚する機会がない

  • EVは製造過程でCO2がたくさん出るって本当?

  • 結局、日常でわたしたちができることって何?

…などなど、ニュースなどでは毎週のように目にする気候変動問題ですが、分野が多岐にわたり、複雑で科学的にはっきりとわかっていないことも多いことからか、次々とモヤっとポイントが出てきます。

気候変動モヤモヤ、ノート

フィールドワークでの学びも参考にしながら、たくさんのモヤモヤが出てきました。ディスカッションを通して、今、科学的にわかっていること、わかっていないことを学び、少しずつモヤモヤを解消していきます。

美味しいは正義!環境にも優しいビーガンフード


「楽しく」がモットーのゼロカーボン・アカデミー、小難しい話は一旦置いておいて、美味しそうな匂いのするキッチンへ。おとなり当麻町でビーガンカフェを営む、Amahoro Organicのロッタ(木村由希子)さんをゲストに迎えビーガンクッキングがスタート。今日の献立は、大豆ミートを使った唐揚げと、ビーガンカレー二種類。ビーガンと聞くと、ヘルシーそうだけど、物足りなさそう、という先入観がありますが、そのお味は…!?

自分の体調を壊したことをキッカケに、ビーガンへと食を見直し、生き方を変えたロッタさん。

揚げたて熱々の大豆ミートの唐揚げは、見た目では違いがわからないほど…一口味見してみると、なんと味も唐揚げ!食べ応えもあり、大豆ミートだと言われないとわからない美味しさ。カレーも肉が入っていないのに、食べ盛りの大学生も大満足の美味しさでした。

食べ盛りの大学生もこの笑顔。

食と気候変動

ゼロカーボンと聞いて「食」は連想しにくいかもしれませんが、わたしたちが排出する温室効果ガスの約2割は食糧に起因しています。食品生産物1kgあたりの温室効果ガスをみると、例えば1kgの牛肉を生産するのに60kgのCO2eが排出されるのに対し、豆はたった1kgであるなど、食品ごとに大きな違いがあります。

1日目のプログラムの中でも一番アカデミー生の食いつきが良かったビーガンクッキング。気候変動という言葉を使わなくても、健康や地域交流を軸にしたクッキングクラスや、地産の農産物を生かした商品開発など、「食」という万人に共通する入口は、ゼロカーボンシティ実現の上でも多くの可能性を秘めていると感じた時間でした。

1日目プログラム終了後は、氷点下に冷え込む中で、みんなで焚き火を囲みました。歌ったり、マシュマロを焼いたり、たわいもない話をしたり。学びももちろん大切ですが、自然の中で仲間で過ごすこの時間も、持続可能な社会をつくる上でのヒントになる予感がしています。

シンガソングライターのAmaneさんのオリジナルソングを聞きながら。

DAY 2は、いよいよ気候アクションにつなげるアイディアソンです!

ゼロカーボンシティ推進で、市民との協働やアクション創出などにお困りの方はお気軽にお問い合わせください。






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